シゴ語り

泡沫の

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座敷あらし

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「だろうと思った!」
「!」

叫んだエレトが、どこからか大幣を出して
ロープを出した女の子と
対峙していた。

「…え、なに?」
「コイツ、ここで俺達を殺すつもりだったんだよ」
「は?」

ロープは、エレトの首めがけて伸びている。
けど、エレトがその腕を大幣でなんとか食い止めていた。

…なんで
なんで、こんな

「わたしのたましいは、あげられません」
「なんで、さっき、良いって…」
「ねがいをかなえようと、みんなわたしたちかいいを、むりやりたましいにしました」
「…え?」

「わたしたちは、はらわれないかぎりじょうぶつも、しにもしません」
「でも、それをいいことにむりやりべつのよりしろにわたしたちをうつし、ししさまをだした」

目に、殺気がこもっていた。
絶対に逃さないという
私達への、憎悪。
それが
痛いほど感じられた。

「ひとのよくぼうのために、わたしたちはつかわれたんです」
「…………へぇ」
「キミはやってないとでも?」

「座敷あらしちゃん」

「…座敷あらし?」

座敷童子しか、聞いたことはない。

座敷あらしって
聞いたことがない。

「長年、このシシ語りの「座敷童子」の座に座ってる君はさ」
「行動自体は、座敷童子とは程遠いよね」
「なにをいってるんですか」
「座敷童子は、人の幸福のためにうごく妖怪だ」

「お前は、自分のためにうごく妖怪だろ」

「それを、座敷童子とは言わない」
「座敷あらしだ」
「……」

座敷童子。

人を幸せにするためにうごく
地縛霊のような妖怪。

 だがしかし
今目の前にいるのは
自分が利用されるのが嫌で
人のために動くことをしない
ただの地縛霊のような妖怪。

座敷あらし。

それだけのことだった。

「どうせ、人も殺してんだろ?」
「ここと、和室の空気、気持ちワリィからな」
「………」
「そんな……」

私が、そう呟くと
座敷あらしは、ロープを手から離した。

エレトは、まだ警戒している。

「…怪異になる前から」
「私は、人のもとで働いてたんです」
「母が病気で、父は他界して、一人でがんばって働いてました」

さきほどの、子供っぽい声とは違い
はっきりとした声となった。
誰かの思い出を
まるで他人事のように語るように。

「頑張って、頑張って、頑張って頑張って、それでも」
「母は他界してしまいました」
「…………………」

悲しげで
切なげで
とても、小さな子供が背負えるものじゃない。
人の命を背負って
自分すら押し殺して
生きてきたのだろう。

…この子を、使ってまで
願いを叶えたくない。

「エレト…」

シャキン、と金属が擦れる音がした。
大幣の先が外され
刀となっていた。

刀?
なんで、刀…?

「お前は、祓う」
「……」
「この世にいてはいけない」

そう言って
座敷あらしに刃先を向けた。

この人は
悪魔だと思った。
過去を知ってまで、子供すら殺せる
悪魔だと。

「……はい」

潔く、諦めた座敷あらし。
振りかぶるエレト。

その間に
何かが立ちはだかった。

「…レイ」
「なにしてんだよ」
「……まだ、子供だ」
「お前、その子供のことなんにも知らねぇだろ」
「知らない」
「…でも」

「こんな辛い思いしてる人に、追い詰めてしまったら」
「取り返しが、つかなくなる…」

「……黒髪さん…」

少しだけ
座敷あらしさんの気持ちが
わかる気がするんだ。

私情。
でも
どうしても
辛い思いをしている人は
幸せになってほしいと思う。
思ってしまう。

「………はぁ、じゃあ教えてやる」
「こいつは__________」

そう言い終わる前に

シャキン。

刀が
私の真横を切り裂いた。

そして
ロープが、私の横に落ちる。
 瞬きのうちに
エレトの左腕に抱き寄せられて
エレトの右腕が
その手に持っている刀の刃先が
私の後ろを向いていることを悟った。

「__________親も殺してる」

静まり返る。
静かに
透き通るように
月夜に溶ける
エレトの声。

扉から
月光が入っている。

その月光の影が
少しずつ、大きくなる。
その姿は
例えるなら、メデューサ。

ロープが蛇のように
うねうねとうねっている。

「…せっかく、1人殺せたのに」

もう、別人だった。
誰なのか
わからない。
先程のかわいらしい女の子は
不気味な笑みを貼り付けた
ロープを纏う女に変わっていた。

その姿を見ただけで
私が、今
もし、エレトが助けてくれなければ
窒息死をしていたことを理解した。

「みんなが悪いんだよ」
「わたしを利用するから」
「わたしは、もっと尽くされるべきなのに」

なにが
この子の思考をここまで歪ませたのか
わからない。

きっと
生まれたときから
もの心ついたときから
ずっと
ずぅっと
自分を自分と思えなかったのかもしれない。
利用され続け
ときには、自分の意思を否定され
それが重なって

こんな姿にしてしまったのかもしれない。

「君のことは、資料によーく載ってたよ」
「座敷童子として、数十年間その座に居続けた」
「その中で、殺しのことも過去もすべて、知っている」
「そう。じゃあ」
「早く消えて」

ロープがこちらに向かってくる
けど、エレトは余裕の笑みで切り倒す。

それから、切り倒すたびに女に近づく。

私はただ、その傍らで見守りながら足を進めた。

「悪いけど、叶えたいものがあるんでね」
「ふうん」

後ろに回されたロープ。
エレトに知らせようと、声を出すが

「エレッ……」

すぐに、切り落とす。
全く
スキがない。

「……………」

全方向から、向かってくるのに対して
全て切っていくエレト。

切るたびに、長さが短くなって
とうとう、数十cmの距離になったとき
ロープは、ほとんどなくなったようだった。

「」

「」

エレトは
無情に
無慈悲に
座敷あらしに近づく。

刀の射程範囲にはいると
すぐに振りかぶった。

「じゃあな」
「座敷あらし」

「……嫌だ」
「嫌だ、嫌だ、嫌だ」
「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!」

叫ぶようだった。
静かな夜によく響く
幼い声だった。

聞きたくない
耳をふさぎたい
でも
ふさいではいけない。
ふさげない。

そう思って
目を見開いたまま
耳を傾けたまま
座敷あらしの最後を
見届けようとした。

刀が
刀の刃先が
座敷あらしの首に到達した途端
目の前が真っ暗になった。
耳に何も聞こえなくなった。

目に、人の皮膚の感触
耳に、服の感覚

エレトが
見えないように
聞こえないようにしてくれたことを知ったのは
座敷あらしの魂を
仮の依代に入れたあとだった。

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