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13話 愛の囁き
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「アラン、大変よ!」
大きな声で、アランを呼ぶ。
「危ない物ならすぐに離れて!」
ティーポットを放り投げそうな勢いで荒々しく置き、アランが走ってくる。
「違うの。お金が入っていたの」
お札の束を見せると、アランは安心したように頬を緩めた。
二人でソファーに腰掛け、顔を寄せて手紙を読む。手紙は四封入っていた。
クリストフお兄様は健全な領地経営をしてくれているようで、領民からの不満はあまりないとのことだった。
けれど、お養父様が行った土地の入手方法が違法だったとして、私に罰金を支払うように命令したと書かれていた。ボーヴォワールの土地を査定し、買い取り額をお養父様が払ったらしい。
クリストフお兄様からの手紙は、父親の言うとおりに領主の座に就いた旨を詫び、今後はワインの売上の1割を支払うと、認められていた。
ジュストからも慰謝料という名目でお金が入っていた。一応謝罪の言葉が書かれていたけれど、きっと殿下からのご命令で、嫌々書いたのだろう。もしかして側近に書かせたかもしれない。
私はジュストから直筆の何かをもらったことがないから、どんな字を書くのか知らない。だから確認のしようがなかった。
最後はリュエットからだった。
貴族学校での私に対する謝罪と、ジュストの身分に惹かれた自分を恥じている。今は年下の男爵との再婚に向けて、ジュストとは離婚裁判中だと書かれてあった。
「お養父様、違法だって認めたのかしら。いいえ、きっと認めていないわね。でも、本当に払ってくれるなんて」
大金をいきなり送ってこられても、戸惑ってしまう。だけど、とてもありがたい。トマからいただく給金を貯蓄に回すと、あまり余裕がないから。
生活をするのは、すごくお金がかかるのだと、アノルド国に来てから知った。
「殿下のご命令なら、従うしかないからね。悔しがっておられるかもしれないね」
「あのお養父様のことだから、それすらも顔色を変えずに受け入れたんでしょうね」
「殿下のお陰で、夢に近づけるね。二軒目のルクディア料理専門店開業に向けて」
「ええ、そうね。今すぐにでも開店できそうだけど、もっと腕を上げなきゃ」
アランが私の手を取った。毎日料理や洗い物をするようになって、私の手肌は少し荒れるようになった。腕には火傷の跡もある。ルクディアにいたなら、手荒れなんで絶対にしなかった。だから、これらのケガは私の勲章のようなもの。この腕で生きている証。
「シェリーヌの料理の腕は上がり続けているよ。もうわたしでは、足元に及ばない」
アランが手荒れ用のクリームを塗りこんでくれる。一本一本、私の指を丁寧に包み込んで。
「アランのお料理もとても美味しいわ。サーブ込みでね。家なのに高級料理店に来た気分になれるもの」
「あなたが召し上がる物には、わたしの想いを溢れんばかりにいれていますから」
「アラン‥‥‥言葉が戻っているわ」
アランが愛を囁いてくれる時は、なぜだが側近時代の話し方に戻る。照れ隠し、なのかもしれない。
「ねえ、どうして、私を好きになってくれたの?」
「お生まれになった時からです」
「本当に!? それって執事教育による刷り込みでしょう? ボーヴォワール家の執事は優秀過ぎるわ」
「お褒めいただき光栄です」
「それじゃ、異性として意識してくれたのは?」
「あなたがわたしにだけ、素の顔を見せてくれるからです。ご両親よりも、わたしに甘え、素敵な笑顔を見せてくれるからです」
「だって、アランだけが、素の私でいさせてくれることを許してくれたんだもの」
「感情を抑えるあなたが、苦しそうでしたから。せめて、わたしの前でだけでも楽にしてさしあげたかった」
「ブランヴィル領に来たときにお養父様たちに、意地悪されなかったの? クラリッサは帰ってしまったのに」
「あなたの傍にいられない方が、苦痛です」
「私、愛され過ぎね」
アランは両手で包むように、私の手を握る。
「シェリーヌ。わたしはとても幸せです。あなたがこんなに近くにいるなんて」
「わたしもよ、アラン。あなたに触れてもらえるなんて、こんなに幸せなことはないわ」
「わたしのシェリーヌ。どれだけ愛を告げても、すべての気持ちが伝わっている気がしない。わたし自身とても戸惑っています。愛情とは毎日こんなに、溢れてくるものなのでしょうか」
「アラン、私も愛してい――」
私の愛の囁きは、アランの唇に塞がれ、最後まで言わせてもらえなかった。
3年後、私とアランは、トマの店から巣立ち、自分たちの店を持った。
トマの店より少し大きな店舗を借り、スタッフを雇った。
アランがウエイター教育を行い、一流のサーブを提供。
料理人はボーヴォワールから希望者を募った。
本格的なルクディアのコース料理が食べられ、接客が丁寧だと評判が人を呼び、トマに笑って嫉妬されるほどの、人気店となった。
1年後に妊娠した私は、悪阻で少しつらい思いをしながらも、アランのサポートを受けながら、できる限りキッチンに立った。
そして、アランによく似た面立ちの男の子を出産した。
彼にはリュカと名付けた。
リュカの髪は艶やかなグレー。
出産と同時に、アノルド国から私たちに贈り物が届いた。
それは、私とアランとリュカの、国籍だった。
<了>
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
二人の物語はいかがでしたでしょうか。
異世界恋愛は初めてなので、未熟な点(ざまあがぬるい甘いなど)があったかもしれませんが、さまざまな感想を頂き、考え方など勉強になりました。
想像以上にたくさんの方にお読み頂け、お気に入り登録をしていただけたこと、とても感謝しております。また励まされました。
心より感謝申し上げます。
大きな声で、アランを呼ぶ。
「危ない物ならすぐに離れて!」
ティーポットを放り投げそうな勢いで荒々しく置き、アランが走ってくる。
「違うの。お金が入っていたの」
お札の束を見せると、アランは安心したように頬を緩めた。
二人でソファーに腰掛け、顔を寄せて手紙を読む。手紙は四封入っていた。
クリストフお兄様は健全な領地経営をしてくれているようで、領民からの不満はあまりないとのことだった。
けれど、お養父様が行った土地の入手方法が違法だったとして、私に罰金を支払うように命令したと書かれていた。ボーヴォワールの土地を査定し、買い取り額をお養父様が払ったらしい。
クリストフお兄様からの手紙は、父親の言うとおりに領主の座に就いた旨を詫び、今後はワインの売上の1割を支払うと、認められていた。
ジュストからも慰謝料という名目でお金が入っていた。一応謝罪の言葉が書かれていたけれど、きっと殿下からのご命令で、嫌々書いたのだろう。もしかして側近に書かせたかもしれない。
私はジュストから直筆の何かをもらったことがないから、どんな字を書くのか知らない。だから確認のしようがなかった。
最後はリュエットからだった。
貴族学校での私に対する謝罪と、ジュストの身分に惹かれた自分を恥じている。今は年下の男爵との再婚に向けて、ジュストとは離婚裁判中だと書かれてあった。
「お養父様、違法だって認めたのかしら。いいえ、きっと認めていないわね。でも、本当に払ってくれるなんて」
大金をいきなり送ってこられても、戸惑ってしまう。だけど、とてもありがたい。トマからいただく給金を貯蓄に回すと、あまり余裕がないから。
生活をするのは、すごくお金がかかるのだと、アノルド国に来てから知った。
「殿下のご命令なら、従うしかないからね。悔しがっておられるかもしれないね」
「あのお養父様のことだから、それすらも顔色を変えずに受け入れたんでしょうね」
「殿下のお陰で、夢に近づけるね。二軒目のルクディア料理専門店開業に向けて」
「ええ、そうね。今すぐにでも開店できそうだけど、もっと腕を上げなきゃ」
アランが私の手を取った。毎日料理や洗い物をするようになって、私の手肌は少し荒れるようになった。腕には火傷の跡もある。ルクディアにいたなら、手荒れなんで絶対にしなかった。だから、これらのケガは私の勲章のようなもの。この腕で生きている証。
「シェリーヌの料理の腕は上がり続けているよ。もうわたしでは、足元に及ばない」
アランが手荒れ用のクリームを塗りこんでくれる。一本一本、私の指を丁寧に包み込んで。
「アランのお料理もとても美味しいわ。サーブ込みでね。家なのに高級料理店に来た気分になれるもの」
「あなたが召し上がる物には、わたしの想いを溢れんばかりにいれていますから」
「アラン‥‥‥言葉が戻っているわ」
アランが愛を囁いてくれる時は、なぜだが側近時代の話し方に戻る。照れ隠し、なのかもしれない。
「ねえ、どうして、私を好きになってくれたの?」
「お生まれになった時からです」
「本当に!? それって執事教育による刷り込みでしょう? ボーヴォワール家の執事は優秀過ぎるわ」
「お褒めいただき光栄です」
「それじゃ、異性として意識してくれたのは?」
「あなたがわたしにだけ、素の顔を見せてくれるからです。ご両親よりも、わたしに甘え、素敵な笑顔を見せてくれるからです」
「だって、アランだけが、素の私でいさせてくれることを許してくれたんだもの」
「感情を抑えるあなたが、苦しそうでしたから。せめて、わたしの前でだけでも楽にしてさしあげたかった」
「ブランヴィル領に来たときにお養父様たちに、意地悪されなかったの? クラリッサは帰ってしまったのに」
「あなたの傍にいられない方が、苦痛です」
「私、愛され過ぎね」
アランは両手で包むように、私の手を握る。
「シェリーヌ。わたしはとても幸せです。あなたがこんなに近くにいるなんて」
「わたしもよ、アラン。あなたに触れてもらえるなんて、こんなに幸せなことはないわ」
「わたしのシェリーヌ。どれだけ愛を告げても、すべての気持ちが伝わっている気がしない。わたし自身とても戸惑っています。愛情とは毎日こんなに、溢れてくるものなのでしょうか」
「アラン、私も愛してい――」
私の愛の囁きは、アランの唇に塞がれ、最後まで言わせてもらえなかった。
3年後、私とアランは、トマの店から巣立ち、自分たちの店を持った。
トマの店より少し大きな店舗を借り、スタッフを雇った。
アランがウエイター教育を行い、一流のサーブを提供。
料理人はボーヴォワールから希望者を募った。
本格的なルクディアのコース料理が食べられ、接客が丁寧だと評判が人を呼び、トマに笑って嫉妬されるほどの、人気店となった。
1年後に妊娠した私は、悪阻で少しつらい思いをしながらも、アランのサポートを受けながら、できる限りキッチンに立った。
そして、アランによく似た面立ちの男の子を出産した。
彼にはリュカと名付けた。
リュカの髪は艶やかなグレー。
出産と同時に、アノルド国から私たちに贈り物が届いた。
それは、私とアランとリュカの、国籍だった。
<了>
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
二人の物語はいかがでしたでしょうか。
異世界恋愛は初めてなので、未熟な点(ざまあがぬるい甘いなど)があったかもしれませんが、さまざまな感想を頂き、考え方など勉強になりました。
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