上 下
21 / 90
◇第2章◇優しくて泣き虫なひと

21 ふたりの夜*

しおりを挟む
 背中から抱きしめられる形で、僕はあぐらをかいた律の中におさまった。
 顔を見られると恥ずかしいと言ったから、律なりの配慮かもしれない。
 僕の座る箇所に、タオルを敷いてくれたのも。

 浴衣の腰紐は元々緩んでいたのか、はだけて素肌があらわになっていた。
 合わせ目から出た自分の生足が、部屋の隅の小さな提灯型の灯りに照らされる。


 律の息遣いが聴こえる。
 右の首筋に当たる吐息は熱っぽくて、それだけで体の奥がむずむすとした。

 すり、と白いシーツの上で足を曲げたり伸ばしたりすると、しんと静まった空間に響いた衣擦れの音が寄せては返す波の音に聴こえた。

「千紘」

 僕の腰にしがみつくように両手を回していた律は、唇を僕のうなじに押し当てた。
 場所を変えながら落とされる薄い唇の感覚。
 律の舌先で肌を濡らされると、たまらなく興奮した。

「……ん、」

 ギュッと目を閉じていると、少しぎこちなかった唇の動きが止んで小さく笑われた。

「力入り過ぎですよ。もっと楽にして」
「だ、だって」

 潤んだ瞳で振り向くと、鼻先の当たる距離に律の穏やかな顔があって、とっさにまた前を向いて俯いた。

 僕の方から仕掛けたことなのに、いざこうなると恥ずかしい。
 簡単だと思っていたのに、経験がない僕には未知すぎる。

 今度は、耳にキスを落とされる。
 自分よりも一回りほど大きな体に包まれている僕は、ただその慈しむような愛撫に小さく体を跳ねさせることしかできない。

 律は耳朶を唇で優しくくすぐっている。
 体を捻るけれど、全く身動きが取れない。
 唇の繊細な動きとは逆に、腰に回された腕は力強くて、獲物を捉えて離さない肉食獣のようだった。

 僕は膝を立てて、もじもじと両足を擦り合わせる。手はどこにやったらいいのか分からなくて、拳を握って宙に浮いたままだ。

 うわ────……どうしよう。
 いつの間にか、浴衣の腰紐は解けていた。
 その合わせ目に手を掛けられ、より肌を露出させられる。
 僕が身につけているのは、黒のボクサーパンツ1枚のみだ。
 足の間はもう、下着を押し上げるほどに昂っている。

「思ってたよりも随分と細い腰」
「……っ」

 律は今度は肩甲骨の辺りに唇を落として、浴衣の中に手を入れて腰を撫でてきた。
 すり、とおへそから脇腹に掛けて軽く触れられる度に、内側からじわりと滲み出す感覚があった。
 下着を汚してしまう、と手を持っていこうとしたが、我慢できずに自分で触ろうとしたと思われたら恥ずかしいので耐えた。

「ん──……ぁ……っ」

 実際、我慢ができそうになかった。
 つま先はきゅっと丸まって、自分の意思に反してビクンと体を跳ねさせてしまう。首周辺と耳と脇腹に触れられているだけで達してしまいそうだった。 

 脇腹を往復していた手のひらが、スルスルと上に上がっていった。
 律が次に触れたのは──

「………ん、なとこ、触る……の?」

 胸の尖りを、親指の腹で優しくつぶされた。
 くにくにと上下されていると、くすぐったくて変な気分になってくる。

 女子でもないのに男が乳首で感じる訳ない……初めはそう思っていた。
 自分でする時はこんなところ弄らないし、もちろん誰かに触られたことも無いし。
 律は僕の肩口に顎を乗せて、その粒の変化を楽しむように見下ろしている。

「変な感じがする?」
「ん……わかんな……ッ」

 今度は両手で、そこを摘まれた。
 親指と中指で擦り合わせるようにスリスリされる。きゅうっと少し強めに摘まれたら、今度は人差し指で表面をなぞるみたいに優しくつぶされて。
 すっかり熟れた苺のようにされた僕の乳首は、恥ずかしいくらいにツンと立ち上がっていた。
 律は徐に、自分の指の腹を舐めて、また僕の乳首の先っぽをくにくにと押した。

「──あ、あぁっ」

 湿った指に転がされると、さっきの倍くらい感じる。
 僕はあまりの快楽にいやいやと激しく頭を横に振りながら唇を噛んだ。
 僕の反応を楽しんでいる律は、嬉しそうにそこを攻め続けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

しのぶ想いは夏夜にさざめく

叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。 玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。 世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう? その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。 『……一回しか言わないから、よく聞けよ』 世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。

あした、きみと喧嘩する日

大竹あやめ
BL
 恋をするのに、一週間は充分すぎる時間だった。  大学祭の日、朔夜は長年片想いだった一誠にこっぴどく振られてしまう。そして朔夜の告白に反対していた槙人とも喧嘩別れしてしまった。もう元の関係には戻れないのか。そう思った時、怪しい人から「やり直せばいいんですよ」と時を巻き戻す時計をもらう。  恋を諦めるために時を巻き戻した朔夜は、同じ出来事を辿ってまた恋をする。今度は上手くいきますようにと願って。 アンソロジー【時を巻き戻せる時計】に寄稿した作品です。(原稿返却済みなので、出版権も著者に戻っております)無理やり話数を区切っているので、文字数にばらつきがあります。ご了承ください。 後日談は書き下ろし。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

歪んだ運命の番様

ぺんたまごん
BL
親友αは運命の番に出会った。 大学4年。親友はインターン先で運命の番と出会いを果たし、来年の6月に結婚式をする事になった。バース性の隔たりなく接してくれた親友は大切な友人でもあり、唯一の思い人であった。 思いも伝える事が出来ず、大学の人気のないベンチで泣いていたら極上のαと言われる遊馬弓弦が『慰めてあげる』と声をかけてくる。 俺は知らなかった。都市伝説としてある噂がある事を。 αにずっと抱かれているとβの身体が変化して…… ≪登場人物≫ 松元雪雄(β) 遊馬弓弦(α) 雪雄に執着している 暁飛翔(α) 雪雄の親友で片思いの相手 矢澤旭(Ω) 雪雄に助けられ、恩を感じている ※一般的なオメガバースの設定ですが、一部オリジナル含んでおりますのでご理解下さい。 又、無理矢理、露骨表現等あります。 フジョッシー、ムーンにも記載してますが、ちょこちょこ変えてます。

鋼将軍の銀色花嫁

小桜けい
ファンタジー
呪われた両手を持つ伯爵令嬢シルヴィアが、十八年間も幽閉された塔から出されたのは、借金のかたに北国の将軍へ嫁がされるためだった。 何もかもが嫌になり城を逃げ出したが、よりによって嫁ぐ相手に捕まってしまい……。  一方で北国の将軍ハロルドは困惑していた。軍師に無茶振りされた政略婚でも、妻には一目ぼれだ。幸せな家庭を築きけるよう誠意を尽くそう。 目指せ夫婦円満。 しかし何故か、話し掛けるほど脅えられていく気がするのだが!?  妻には奥手な二十八歳の将軍と、身体の秘密を夫に知られたくない十八歳の娘の、すれ違い夫婦のお話。 シリアス、コメディ要素が半々。

転移者を助けたら(物理的にも)身動きが取れなくなった件について。

キノア9g
BL
完結済 主人公受。異世界転移者サラリーマン×ウサギ獣人。 エロなし。プロローグ、エンディングを含め全10話。 ある日、ウサギ獣人の冒険者ラビエルは、森の中で倒れていた異世界からの転移者・直樹を助けたことをきっかけに、予想外の運命に巻き込まれてしまう。亡き愛兎「チャッピー」と自分を重ねてくる直樹に戸惑いつつも、ラビエルは彼の一途で不器用な優しさに次第に心惹かれていく。異世界の知識を駆使して王国を発展させる直樹と、彼を支えるラビエルの甘くも切ない日常が繰り広げられる――。優しさと愛が交差する異世界ラブストーリー、ここに開幕!

桜吹雪と泡沫の君

叶けい
BL
4月から新社会人として働き始めた名木透人は、高校時代から付き合っている年上の高校教師、宮城慶一と同棲して5年目。すっかりお互いが空気の様な存在で、恋人同士としてのときめきはなくなっていた。 慣れない会社勤めでてんてこ舞いになっている透人に、会社の先輩・渡辺裕斗が合コン参加を持ちかける。断り切れず合コンに出席した透人。そこで知り合った、桜色の髪の青年・桃瀬朔也と運命的な恋に落ちる。 だが朔也は、心臓に重い病気を抱えていた。

処理中です...