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宣戦布告

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 案外すんなり犯人が分かってしまって拍子抜けだ。ほらこう、もっと謎解きターンがあるのかなとか思ってたのに、続編までプレイ済みの最強サポートキャラが現れて答えをあっさり教えてくれたのだから。

「クラウディオって誰よ?」

 そう、一番の問題はそこだ。
 答えは分かったが、しかし肝心の本人を知らない。

「んー、リエールをよく思っていない派閥のリーダー格、かな。第二王子でね、すっごくカッコイイの!まぁ私はクラウディオのこと大っ嫌いだけど」
「え、カッコイイのに嫌いって……なんとなくその感覚は分かるけど、なんで?」
「だって我らが姫様を毒殺させかけたんだよ?そんなヤツ、ぶっ殺…………じゃなくて、見るも無残に殺されればいいのに」
「訂正前より酷い!」

 ぶっ殺す、あるいはぶっ殺される、どちらにしたって『見るも無残に殺されればいいのに』の強さには叶わないだろう。

「まぁとにかく、第二王子のクラウディオが黒幕なの。直接手を下したのはクラウディオの配下なんだけどね」
「……クラウディオが黒幕なのは分かった。けど、何でそんなことするの?」

 私は第二王子がそんなことをする理由が分からなかった。第一王子を足跡を残さず上手く毒殺すれば自分が正当な王位継承権を得ることができる。それは理にかなっていると思う。またそれが第三王子を狙うものであっても、王位継承を確固たるものにするための作戦なのだろうと納得はできる。
 だが、何故隣国の第一王女を?

「んー、私にもよく分かんないけど……」

 彼女の話によると、だいたいこんな感じらしい。

 まずひとつ。リエールは産業革命により強大な力を持つようになった。これが最も大きな理由。
 ふたつめ。リエールには王位継承権を持つ者が姫様しかいない。男が生まれず、姫様おひとりしか国王と王妃の間に子が生まれなかったが故、姫様を毒殺してしまえば王位継承権を持つ者がいなくなる。
 みっつめ。リエールの法律には『正当な王位継承権を持つ者がいなくなった場合、原則侯爵家以上の爵位を持つ家の長男が王選に参加出来る。また、隣合う国の第二王子以上の王位継承権を持つ者も王選に参加することが出来る』というものがある。姫様を毒殺すればそして国内の貴族たちは王位継承権を巡って躍起になる。だがそれ以上に大事なのは、『隣合う国の第二王子以上の王位継承権を持つ者も王選に参加出来る』というところだ。
 つまり、アステアの国王を第一王子に、第二王子がリエールの国王になろうという算段なのではないか、と。

「……なるほど、難しい」
「そうだよね。乙女ゲームなのに法律とか妙に凝ってるから、ゲーム内で説明されてもよく分かんなかったもん」

 でもまぁ、姫様毒殺未遂事件の犯人と目的が分かった今、私がするべきことはただひとつ。姫様の安心安全な生活を保証するために、クラウディオとやらと話すことだ。話し合いで解決しなかったら――まぁそれはその時考えよう。最悪ちょっとボコるくらいは許されるんじゃないかな、なんてね。

 ◆◆◆

「ということでクラジオ様。わたくしはクラウディオ様にお目通りしとうございます。わたくしはクラジオ様の護衛兼メイドではありますが、同時に姫様の忠実なメイドでもございます。そもそもわたくしがクラジオ様の護衛兼メイドになろうと思ったのも、姫様毒殺未遂事件解決の糸口を探るためでございます。よろしければわたくしをクラウディオ様にお目通り願えませんでしょうか」

 ……私頑張った。滅多に使わない最上位の敬語を使ってお願いしてみた。

「こんな時にだけ敬語使うのやめろ。お前の性格と口の悪さはよく理解しているつもりだ」

 まぁ、私の魂胆はバレていたのだが。

「なら話は早いですね。いいからさっさとわたくしをクラウディオ様のところに連れていきなさいください」

 最後だけはちゃんと敬語っぽくしてみたのだがどうだろう。――あぁ、クラジオのその顔で分かりました。

「…………珍しくお前からコンタクトがあったと思ったらなんだ、兄様のところに行きたいと……ノリア、ルーノ」
「「はっ」」

 おぉ、呼んだだけで窓から颯爽と現れました!何気に久しぶりですね!……いや待って、なにこの警備体制。めちゃくちゃ怖いじゃん。呼んだだけで窓から来るって。

「コイツを兄様のところに連れてってやれ」
「「かしこまりました」」

 どうやら私をクラウディオに会わせてくれるみたいだ。さすが第三王子!イケてるぅ!

「ありがとうございます!」

 それを聞いてクラジオは「あー、そういうのいいから。俺の気持ちが変わらないうちにさっさと行け」と、頬を掻きながら言った。

 私はノリアとルーノに連れられ、大きな扉の前に着いた。ここがクラウディオの部屋だそうだ。珍しくふたりとも私を煽ることはなかった。逆に居心地が悪かったよね!

 何はともあれ、私は遂にここに来たのだ。心臓がバックバクだ。……と、ノリアとルーノが私の肩をポンポンと叩いてくれた。それだけで幾分か緊張は和らいだ……気がする。「ありがとう、行ってきます」とふたりに向けて小さく呟く。
 大きく深呼吸をし、逸る気持ちを押さえ込んでから私は扉をノックした。
「入れ」という重々しい言葉に誘われるまま、私はその扉を開けた。

 ◆◆◆

「お初にお目にかかります。クラジオ様の護衛兼メイドをしております、アイリスと申します。この度はわたくし如きのために貴重な時間を割いていただき、誠にありがとうございます」
「……面をあげよ」

 王子というよりも、国王の貫禄を感じさせるような低い声に、私は顔を上げる。と、バッチリ目が合った。
 クラジオはキラッキラの金髪の青目という、いかにも王子らしい見た目だ。しかしクラジオの兄のクラウディオ様は、ギラっギラの銀髪に緑色の目という、クラジオとは相反する見た目。本当に兄弟なの?

「わたしを見た者はみな一様に其方そなたと同じ反応をする。大方、弟と似つかぬが故に不思議に思ったのであろう?」
「……仰る通りにございます。申し訳ありません」
「よいよい。わたしもその反応にはもう慣れた。自身でも似ても似つかないことはよく分かっておる。……それより、其方がわたしに話があると聞いたが、一体何の用であろうか?」

 ……本題が来た。私がクラウディオ様にお目通り願った理由。

「……風の噂なのですが、クラウディオ様がわたくしの生まれ故郷、リエールの第一王女であるベルベット様を毒殺しようとした黒幕だと伺いまして」
「……ほう」
「よもやアステアの第二王子ともあろう御方がそのような真似をするはずがありません。が、わたくしがこの国に参ったのもベルベット様を毒殺しようとした犯人がこの国にいるのではと目星を立てたからにございます。ですから、何かご存知でしたら……と思い、クラウディオ様をお訪ねした次第でございます」

 彼はしばらく沈黙した。そして、口を開いた。

「まさかアステアの第二王子であるわたしがリエールの王座を狙っているとでも?」
「いえ、しかし噂であろうと姫様毒殺未遂事件に関わっているのではという話があれば、直接手を下した本人に伺いたいと思いまして。どれもこれも全て、わたくしが心の底から忠誠を誓っている姫様のお体とお心の安全を望んでのこと。無礼であることは承知の上ですが、もし仮にクラウディオ様がこの事件に関与しておらず、わたくしの勘違いだったというのでしたら不敬罪などでわたくしを処罰していただいて構いません。わたくしは、そのくらいの覚悟を持ってここに参りました」

 彼の冷たい視線を一身に受け、恐怖から本気で逃げ出したくなる気持ちを抑え、私は言った。
 すると、彼は口元に手を当てて俯いた。

「……くくっ、」

 彼の肩が震えている。そして口元が弧を描いている。……何故だろう、デジャブを感じる。

「くはははは……っ、まさかクラジオがここまで面白い者を囲っていたとはな。いやはや、数年ぶりに笑った」

 クラウディオの目元から涙が零れた。それを指先で拭いながら、私に目を向けた。先よりは幾分か目元が和らいでいる。

「いかにも。其方の国の第一王女を害そうとしたのは事実だ。だが、それを知って其方は何が出来る?」
「……今は、何もできません。今のわたくしはクラジオ様に仕えるしがない護衛兼メイドなのですから。しかし、どうでしょう……わたくしがリエールに無事帰ったあかつきには、わたくしを筆頭にアステアを襲撃致しましょうか?」

 宣戦布告をしてやると、彼はさらに笑いを深めた。

「……面白い、気に入った。其方のことをあっさり処してしまうのも勿体ない。其方がこの国を襲撃して、見事わたしのところまで辿り着いたら、わたしが直々に殺してやろう」
「いえまさか、第二王子ともあろう御方のお手を煩わせるわけにはいきません。クラウディオ様がお手を汚す前に、わたくしがアステアの総大将の首を取り、それをクラウディオ様に御献上致します」

 ……売った喧嘩を10倍で買われたのなら、私はそれを100倍にして売り返す。
 そんな信念を掲げ、私はクラウディオ様にニッコリ笑いかけた。

「では、戦場でまたお会いしましょう。どうぞご自愛ください」
「あぁ、また会えるのを楽しみにしている。わたしに殺されるために元気でな」

 私たちは最後に笑い合うと、「失礼致しました」と言い残し部屋を辞した。
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