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◇第3章◇優しくて明るいひと
35 謝罪のことば
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僕は頭を下げる。
「ありがとう、会ってくれて」
「え、だって、俺が会おうよって言ったんじゃん?」
「そうだけど、こっちからいきなり連絡したから、気を使ってくれたのかなって」
「えー? そんなわけないじゃん! 俺、こんな感じだから誰とでも仲良くなれそうだねってよく言われるんだけど、そんなこと無いんだよ。面倒だって思ってたら自分から絶対に誘わないし。久しぶりに千紘くんに会いたいなって思ったから来たんだよー。元気にしてた?」
素晴くんが僕を面倒じゃないと思ってくれただけで心が暖かくなって泣きそうになる。
「うん、元気だよ」
「まさかこんな近くに住んでただなんて思わなかったよねー」
素晴くんは話上手で聞き上手。
僕は安心して日常会話を楽しむことができた。
だから余計に、あのことを切り出すのが難しくなってしまった。
やってきた店員さんに2杯目を頼み、持っていたアルコールスプレーで手を除菌していると、素晴くんに関心したような声を出された。
「千紘くんって綺麗好きなんだねぇ。さっきもテーブルを隅々まで拭いてくれてたもんね」
「あっ、そのこと、なんだけど……」
僕は丸まっていた背中を正して改まった。
チャンス。
謝るなら今だ。
「何?」
「僕、素晴くんに伝えたいことがあって」
首を傾げながらも、素晴くんはぼくの緊張を感じ取ったみたいで、茶々を入れずに言葉の続きを待っていた。
なのにやはり僕は怖くて、続きが話せない。手汗を服で拭って唇をかむ。
どうしよう、言ったらきっとガッカリされてしまう。
「なんか、千紘くんに釣られて俺も緊張してきたな。いいよ、俺、待ってるから」
いつでもどうぞと、素晴くんは目を細めてゆっくり飲み物を味わっている。
バクバクとなる心臓を少しでも落ち着けようと、僕も冷たい水を飲んだ。
顔を上げたとき、カウンター席の端に見覚えのある黒髪の人物が座っているのに気付いて息を詰めた。
あれは、どう見ても律だ。
いつからいたんだろう。今日は仕事のはずだ。
ここに来る約束なんてしていないのに。
こちらに背中を向けているし、距離もあるから僕に盗聴器でも仕掛けなければ会話は聞き取れないだろう。
なのに、律はそこにいた。
きっと、心配して来てくれたのだ。
だって律は僕の味方だから。
「素晴くん、あのね」
うん、と素晴くんはごくりと唾をのみこむ仕草をした。
律がそこにいる、と思うと心強い。
ちゃんと謝ろう。
例え軽蔑の目で見られたとしても受け入れるんだ。
「──高校生の時、素晴くんの答案用紙をカンニングしちゃって本当にごめん!」
顔の前で手を合わせて一気に言い放つ。
緊張で手が震えていた。
怖くて目が開けられないでいると「へ?」と気の抜けた声が聞こえた。
「伝えたいことってそれ?」
「あ、うん……ごめんねいきなり。急に言われても困るよね……」
素晴くんは案の定、驚きもあらわに目を見開いていた。
あぁ、もうだめだ。
せっかく友達になれたのに、さよならだ。
覚悟をしたが、その驚き顔は途端に笑顔に戻った。
「なんだ、ビックリしたぁ! 俺、あまりにも緊張してる千紘くん見て、てっきり『ずっと好きでした』って告白されるのかと思っちゃったよ! 自意識過剰!」
確かに『伝えたいことがある』というのは含みのある言い方だ。
勘違いさせてしまい申し訳なくなる。
「ありがとう、会ってくれて」
「え、だって、俺が会おうよって言ったんじゃん?」
「そうだけど、こっちからいきなり連絡したから、気を使ってくれたのかなって」
「えー? そんなわけないじゃん! 俺、こんな感じだから誰とでも仲良くなれそうだねってよく言われるんだけど、そんなこと無いんだよ。面倒だって思ってたら自分から絶対に誘わないし。久しぶりに千紘くんに会いたいなって思ったから来たんだよー。元気にしてた?」
素晴くんが僕を面倒じゃないと思ってくれただけで心が暖かくなって泣きそうになる。
「うん、元気だよ」
「まさかこんな近くに住んでただなんて思わなかったよねー」
素晴くんは話上手で聞き上手。
僕は安心して日常会話を楽しむことができた。
だから余計に、あのことを切り出すのが難しくなってしまった。
やってきた店員さんに2杯目を頼み、持っていたアルコールスプレーで手を除菌していると、素晴くんに関心したような声を出された。
「千紘くんって綺麗好きなんだねぇ。さっきもテーブルを隅々まで拭いてくれてたもんね」
「あっ、そのこと、なんだけど……」
僕は丸まっていた背中を正して改まった。
チャンス。
謝るなら今だ。
「何?」
「僕、素晴くんに伝えたいことがあって」
首を傾げながらも、素晴くんはぼくの緊張を感じ取ったみたいで、茶々を入れずに言葉の続きを待っていた。
なのにやはり僕は怖くて、続きが話せない。手汗を服で拭って唇をかむ。
どうしよう、言ったらきっとガッカリされてしまう。
「なんか、千紘くんに釣られて俺も緊張してきたな。いいよ、俺、待ってるから」
いつでもどうぞと、素晴くんは目を細めてゆっくり飲み物を味わっている。
バクバクとなる心臓を少しでも落ち着けようと、僕も冷たい水を飲んだ。
顔を上げたとき、カウンター席の端に見覚えのある黒髪の人物が座っているのに気付いて息を詰めた。
あれは、どう見ても律だ。
いつからいたんだろう。今日は仕事のはずだ。
ここに来る約束なんてしていないのに。
こちらに背中を向けているし、距離もあるから僕に盗聴器でも仕掛けなければ会話は聞き取れないだろう。
なのに、律はそこにいた。
きっと、心配して来てくれたのだ。
だって律は僕の味方だから。
「素晴くん、あのね」
うん、と素晴くんはごくりと唾をのみこむ仕草をした。
律がそこにいる、と思うと心強い。
ちゃんと謝ろう。
例え軽蔑の目で見られたとしても受け入れるんだ。
「──高校生の時、素晴くんの答案用紙をカンニングしちゃって本当にごめん!」
顔の前で手を合わせて一気に言い放つ。
緊張で手が震えていた。
怖くて目が開けられないでいると「へ?」と気の抜けた声が聞こえた。
「伝えたいことってそれ?」
「あ、うん……ごめんねいきなり。急に言われても困るよね……」
素晴くんは案の定、驚きもあらわに目を見開いていた。
あぁ、もうだめだ。
せっかく友達になれたのに、さよならだ。
覚悟をしたが、その驚き顔は途端に笑顔に戻った。
「なんだ、ビックリしたぁ! 俺、あまりにも緊張してる千紘くん見て、てっきり『ずっと好きでした』って告白されるのかと思っちゃったよ! 自意識過剰!」
確かに『伝えたいことがある』というのは含みのある言い方だ。
勘違いさせてしまい申し訳なくなる。
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