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Phase:01 サクラサク

Side B - 2 / Part 4 共同戦線

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「〈Psychicサイキック〉に異常な信号を流して、ヒトの認識を狂わせる。AIが現実世界へ干渉することを可能にした、人類史上最悪の人災――。やはりみおの書いたとおりだ」


 この混乱の中でも、女子中学生は落ち着いた様子でそう話した。
 ミオ? そいつが〈エンプレス〉にパクられたっていうSF小説の原作者か。


「単刀直入に言う。たい焼き男、私と手を組め」

「だーれがたい焼き男だ。俺たちはおまえを護り、おまえは俺たちを〝神〟に引き合わせる。それなら協力してやってもいい」

「いいだろう。約束は守る」

「よし、契約成立! お近づきのしるしに呼び名も改め――」

「チャラ男のストライカー、略してチャライカー。これで満足か?」

「やっぱりたい焼き男でお願いします」


 握手を求めて女の子にそっぽを向かれた直後、〈Psychic〉に新しい通知が届いた。【チュートリアル 橋の上に現れた〈モートレス〉を倒せ!】とある。

 ……なんのこっちゃ? というか、さっきから聞き慣れない用語多すぎだろ。
 〈種子シード〉に〈五葉紋〉だっけ? 〈モートレス〉ってのも何のことだか。倒せっていうからには、敵の名前か何かだろうけど。


『即断即決ここに極まれり、だな』

「これが命を懸けた試合だってんなら、モタモタしてられないだろ。違うか?」

「私は賛成だ。一対一ではなく、集合知で立ち向かうとしよう」

「ところで誰か、このメッセージを解読できる方は?」

『まずは表題を〝任務〟と読み替えろちんちくりん』

「今度、人の身長に言及したらころしますよ」


 〈Psychic〉の画面についている地図上の赤い点が、ピコピコと波紋を放つ。位置は〈エンプレス〉から少し離れたところ、地面に転がる元ディレクターを指していたものだ。
 しるしの点滅が始まると同時に、肉団子が吹きこぼれる鍋みたいな音を立てて膨らみ始めた。

 大きく変化したその姿は、正常なヒトのそれとはあまりにもかけ離れていた。もうどこが顔で、胴体で、両手両足なのか区別がつかない。


『マスター。これは大会前夜、消化試合のようなものだ。今後はどちらかが死ぬまで人類代表として出場が望まれるが、だからこそ相手に弱みを見せるな』

「わかってるよ。サッカーもリアルも、攻守怠慢はあり得ない」

『ああ、それでいい。そのとおりだ。介入を許されているうちに、俺もパートナーAIとして解説と助言を行うとしよう』

「了解。お願いします、××先生」

『俺たちの前にいる元リポーターは〈エンプレス〉。自分で識別用個体名と言っていたから、その名称は固有のものだ。人間でいう名前にあたる』


 マネージャーの話を聞いて、俺はあることに気がついた。
 地形図上で、敵とされる相手を示す表示は赤い点。橋の上にあるのは二人分だけど、波紋のようなものを放っているのは片方だけだ。

 指示の内容を書いてあるとおりに読み解くなら、俺たちにこれを流した人物は自称女帝サマこと〈エンプレス〉について、一切言及していない。
 消去法でいくと、ディレクターのおっさんだった肉団子が〈モートレス〉と呼ばれていることになる。こっちは倒さなくちゃいけないんだな。


「それってつまり、ミートボールを倒せば〈エンプレス〉はガン無視オッケーって解釈になんないか?」

『ご名答。今回のミッションをより適切な表現にするなら〝橋の上にいる敵を殺せ、ただし〈女帝〉は無視してもよい〟という意味になる』


 あのままでは苦しみが長引くだけだ、早く楽にしてやってほしい。俺たちの会話を聞いた〝神〟の遣いは、顔をしかめてそうつぶやいた。


「ダメだ。その役目は私がやると――」

「もちろん主役はお譲りしますよ、引き立て役アシストも仕事のうちですから。ただし、俺にもチャンスが来たら遠慮しないんでそのつもりで」

「未知の生命体の相手は経験がありませんが、自分はこの中で最も有事に慣れている身。何かしらお役に立てるはずです。情け容赦なく防衛するとしましょう」

『あの~……』


 クールなお姉さんの言葉にみんながうなずいていると、申し訳なさそうに声だけのリポーターが話に入ってきた。落ち着いたのか、また標準語に戻っている。


『皆さんお忘れのようですが、これ、AIによる自動翻訳付きで全世界同時生中継されてますよ。大丈夫ですか?』

「『望むところだ(です)!』」


 チームが一丸いちがんになった瞬間ほど、気持ちいいものはない。そう、俺たち四人と一体は仲間として運命をともにするって決めたんだ。

 みんな、人生を投げ打ってここにいる。この町を、世界を救おうとしている。
 こんなスケールのデカい大舞台、目立ちたがり屋なら出るっきゃないだろ!


(それに、あいつの好きにさせたらサッカーどころじゃなくなるし、この地球上からたい焼きが根絶やしにされるかもしれないじゃん。俺の目の青いうちはそんな暴挙許さないぞ)

「――という顔をしていますね」

「思考がすぐ顔に出るのはいただけないな。ノーファウルだが一匹放流」

「勝手に減給しないでくれませんかね、そこの凸凹デコボココンビ!」


 ピンク色のブヨブヨした表皮を突き破り、巨大な球からムキムキの腕が生えてきた。先端は握り拳じゃなく、鳥のくちばしのような極端に長く鋭い爪を備えている。

 何かに似てると思ったら……ほら、あれだよ。ギャルの派手なネイルとか、やたら長いクリップ状の髪留め。あれもコンコルドっていうらしいな。


『諸悪の根源は自称女帝であり、原作者に罪はない。混同しないよう注意されたし』

「もちろんだとも。ミオ君、だったか? 会った時に、読み物としては面白いとお伝えしよう」

じゃなかったらもっと楽しめるんだけどな」

「まったくもって同感ですね」


 黙って俺たちの様子を見ていた〈エンプレス〉が「けなくていいの?」と邪悪に微笑む。
 ナイフ状の腕を振り上げた敵を見て上司さんが警告を飛ばしたが、その切っ先がこっちに向くことはなかった。
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