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姫様を幸せにしてくれる人

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 とまぁここまで見目麗しい攻略対象サマと立て続けに会うことが出来たわけだか、一応復習しておこう。

 姫様をフッて私のことが好きだとか何とか言い出したのが、騎士のディラス。
 私はコイツが嫌いで、いけ好かない。チャラチャラしたイケメンだから。
 それゆえ、できることなら姫様とくっついて欲しくないキャラだ。
 姫様のエンドなら私は隣国に飛ばされ、私のエンドなら姫様は心に傷を負って部屋から出てこなくなる。

 庭園の一角でハーブを育てていたのが、料理長のドドリー。
 真っ直ぐな性格で、よく言えば純粋無垢、悪く言えば単細胞、バカ真面目だ。
 私は別に嫌いなキャラではないが、私のエンドが凄惨なためにできればご遠慮願いたい。姫様が幸せならそれでも受け入れれるが。
 姫様のエンドなら私は凄惨せいさん殺戮さつりくエンドを迎え、私のエンドなら姫様は料理に毒を盛られる。それで死ぬわけではなかったはずだが、姫様をそんな目にあわせるわけにはいかない。
 既に嫌われているため心配は少ないが、念の為警戒と嫌われる努力を怠ってははならない。

 姫様の体質を抑える薬を作っているのが、姫様専属の薬師、クローム。
 基本無口だが、クロームのルートに入れば以前よりはよく喋るようになる。
 私はこのキャラが2番目に好きだ。それに、姫様に何かがあればすぐ動ける。私は姫様に、クロームを選んで欲しい。
 姫様のエンドなら私は解雇され、私のエンドなら姫様は虚弱体質により倒れ、場合によっては死ぬ。
 私のエンドになった場合、姫様が最悪なエンドを迎えるのはクロームだが、万が一を考えると近くにいるのはクロームであってほしいという私の我儘だ。

 そして、姫様ファンクラブ会員番号2番の神官長、ヴェロール。
 辛辣な物言いが特徴で、一部の層には絶大な人気を誇っていた。――何を隠そう、私もその一部の層で、私の1番の推しなのだ――
 私的には姫様とくっついてくれれば姫様とヴェロールという、眩しく輝くツーショットになるわけだが、どうしたものか。
 姫様のエンドなら私は隣国に飛ばされ、私のエンドなら姫様は雷に打たれてしまう。曰く、『神の思し召し』だそうだ。

 攻略対象ではないが、私と仲良くしてくれるおそらく唯一であろう盟友、カルラのことも忘れてはいけない。彼も一応イケメン枠で、ドドリーのルートでは必ずと言っていいほど乱入してくる。

 ざっとこんな感じだ。
 国外追放やら解雇やらはマルチエンディングで、かなり色々な理由があった。
「姫様毒殺の疑惑をかけられて隣国に追放、この国に立ち入ることは一生涯許されない」
「何となく攻略対象サマがアイリスのことを気に入らないから」
 などと、妙に具体的な理由からアバウトすぎる理由まで様々で、私はそれらの全てを見れたわけではない。かろうじて「何となく解雇」が見れたくらいだ。姫様毒殺云々うんぬんは、うっかりネタバレサイトを見てしまった時に見つけた記事だ。
 まぁそもそも私が姫様を毒殺する気は無いのでその線はないと考えても大丈夫だろう。
 他の理由で隣国やら遠い国やらに追放されるのだろう。

 ちなみに、攻略対象サマにはそれぞれファンクラブがある。姫様ファンクラブのようなものだ。
 1番会員数が多いのはディラスだ。まぁあの見た目だし騎士だし、当然と言えば当然だが。
 このファンクラブ会員たちによって姫様、あるいはアイリスに嫌がらせがあったりするのだ。
 ディラスルートを進めていたら、「ディラス様に近付きすぎだ」と、誰にも見られないように水をぶっかけられたり、転ばせられたり、色々だ。
 酷い団体がいたものだが、彼らはちゃんと断罪される。攻略対象サマにそれがバレて、直々に手を下したり裁判にかけていたり。怖っ。


 余談が長かったが、まぁ兎にも角にもつまるところ、姫様が誰かと結ばれればいい話だ。それも、姫様を幸せにしてくれる人と。
「……大丈夫かなぁ」
 今のところ姫様に恋愛フラグが立っている様子は見当たらない。メイドとして姫様を物陰からこっそり見ているからよく分かるのだ。でもいやまぁディラスのことが好きだってのは見ればわかるのだけれど。
 もしこのまま誰とも結ばれなければ――
「いっそ私と……?」
 いや待てどんなエンドだ、落ち着け私。
 とにかく。
 花祭りになればそれは分かることだ。
 花祭りまでに、姫様の恋愛フラグを立てるか、あるいは気付かぬうちに立っていたのかを見極める。花祭りになれば、全てが分かる。
 これから忙しくなるが仕方がない、すべては姫様のために!

「えいえいおー!」

 ――意気揚々と挙げられた手はひとり寂しく虚空を漂ったのは言うまでもないことだ。
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