上 下
33 / 55

2日ぶり2回目の手合わせ

しおりを挟む
 それから――正確に言うなら、非常に不本意ながらクラウディオと仲良く鍛錬することになってしまったあの時から――2日後のこと。
 私はクラジオを起こして見送って、あまりにも暇だから意味もなく城の中をウロウロしていた。
 すると目の前から顔面凶器クラウディオが歩いてきた。――このあだ名は私が心の中でこっそり呼んでいるもので、性格はクソだが顔が良いのが憎いからと、私が勝手に付けたものだ。天は二物を与えずってのは本当だと確信した瞬間だった――
 ヤツはニッコリと胡散臭うさんくさい笑みを顔に貼り付けてこちらに近寄ってきた。なんとなく嫌な予感がしたので、私は気付かれないうちに離れておこうと思い、ヤツとは反対方向に進む。
 ――がしかし、どうにもヤツの進行方向はこちららしい。と言っても私の向かう先には使用人のための部屋しかない。
 まさか、いやそんなはずは――

「キミ」

 やっぱり目的は私だったんですね!?
 嫌々ながらも振り返り、「なんでしょう」と訪ねる。本当は何も聞かずにこのままダッシュで立ち去りたいんですけどね!相手は一応腐っても王族ですからね!下手したらクビ飛んじゃいますから!

「ちょっといいかな?」

 否、と言わせる気はないんでしょうね分かります。だがそれに従ってすぐに応じるのも私の矜恃プライドが許さない。

「内容によります」

 そう言うとクラウディオは胡散臭い笑みはそのままに「いや、また鍛錬に付き合って欲しくてね。ダメかな?」と首を傾げるものだから、もうイケメンオーラがダダ漏れだった。なまじ顔が良いからね!

「……いいですよ。その代わり、わたくしのお気に入りの剣を取りに行き、そのあとひとりで鍛錬場に行きます。それが条件です。この条件が呑めるならお相手いたします」
「いいよ。じゃ僕は先に行ってるね」

 ひらひらと手を振りながら、クラウディオはこの場を離れていった。
 それを見送り、私は自室に向かった。――不本意だが、あれほど強い相手と剣の手合わせができるのは私としても嬉しいのだ。こちらに来てからは全く会っていないが、リエールにいた頃は何度も刺客が姫様を襲いに来たりしていた。だからその相手をしていたのだが、とにかく相手が弱すぎる。いや、彼らの国の中では強い方なのかもしれない。だが桁外れの強さを持ったアイリスは、そんな彼らをものともしなかった。
 だから自分と同等、あるいはそれ以上の相手と手合わせするには、王立騎士団と手合わせすることくらいしかなかったのだ。勿論彼らは忙しいのでなかなかその機会に恵まれず、結果手合わせしたのは数える程しかなかった。

 私は細身のレイピアを携えて鍛錬場に向かった。――アイリスがメインにしていた得物えものはレイピアだったのだ。アイリスの記憶を漁ってみると、得物がレイピアである理由は「なんかレイピア使いのメイドっていいよね」だった。もっとカッコイイ理由を期待してたのにな、なんて。

 ともあれ。
 私はレイピアを腰に下げ、ここからさほど遠くない鍛錬場に向かう。
 その途中、クラジオとすれ違った。無言ですれ違うのもなんかな、と思い「どーも」と声をかけると「あぁ。……随分と楽しそうだな。これからどこに行くんだ?」と尋ねられたので「あなたの兄上のもとに。わたくしがあまりに強いものですから、クラウディオ様直々に手合わせ願われてしまって」と言うと、
「…………そ、そうか。お前は兄上と剣で語り合えるほどの強さなのか、そうか」
 と軽く引かれた。眉を顰めるものだから、せっかくのお顔が台無しになっている。「ま、あの時は剣じゃなくてナイフだったんですけどね」と呟くと彼はさらにシワを深く寄せた。「…………じゃ、俺はこのあとすぐ会議あるから」と、人間ではないものを見るかのような目で私を見て去っていった。解せぬ。

 ようやく鍛錬場に着いた頃には、クラウディオはいかにも王子ですというオーラをまとった服を脱ぎ、鍛錬用であることを感じさせる質素な――しかし一般市民からしてみれば大変豪華な――服を着ていた。この服装のまま街に出れば良いとこの坊ちゃんだとは思われるだろうが、まさかこの国の第二王子だとは思われないだろう。

「あっ、いた。おーい、こっちこっち!」

 そうやってにこやかに手を振ってると、普段の彼から漂っている王子らしさの欠片も感じない。「はいはい、お待たせいたしました」と言いながら彼に駆け寄る。

「……あ、キミってレイピア使うんだ。見た目通りというか、意外性がなくてつまんないね。なんかこう……棍棒とか使いそうじゃん、キミの性格なら」

 失礼にも程がある。なんだ、棍棒を使いそうな性格って。初めて聞いたわ。

「レイピアって綺麗でしょう。それに扱いやすくて」
「あぁ、分かる。僕も最初は普通の剣で練習させられてたんだけど、細身の剣が使いやすいなって思ったら普通の剣なんかに戻れなくなっちゃったんだよね」
「ですよね、わたくしもです!」

 そんな雑談を少ししてから私たちは2日ぶり2度目の手合わせをした。
 手合わせは結構楽しかった。前回はハンデがあったが、今回は自分の得物を使って手合わせしたのだ。楽しくないはずがない。私もクラウディオも、まだ60%くらいの力で手合わせしていたが、それでも十分楽しめるくらいだった。本気でぶつかりあったらどうなるんだろうか……考えただけで震えてくる。だってあまりにも楽しそうだから。
 手合わせが終わったあと、思わぬところ――ふたりがレイピアを得物とする理由が同じだったというところだ――で意気投合してしまったので、また雑談に花を咲かせた。
 レイピアのここがいい、というレイピア語りから食べ物の好み――どうやらクラウディオは甘いものに目がないらしいのだが、男が甘いものが好きだと露見するのは少し嫌なんだとか――の話まで、話題は尽きなかった。

 気付いたらもう日が暮れかけていた。手合わせを始めた時にはまだ空は明るかったはずなのに。

「かなり長いこと話してたんだね。気付かなかった」
「えぇ、わたくしもです」
「こんな時間まで付き合ってくれてありがとう。もしまた機会があればよろしく……いや、機会は作るから、その時もよろしくね」
「ふふっ……一国の王子ともあろう方が何をおっしゃいますやら。いいですよ、またお付き合いさせていただきます」
「あと、僕のことはクラウって呼んでよ。僕もキミのこと、アイリって呼ぶからさ。せっかくここまで意気投合できる相手が見つかったんだ、さらに親交を深めるためにも、まずは呼び方から変えるべきだと思うんだよね」
「はいはい、かしこまりました、クラウ様」

 なんて回りくどい言い方だ。素直に「友達になってくれてありがとう!友達だからキミのことはアイリって呼ぶね!」って言えばいいのに。でもまぁ、それが彼の性格なんだ。何も言わないでおいてあげよう。私は優しいからね。
 次手合わせする時は街で何かお菓子を持参してきてあげようかな、なんて思いながら私は自室に帰った。



 ――――まぁ例のごとく、自室に帰って風呂に入って落ち着くなり、「は!?姫様を殺そうとしたヤツと友達!?雑談できる仲ってなに、てかそもそも攻略対象サマと親交深めてどうすんの、恋愛フラグは回避すべきなのに!」と大絶叫したのだが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

安眠にどね
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】  

悪役令嬢、第四王子と結婚します!

水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします! 小説家になろう様にも、書き起こしております。

姉に全てを奪われるはずの悪役令嬢ですが、婚約破棄されたら騎士団長の溺愛が始まりました

可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、婚約者の侯爵と聖女である姉の浮気現場に遭遇した。婚約破棄され、実家で贅沢三昧をしていたら、(強制的に)婚活を始めさせられた。「君が今まで婚約していたから、手が出せなかったんだ!」と、王子達からモテ期が到来する。でも私は全員分のルートを把握済み。悪役令嬢である妹には、必ずバッドエンドになる。婚活を無双しつつ、フラグを折り続けていたら、騎士団長に声を掛けられた。幼なじみのローラン、どのルートにもない男性だった。優しい彼は私を溺愛してくれて、やがて幸せな結婚をつかむことになる。

悪役令嬢の居場所。

葉叶
恋愛
私だけの居場所。 他の誰かの代わりとかじゃなく 私だけの場所 私はそんな居場所が欲しい。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ※誤字脱字等あれば遠慮なく言ってください。 ※感想はしっかりニヤニヤしながら読ませて頂いています。 ※こんな話が見たいよ!等のリクエストも歓迎してます。 ※完結しました!番外編執筆中です。

派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。

木山楽斗
恋愛
私は、恋愛シミュレーションゲーム『Magical stories』の悪役令嬢アルフィアに生まれ変わった。 彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。その性格故に、ゲームの主人公を虐めて、最終的には罪を暴かれ罰を受けるのが、彼女という人間だ。 当然のことながら、私はそんな悲惨な末路を迎えたくはない。 私は、ゲームの中でアルフィアが取った行動を取らなければ、そういう末路を迎えないのではないかと考えた。 だが、それを実行するには一つ問題がある。それは、私が『Magical stories』の一つのルートしかプレイしていないということだ。 そのため、アルフィアがどういう行動を取って、罰を受けることになるのか、完全に理解している訳ではなかった。プレイしていたルートはわかるが、それ以外はよくわからない。それが、私の今の状態だったのだ。 だが、ただ一つわかっていることはあった。それは、アルフィアの性格だ。 彼女は、派手好きで高慢な公爵令嬢である。それならば、彼女のような性格にならなければいいのではないだろうか。 そう考えた私は、地味に謙虚に生きていくことにした。そうすることで、悲惨な末路が避けられると思ったからだ。

呪われた令嬢はヘルハウスに嫁ぎます。~執着王子から助けてくれた旦那様の為に頑張ります!~

屋月 トム伽
恋愛
第2殿下アーサー様に見初められたリーファ・ハリストン伯爵令嬢。 金髪碧眼の見目麗しいアーサー様だが、一方的に愛され執着するアーサー様が私には怖かった。 そんな押しの強いアーサー様との二人っきりのお茶会で、呪われたお茶が仕込まれていることに気付かずに飲んでしまう。 アーサー様を狙ったのか、私を狙ったのかわからないけど、その呪いのせいで夜が眠れなくなり、日中は目が醒めなくなってしまった。 日中に目が醒めないなら、妃になれば必要な公務も出来ないとなり、アーサー様の婚約者候補としてもなれないのに、あろうことかアーサー様は諦めず、私に側室になって欲しいと望む始末。 そして呪いは解けないままで日中は眠ってしまう私に、帰る事の出来る家はない。 そんな私にある公爵様から結婚の申し込みがきた。 アーサー様と家族から逃げ出したい私は結婚の申し出を受け、すぐに結婚相手のお邸に行く。が…まさかのヘルハウス!? …本当にここに住んでいますか!?お化けと同居なんて嫌すぎます! 序章…呪われた令嬢 第一章…ヘルハウス編 第二章…囚われ編 第三章…帰還編 第4章…後日談(ヘルハウスのエレガントな日常) ★あらすじは時々追加するかもしれません! ★小説家になろう様、カクヨム様でも投稿中

「悲劇の悪役令嬢」と呼ばれるはずだった少女は王太子妃に望まれる

冬野月子
恋愛
家族による虐待から救い出された少女は、前世の記憶を思い出しここがゲームの世界だと知った。 王太子妃を選ぶために貴族令嬢達が競い合うゲームの中で、自分は『悲劇の悪役令嬢』と呼ばれる、実の妹に陥れられ最後は自害するという不幸な結末を迎えるキャラクター、リナだったのだ。 悲劇の悪役令嬢にはならない、そう決意したリナが招集された王太子妃選考会は、ゲームとは異なる思惑が入り交わっていた。 お妃になるつもりがなかったリナだったが、王太子や周囲からはお妃として認められ、望まれていく。 ※小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...