64 / 90
◇第6章◇優しくて不器用なひと
64 たくさんの嘘
しおりを挟む
出口の見えないトンネルをさ迷っているみたいだ。
僕はクスクスと自嘲気味に笑う。
「雷さんと一緒ですよ。律は僕に恋愛感情を抱けないって。男だから」
「ん?」
「ノンケの人に恋をするのは、もうやめます」
僕はさっと立ち上がり、設置されているゴミ箱にカップを入れた。
雷さんは僕の言ったことを考えるように黙り込んで、ぱちぱちと目を瞬いている。
「ちょっと待って。振られたのは、律がノンケだからって理由で?」
「はい。男の体にはそそられないって」
「それは嘘だね。アイツはゲイじゃないけど、ノンケでもないよ」
「はい?」
何を言っているのだ、この人。
首を傾げていると、雷さんはポケットからスマホを取り出して操作しながら淡々と告げた。
「マジだよ。俺、ちょっと前まで律が男と付き合ってたの知ってるもん」
「え……」
ドキドキと心臓が鼓動する。
その精悍な顔つきから、嘘を言っているようには見えなかった。
雷さんの指がスワイプする。
あ、と指を止めて、画面を見せてきた。
「こいつだよ。元カレ」
「本当ですか?」
「だからマジだって。隠し撮りしたんだから」
「いや、どうして隠し撮りなんか……」
「うるせぇな。律にムカついた時に拡散してやるって脅すためだよ」
本当か嘘か定かでは無いが、僕はとりあえず写真に目を凝らす。
撮影スタジオらしき所で、律ともう1人、男の人が向かい合って何かを話している姿が映っていた。
そういえば雷さんはこの間、律の付き合っていた人が何度か仕事場に迎えに来ていたのだと言っていた。
性別が同じだとは思わなかったが。
「俺の話が嘘だと思うなら、直接アイツに聞いてみな」
まじまじと写真を見つめていた僕は、ハッと息をのんだ。
相手の人って、もしかして。
止めていた息を吐き出した僕は、踵を返してその場から駆け出した。
今から会いに行ってもろくなことにはならないと分かっているのに、止められなかった。
傷付きたくない。
傷付けたくないのに。
律は僕にたくさんの嘘を吐いていた。
僕はクスクスと自嘲気味に笑う。
「雷さんと一緒ですよ。律は僕に恋愛感情を抱けないって。男だから」
「ん?」
「ノンケの人に恋をするのは、もうやめます」
僕はさっと立ち上がり、設置されているゴミ箱にカップを入れた。
雷さんは僕の言ったことを考えるように黙り込んで、ぱちぱちと目を瞬いている。
「ちょっと待って。振られたのは、律がノンケだからって理由で?」
「はい。男の体にはそそられないって」
「それは嘘だね。アイツはゲイじゃないけど、ノンケでもないよ」
「はい?」
何を言っているのだ、この人。
首を傾げていると、雷さんはポケットからスマホを取り出して操作しながら淡々と告げた。
「マジだよ。俺、ちょっと前まで律が男と付き合ってたの知ってるもん」
「え……」
ドキドキと心臓が鼓動する。
その精悍な顔つきから、嘘を言っているようには見えなかった。
雷さんの指がスワイプする。
あ、と指を止めて、画面を見せてきた。
「こいつだよ。元カレ」
「本当ですか?」
「だからマジだって。隠し撮りしたんだから」
「いや、どうして隠し撮りなんか……」
「うるせぇな。律にムカついた時に拡散してやるって脅すためだよ」
本当か嘘か定かでは無いが、僕はとりあえず写真に目を凝らす。
撮影スタジオらしき所で、律ともう1人、男の人が向かい合って何かを話している姿が映っていた。
そういえば雷さんはこの間、律の付き合っていた人が何度か仕事場に迎えに来ていたのだと言っていた。
性別が同じだとは思わなかったが。
「俺の話が嘘だと思うなら、直接アイツに聞いてみな」
まじまじと写真を見つめていた僕は、ハッと息をのんだ。
相手の人って、もしかして。
止めていた息を吐き出した僕は、踵を返してその場から駆け出した。
今から会いに行ってもろくなことにはならないと分かっているのに、止められなかった。
傷付きたくない。
傷付けたくないのに。
律は僕にたくさんの嘘を吐いていた。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる