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11話 ジュストは残念な人
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いきおいよく振り返ったジュストは、
「アドリック! それは言わないで‥‥‥」
情けないほど狼狽した。アドリック殿下の敬称を付け忘れている。二人はきっと仲が良いのだろう。
しかし、この場で暴露してしまって良かったのだろうか。アノルド国の要人たちは、目を丸くしていたり、失笑したりしている。
ジュストがどういう立場でここに来ているのか、私は知らない。外交に影響が出ないのかと、心配になった。
「奥方ということは、ジュスト様、ご結婚なさっているのですね。おめでとうございます。お相手はもしかしてリュエット様ですか」
場の空気を変えたくてリュエットのことを口にしたけれど、自滅したことに気がついた。あの意地悪な目つきと縦巻きロールを思い出して、心にちくっと棘が刺さった。
私に顔を戻したジュストは、苦いものを噛み潰したような顔をしていた。
「そうだ。貴族学校卒業後、すぐにリュエットと結婚した。どうしてもと懇願するから、花嫁修業は全部飛ばして。だが、あいつは余所に男を作った。俺は裏切られた」
ジュストは憤っているようだけど、同情の気持ちはまったく湧かない。心当たりがあったから。
「ジュスト様、ご結婚なさっても、別のご令嬢から手紙や贈り物を頂いていませんでしたか。それをリュエット様にご自慢なさったのではありませんか?」
「そうだ。よくわかったな」
「ああー。まだやっていらっしゃったのですね」
「どういうことだ」
ジュストは怪訝そうな顔をする。本気でわからないらしい。
「私はそれが嫌だったのです。気持ちが私にないことがわかりましたから。やはり結婚なさっても、続けておられたのですね。いけませんよ」
「なにがいけないんだ。夫に人気があるのは、妻にとっても喜ばしいことではないのか」
「ありえません。妻だけを見て、愛して欲しいに決まっているでは、ありませんか」
「そういうものなのか。心が狭いな。結婚すれば幸せではないのか? リュエットはそう言ったんだが」
場が一瞬静まり返ったあと、盛大な笑い声が上がった。
明らかな嘲笑に、ジュストが焦ったように顔をきょろきょろさせる。
アノルド国の要人、控えている護衛、ウエイターも、ルクディア国以外、みんな笑っている。
私は呆れて言葉が出せなくなった。この人が、ここまで残念な人だったなんて。
ジュストは与えられることが当たり前過ぎて、人に与えることができない人なのだろう。
もう会う事はないだろうリュエットが、少し可哀想に思えた。
今、リュエットに会えば、もしかして意気投合するかもしれない。ジュストのダメっぷりに呆れて。
でもすぐに思い直す。それはないわね、と。
私がジュストに自慢されているところを、リュエットは見ていた。だからわかっているはず。ジュストがそういう人だということを。
結婚すればなくなる、もしくは自分に対しては絶対にしない、と彼女には自信があったのかもしれない。
リュエットに、人を見る目はなかった。
私には、人を見る目があった。
絶対的に信頼できる人が、私の傍にいてくれる。
私を守ってくれるアランの背中は、誰よりも頼もしかった。
次回⇒12話 殿下の取り計らい
「アドリック! それは言わないで‥‥‥」
情けないほど狼狽した。アドリック殿下の敬称を付け忘れている。二人はきっと仲が良いのだろう。
しかし、この場で暴露してしまって良かったのだろうか。アノルド国の要人たちは、目を丸くしていたり、失笑したりしている。
ジュストがどういう立場でここに来ているのか、私は知らない。外交に影響が出ないのかと、心配になった。
「奥方ということは、ジュスト様、ご結婚なさっているのですね。おめでとうございます。お相手はもしかしてリュエット様ですか」
場の空気を変えたくてリュエットのことを口にしたけれど、自滅したことに気がついた。あの意地悪な目つきと縦巻きロールを思い出して、心にちくっと棘が刺さった。
私に顔を戻したジュストは、苦いものを噛み潰したような顔をしていた。
「そうだ。貴族学校卒業後、すぐにリュエットと結婚した。どうしてもと懇願するから、花嫁修業は全部飛ばして。だが、あいつは余所に男を作った。俺は裏切られた」
ジュストは憤っているようだけど、同情の気持ちはまったく湧かない。心当たりがあったから。
「ジュスト様、ご結婚なさっても、別のご令嬢から手紙や贈り物を頂いていませんでしたか。それをリュエット様にご自慢なさったのではありませんか?」
「そうだ。よくわかったな」
「ああー。まだやっていらっしゃったのですね」
「どういうことだ」
ジュストは怪訝そうな顔をする。本気でわからないらしい。
「私はそれが嫌だったのです。気持ちが私にないことがわかりましたから。やはり結婚なさっても、続けておられたのですね。いけませんよ」
「なにがいけないんだ。夫に人気があるのは、妻にとっても喜ばしいことではないのか」
「ありえません。妻だけを見て、愛して欲しいに決まっているでは、ありませんか」
「そういうものなのか。心が狭いな。結婚すれば幸せではないのか? リュエットはそう言ったんだが」
場が一瞬静まり返ったあと、盛大な笑い声が上がった。
明らかな嘲笑に、ジュストが焦ったように顔をきょろきょろさせる。
アノルド国の要人、控えている護衛、ウエイターも、ルクディア国以外、みんな笑っている。
私は呆れて言葉が出せなくなった。この人が、ここまで残念な人だったなんて。
ジュストは与えられることが当たり前過ぎて、人に与えることができない人なのだろう。
もう会う事はないだろうリュエットが、少し可哀想に思えた。
今、リュエットに会えば、もしかして意気投合するかもしれない。ジュストのダメっぷりに呆れて。
でもすぐに思い直す。それはないわね、と。
私がジュストに自慢されているところを、リュエットは見ていた。だからわかっているはず。ジュストがそういう人だということを。
結婚すればなくなる、もしくは自分に対しては絶対にしない、と彼女には自信があったのかもしれない。
リュエットに、人を見る目はなかった。
私には、人を見る目があった。
絶対的に信頼できる人が、私の傍にいてくれる。
私を守ってくれるアランの背中は、誰よりも頼もしかった。
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