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◇第7章◇優しくて大好きなひと

85 ふたつはひとつ【終】

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 カシャ、とシャッター音が鳴って横を向くと、一眼レフカメラを手にした律にふふっと笑われた。

「なんだか妖しい微笑みをしてましたよ」
「し、してないしてない」

 素晴くんが彼にどんなお仕置きをされるのだろうかと考えてワクワクしていただなんて、恥ずかしくて言えない。

 律は僕の隣に腰を下ろして足を投げ出した。
 5年前みたいに、何も言わずにただ海の動きを目で追って、2人の時間を共有した。

 会話は無くても、特別な言葉は無くても、心は充溢感に溢れていた。
 手を体の横に付くと、律の手が僕の手の上に重なり、指が差し入れられる。

 ふと、薬指に違和感を持ってそこを見た。
 太陽の光でキラリと輝いたのは、指輪だった。

「……え」

 僕は目の前に手を広げてまじまじと見る。
 まるでマジックのように、綺麗にそこに収まっていた。

「俺からの、最初のプレゼントです。貰ってくれますか?」
「……え、えー」

 信じられなくて、間抜けな声でしか反応できない。
 恋人同士になったら、キスしたりエッチしたり、とにかくたくさん一緒にいられたらそれでいいと思っていた。幸せ過ぎて、これ以上高望みしてはいけないと。

 律の手を見ると、僕と同じ薬指が光り輝いていた。
 律と何かお揃いのものを持ちたいって、心の中で思っていただけなのに。

「あ、最初、ではないですかね。5万円をきみにプレゼントしたから」
「あれはノーカウントでしょ。結局僕が持ってるけど、受け取ったつもりはないし……」

 ああもう、そんなことは今はどうだっていいのだ。
 僕は律の服を引っ張って、強引に唇を奪った。
 ツンデレドSカップルの視線に気付いたけれど、僕は構わず、愛の言葉を囁いた。

「大好き。ありがと」
「俺もです。こちらこそ受け取ってくれてありがとう」

 唇を綻ばせて、今度は僕がキスを受け止める。
 腰に手を回されてぴったりと体の半分をくっつけられると、2つが1つになった気分だ。

 僕は満ち足りた気分で目を閉じた。
 この波のようにいつまでも続く2人の未来を願った。

 律となら叶えられるかもしれないと思ったから、願っていたのだ。





 どるんどるんどるん。
 重低音を響かせたバイクに乗った律は、僕に手を差し出した。

「おいで」

 もうすっかりバイクに慣れた僕は、律の手を借りなくても容易く後部座席に乗り込めることを知っている。だけど僕は今日も、律の手を取る。

 律の腰に手を回して、きゅううと力を込めて抱きしめる。
 律がぽんぽんと僕の手をたたくと、同じ指輪がキラリと光って重なる。

 風を切って走るのが爽快な季節になった。
 律の着ているシャツがバタバタとはためく。

 赤信号に捕まると、律は僕を振り返ってくれる。
 何度目かの振り返りで、僕はヘルメットの中で言った。
 ちゃんと聞こえるように。

「律! 好きだよ!」

 律もくぐもった声で「俺も、千紘が好きです」と返してくれた。
 妄想ではなくて、本当の話だ。

 雷さんから惚気たっぷりの電話と、恋人とのツーショットの写真が何枚も送られてくるのは、これからもう少し、先の話。






                おわり*





☆読んでいただき、ありがとうございました! 少しだけ番外編がありますので、よろしければそちらもどうぞー(∩´∀`)∩
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