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◇第5章◇優しくて切ないひと
54 バチバチ
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仕返しにちょっと意地悪するつもりで、僕は頭上を見上げたまま訊ねた。
「素晴くんは、好きな人とは何か進展はあったの?」
「えー? 別に変わんないよ。仲良くも悪くもないし、相変わらずあっちは何考えてんのか分かんないし」
「一緒に出かけたりとかは?」
「たまにするけど、全部俺から誘ってる。あっちから誘われたことはないよ……エッチする時だって」
素晴くんの手が、僕の手をきゅっと握る。
迷子の子どもが怯えて大人の手を握るみたいなその力強さには、着地点の見えない恋愛へのやるせなさが表れているのかもしれない。
「俺から誘えばしてくれるけど、あっちからは1回も無い。だから俺が連絡しなければ、きっとこの関係は簡単に終わるんだと思う。俺がいなくなったとしても、彼にとっては別に差し支えないんだろうね……くやしいけど」
めずらしく後ろ向きな発言に、その彼への本気度が伝わってきた。
僕は慰めようにも言葉が見つからなくて黙り込んでしまうと、素晴くんは湿っぽくなっていた空気を払拭するようにえへへと笑った。
「ごめん、つい愚痴っちゃった。こんなこと話せるの千紘くんだけだから」
「いいよ。僕で良ければ、たくさん話聞くから」
「ありがと。じゃあとりあえずこのまま、手を握っててくれる? 千紘くんも、律さんと繋いでるつもりでいてくれればいいからさ」
僕が律とそうしたいように、素晴くんも好きな彼と手を繋いで心を通わせたいのだろう。
僕もきゅっと握り返して、キラキラと輝く満天の星空を見つめた。
上映終了のアナウンスが流れる。
僕は満足気なため息を吐いてから素晴くんと手を離して立ち上がる。
すぐに律が、人の間を通り抜けてこちらにやってきた。
「綺麗でしたね」
「うん。ヒーリング曲が流れて来た時に寝そうになっちゃったよ」
んーと伸びをすると、律が「じゃあ行きましょうか」と座っている素晴くんにも穏やかな笑みを向ける。
「はーい。じゃあ行こっか、千紘くん」
立ち上がり、出口へ向かう人達の中にすっと紛れ込んだ素晴くんは、宣言していた通りに僕の手をきゅっと掴んだ。
当然それは、律の目にもちゃんと映っている。
恋愛とは違う類のドキドキが胸に湧く。
律がどんな顔をしているのか気になって、振り返ってみてドキリとした。
律の眉間にシワが寄っている。
律は人見知りを発揮するときにそういう顔になる癖があるらしいけど、今のはきっとそれではない。
明らかにこの行為を嫌悪している。
あれ、てことは結構いい感じなのでは……?
戸惑いと喜びを混じらせた感情で律を見つめていたら、急に名前を呼ばれた。
「千紘!」
ビクッと肩を竦ませると、素晴くんも驚いたように律を振り返る。
周りにいた人たちも不思議そうに見つめるけれど、その刺さる視線を少しも気にせずに律は大股で僕のところへやってきた。
「階段。転びますよ」
「へ?」
すっと腕を持ち上げられ、素晴くんと繋いでいた手を解かれた僕は前を向く。
僕のすぐ足元には段差があった。後ろ向きで歩いていたら、間違いなく踏み外してすっ転んでいただろう。
てっきり、素晴くんに妬いたからあんなにでっかく名前を呼んだのかと思った。
「あ、ありがとう」
「それにきみも、こんな人の多い場所で無理に引っ張らない方がいいかと」
律の目が素晴くんへ向かう。
素晴くんは萎縮するどころか余計に笑顔になった。
「すいませーん! 俺、すぐ人とはぐれちゃう性質があるんでつい」
言いながらふふんと口の端を上げている。
すぐ人とはぐれる性質ってなんだ。
律はむむ、と訝しむ表情で素晴くんを見つめ返した。
バチバチと、2人の間に火花が散っている気がした。
「素晴くんは、好きな人とは何か進展はあったの?」
「えー? 別に変わんないよ。仲良くも悪くもないし、相変わらずあっちは何考えてんのか分かんないし」
「一緒に出かけたりとかは?」
「たまにするけど、全部俺から誘ってる。あっちから誘われたことはないよ……エッチする時だって」
素晴くんの手が、僕の手をきゅっと握る。
迷子の子どもが怯えて大人の手を握るみたいなその力強さには、着地点の見えない恋愛へのやるせなさが表れているのかもしれない。
「俺から誘えばしてくれるけど、あっちからは1回も無い。だから俺が連絡しなければ、きっとこの関係は簡単に終わるんだと思う。俺がいなくなったとしても、彼にとっては別に差し支えないんだろうね……くやしいけど」
めずらしく後ろ向きな発言に、その彼への本気度が伝わってきた。
僕は慰めようにも言葉が見つからなくて黙り込んでしまうと、素晴くんは湿っぽくなっていた空気を払拭するようにえへへと笑った。
「ごめん、つい愚痴っちゃった。こんなこと話せるの千紘くんだけだから」
「いいよ。僕で良ければ、たくさん話聞くから」
「ありがと。じゃあとりあえずこのまま、手を握っててくれる? 千紘くんも、律さんと繋いでるつもりでいてくれればいいからさ」
僕が律とそうしたいように、素晴くんも好きな彼と手を繋いで心を通わせたいのだろう。
僕もきゅっと握り返して、キラキラと輝く満天の星空を見つめた。
上映終了のアナウンスが流れる。
僕は満足気なため息を吐いてから素晴くんと手を離して立ち上がる。
すぐに律が、人の間を通り抜けてこちらにやってきた。
「綺麗でしたね」
「うん。ヒーリング曲が流れて来た時に寝そうになっちゃったよ」
んーと伸びをすると、律が「じゃあ行きましょうか」と座っている素晴くんにも穏やかな笑みを向ける。
「はーい。じゃあ行こっか、千紘くん」
立ち上がり、出口へ向かう人達の中にすっと紛れ込んだ素晴くんは、宣言していた通りに僕の手をきゅっと掴んだ。
当然それは、律の目にもちゃんと映っている。
恋愛とは違う類のドキドキが胸に湧く。
律がどんな顔をしているのか気になって、振り返ってみてドキリとした。
律の眉間にシワが寄っている。
律は人見知りを発揮するときにそういう顔になる癖があるらしいけど、今のはきっとそれではない。
明らかにこの行為を嫌悪している。
あれ、てことは結構いい感じなのでは……?
戸惑いと喜びを混じらせた感情で律を見つめていたら、急に名前を呼ばれた。
「千紘!」
ビクッと肩を竦ませると、素晴くんも驚いたように律を振り返る。
周りにいた人たちも不思議そうに見つめるけれど、その刺さる視線を少しも気にせずに律は大股で僕のところへやってきた。
「階段。転びますよ」
「へ?」
すっと腕を持ち上げられ、素晴くんと繋いでいた手を解かれた僕は前を向く。
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てっきり、素晴くんに妬いたからあんなにでっかく名前を呼んだのかと思った。
「あ、ありがとう」
「それにきみも、こんな人の多い場所で無理に引っ張らない方がいいかと」
律の目が素晴くんへ向かう。
素晴くんは萎縮するどころか余計に笑顔になった。
「すいませーん! 俺、すぐ人とはぐれちゃう性質があるんでつい」
言いながらふふんと口の端を上げている。
すぐ人とはぐれる性質ってなんだ。
律はむむ、と訝しむ表情で素晴くんを見つめ返した。
バチバチと、2人の間に火花が散っている気がした。
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