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◇第4章◇優しくて意地悪なひと

51 素晴の恋

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『じゃあ次は、頑張って後ろを掘られてみたら?』
「はっ?!」
『気持ち良くなってもらえたら、律さんの考えも変わるかもよ?』

 とんでもない提案に引き気味に「そ、そうかな?」と答えるが、確かにそれは一理ある。
 いきなり掘られるのは躊躇うけど、僕が一方的にされるのではなく、せめて律と一緒にシたい。

 しかし考えているうちに、心に引っかかるものがあった。

「けど、セフレみたくなっちゃうのは嫌なんだよね」

 セックスまではギリしていないから、今のところはセミセフレ?

 責任取ってとあの時に勢いで言ってしまったのが元凶なのだが、僕はただ、律に好きになってもらいたいだけだ。
 体が繋がっても心が繋がらないんじゃ、虚しくなってしまう。

『まぁそうだろうけど、ノンケの人に男を好きになれって言っても難しい話だよねー。千紘くんがやめたいって言わない限りは今の関係は途絶えないんだから、とりあえずこのままでいたら?』

 簡単に言うけど、それがちょっと寂しいと感じている僕の気持ちに素晴くんは気付いていない。
 最終的には『セフレが嫌ならこの際、愛人ってことにすればいいじゃーん』などとのたまっている。

 愛人とセフレの違いを教えてほしい。
 だがこれだけは分かる。
 どっちにしても僕は、律の1番にはなれないということ。

「もし僕の立場が素晴くんだったらどうする? このままでいる?」
『うん、いる。っていうか今の俺がそんな状況だし』
「え?」

 聞けば素晴くんは教えてくれた。
 僕がカンニングの件で謝りに行った日の帰り道、なんとなく気になって、男の人に興味を持つきっかけを作った相手に連絡をし、その日のうちに会ってきたらしい。

 素晴くんもその人に「責任取ってよ」と冗談交じりに文句を言ったら相手はまた本気にしたようで、そこからズルズルと体の関係が始まったのだと。

『俺の場合は完全なるセフレだよ。お互いに好きだとも嫌いだとも言わないし』
「ええー……素晴くんはそれでいいの?」
『んー、分かんない。あっちが俺のことあんま好きじゃないのかなって思うから、特別な恋人になることは諦めてるかも』

 曖昧な関係を深く突っ込むと「ならもう会わない」と何の躊躇いも無く関係をばっさり断ち切りそうな相手なのだと言う。
 体の相性はいいし、だったら短い人生、難しいことは考えずに楽しんでおこうというのが素晴くんのスタンスらしい。

『彼を独り占めしたいって気持ちは早い段階で無くしたんだ。そしたらすごく楽になったよー』

 あはは、とあっけらかんと笑うけど、なんだか無理をしている気がして僕は何も言えなくなる。
 独り占めしたいって思うくらいに、相手をもう好きになってるじゃん、素晴くん。

 僕も割り切って律と付き合っていければ楽なのかな。
 考えたが、どうしてもそれでは満足できない。無理だとしても、律の心を手に入れたいし独り占めもしたい。

「僕はまだ全然だな。好きだっていう女の人は早く諦めて欲しいし、僕だけを見て欲しいって思ってる」
『まぁ、千紘くんの場合は俺よりも見込みがあるよ! だって律さんも千紘くんが好きだって言ってくれたんでしょ? それに律さんの好きな人が結婚してるんだったら、いつかは絶対諦めなくちゃならないんだし……あ』

 素晴くんは『いい考えがある』と声をワントーン明るくした。

『近々、律さんと出かける予定とかある?』
「あぁ、今度、プラネタリウムに行く約束してるけど」
『おぉーいいねぇ』

 やけにはしゃいだ声が、僕の鼓膜をくすぐった。

『俺が協力してあげるよ!』
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