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◇第3章◇優しくて明るいひと
27 しあわせな朝ごはん
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長い恋が始まった日のことを、夢に見ていた。
何かが頭に触れている。
これは誰かの手だ。
目を開けなくてはいけないのに、大きな手に撫でられているのが心地よくてなかなか開けない。
すり、と猫のように頭を傾けてぬくもりを感じる。
確認しなくちゃ。
いま僕に触れているのは誰か────
「……!」
勢いよく起き上がると、眼鏡をかけた律が目を丸くしてベッドの横に立っていた。
「お、おはよう。ビックリした」
「おはよ……律、いま僕の頭触ってた?」
「いいえ、触ってませんけど」
「えー、嘘、触ってたでしょ……」
ふと、律が改めてカッコイイなと認識する。
眼鏡姿は初めて見たからドキドキする。
「夢を見てたんでしょう? 起こそうと近付いたら、いきなり君が起き上がったのでビックリしたんです」
律は嘆息してカーテンを開けた。
柔らかい日差しが注ぎ込んでくる。
律の足元にはチーがいた。飼い主と同じくツンと澄ました顔をした白猫は、僕の視線に気付いてベッドの下に姿を消した。
「朝ごはん、出来てますけど食べますか?」
「えっ! 作ってくれたの?」
「他人の作ったご飯は平気ですか?」
「へ、平気平気! そこまで潔癖じゃないから大丈夫! それに僕、律のだったら……」
「ならさっさと食べて出ていってくださいね」
僕が言い終える前に律は冷たく言ってリビングへ行ってしまったので、僕はちょっとくすぐったい気持ちで頭に手をやった。
撫でられていたのは、夢だったのかな……
断言はできないが、どうしても夢じゃない気がする。
だって心臓がうるさく鼓動して、心と体が嬉しがっているのが証拠だ。
もし律が照れ隠しで嘘を吐いて演技してるとしたら────
じわりと頬が熱くなる。
うわ……それだったらなんかすごい、律が可愛く思えてくる。
「どうしました、さっきからニヤニヤとして」
「ううん、別にぃ」
律の向かいに座って、作ってくれたサンドイッチをご馳走になった。
具はハムとレタスとチーズ、もう1つは卵といったオーソドックスなものだがとても慈愛に満ちた味わいである。
「律は自炊しないのかと思ってた。カップ麺とかの容器がたくさんあったから」
「最近忙しかったので、つい疎かになってただけです。余裕があればきちんと作りますよ」
テーブルの隅には、昨日は無かったはずの除菌用ウェットティッシュが置いてあるし、キッチンにはサンドイッチを作る時に使ったであろう塩化ビニール手袋があったし。
あぁホント、律の細やかな気遣いがストレートに心に染みる。
一体どんな気持ちで、このサンドイッチを作ってくれたんだろう。
本当は授業なんて行かずにずっとここにいたいけど、そう言うと目の前のイケメンは怒るだろうから大人しくしておこう。
だって住んでる場所も、仕事場も把握した自分に怖いものなんてない。
今日の夜にまた来るつもりでいた。
忙しくしている律に、料理を振る舞って喜んでもらう作戦を企てていた。
「いいですか。あなたとはもうこれっきりですから。ここには2度と来ないで下さいね。お元気で」
「はいはーい。じゃあ律も元気でねー」
家を出る直前まで念押ししてくる律を適当にあしらいながら、じゃあねーと軽い返事をして手を振った。
パタンと扉を閉じてから、1人でクスクスと笑ってしまう。
絶対来るなって言われたら絶対行くに決まってるだろ。
連絡先を聞いても教えてもらえなかったのは残念だが、まぁいい。
これからは確実に、律に会えるのだから。
騙されてしまった5万円は、じいちゃんに申し訳ないけれど無いものとして生活することにした。
バイトのお給料や仕送りを少しずつ口座に貯金していけたらいいと思う。
律からの5万円は、封筒に入れて大事に取っておこう。
例え困ったことがあろうとも、そのお金には手を付けないと心に決めた。
何かが頭に触れている。
これは誰かの手だ。
目を開けなくてはいけないのに、大きな手に撫でられているのが心地よくてなかなか開けない。
すり、と猫のように頭を傾けてぬくもりを感じる。
確認しなくちゃ。
いま僕に触れているのは誰か────
「……!」
勢いよく起き上がると、眼鏡をかけた律が目を丸くしてベッドの横に立っていた。
「お、おはよう。ビックリした」
「おはよ……律、いま僕の頭触ってた?」
「いいえ、触ってませんけど」
「えー、嘘、触ってたでしょ……」
ふと、律が改めてカッコイイなと認識する。
眼鏡姿は初めて見たからドキドキする。
「夢を見てたんでしょう? 起こそうと近付いたら、いきなり君が起き上がったのでビックリしたんです」
律は嘆息してカーテンを開けた。
柔らかい日差しが注ぎ込んでくる。
律の足元にはチーがいた。飼い主と同じくツンと澄ました顔をした白猫は、僕の視線に気付いてベッドの下に姿を消した。
「朝ごはん、出来てますけど食べますか?」
「えっ! 作ってくれたの?」
「他人の作ったご飯は平気ですか?」
「へ、平気平気! そこまで潔癖じゃないから大丈夫! それに僕、律のだったら……」
「ならさっさと食べて出ていってくださいね」
僕が言い終える前に律は冷たく言ってリビングへ行ってしまったので、僕はちょっとくすぐったい気持ちで頭に手をやった。
撫でられていたのは、夢だったのかな……
断言はできないが、どうしても夢じゃない気がする。
だって心臓がうるさく鼓動して、心と体が嬉しがっているのが証拠だ。
もし律が照れ隠しで嘘を吐いて演技してるとしたら────
じわりと頬が熱くなる。
うわ……それだったらなんかすごい、律が可愛く思えてくる。
「どうしました、さっきからニヤニヤとして」
「ううん、別にぃ」
律の向かいに座って、作ってくれたサンドイッチをご馳走になった。
具はハムとレタスとチーズ、もう1つは卵といったオーソドックスなものだがとても慈愛に満ちた味わいである。
「律は自炊しないのかと思ってた。カップ麺とかの容器がたくさんあったから」
「最近忙しかったので、つい疎かになってただけです。余裕があればきちんと作りますよ」
テーブルの隅には、昨日は無かったはずの除菌用ウェットティッシュが置いてあるし、キッチンにはサンドイッチを作る時に使ったであろう塩化ビニール手袋があったし。
あぁホント、律の細やかな気遣いがストレートに心に染みる。
一体どんな気持ちで、このサンドイッチを作ってくれたんだろう。
本当は授業なんて行かずにずっとここにいたいけど、そう言うと目の前のイケメンは怒るだろうから大人しくしておこう。
だって住んでる場所も、仕事場も把握した自分に怖いものなんてない。
今日の夜にまた来るつもりでいた。
忙しくしている律に、料理を振る舞って喜んでもらう作戦を企てていた。
「いいですか。あなたとはもうこれっきりですから。ここには2度と来ないで下さいね。お元気で」
「はいはーい。じゃあ律も元気でねー」
家を出る直前まで念押ししてくる律を適当にあしらいながら、じゃあねーと軽い返事をして手を振った。
パタンと扉を閉じてから、1人でクスクスと笑ってしまう。
絶対来るなって言われたら絶対行くに決まってるだろ。
連絡先を聞いても教えてもらえなかったのは残念だが、まぁいい。
これからは確実に、律に会えるのだから。
騙されてしまった5万円は、じいちゃんに申し訳ないけれど無いものとして生活することにした。
バイトのお給料や仕送りを少しずつ口座に貯金していけたらいいと思う。
律からの5万円は、封筒に入れて大事に取っておこう。
例え困ったことがあろうとも、そのお金には手を付けないと心に決めた。
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