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1話 幼き日の約束
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月明かりに照らされた雪が、きらきらと舞い落ちてくる。
手を伸ばして、受け止める。外が寒いせいか、冷たさは感じない。
体温で溶けてしまうのが惜しくて、何度も手のひらに雪を乗せて遊んでいると、
「シェリーヌ様、お風邪をひきますよ」
背中に声がかかった。振り返らなくても誰かわかる。
側近のアランだ。
私が生まれた時からそばにいて、5年になる。私のことはなんでも知っている。降雪に気づいて、パーティー真っ最中の大広間からこっそりバルコニーにきたのに。すぐに見つかった。
「だって、雪が降ってきたのよ」
「シェリーヌ様のお誕生祭の頃には、必ず降ってくれますね。失礼いたします」
アランが肩にマントを掛けてくれる。
アランは4歳年上だから、まだ9歳。気が利くし、物知り。
とても優秀な側近に、一人っ子の私は兄のように懐いていた。この頃はまだ。
「明日、積もるかしら」
バルコニーに落ちる雪は、すっと溶けて消えていく。
「きっと積もるでしょう」
アランが言うんだから、きっとそのとおりになるわね。
「楽しみ。たくさん遊ぶんだから」
「お付き合い致します」
「今年は負けないんだからね」
振り返ると、アランの顔が目の前にあった。片膝をついて、顔の高さを合わせてくれる。アランの黒い瞳と視線が合う。
「お嬢様といえど、手加減は致しませんよ」
穏やかな微笑み。
「いらないわ。全力でかかっていらっしゃい」
私の返答に、彼の目と口が緩む。とても優しい表情。私はアランのこの顔が大好き。安心できるから。
戻りましょうと促してくる彼を、私は呼び止めた。
「待って。まだ、アランからもらっていないわ」
立ち上がりかけたアランが、ジャケットの内ポケットから紙の包みを取り出した。
「恐縮ですが、こちらをお収めください。お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。開けてもいい?」
アランが頷くのを見てから、私は受け取った包みを開いた。
「わあ、かわいい」
青みがかった雪の結晶の髪留め。
「シェリーヌ様の銀糸のような髪に映えるように、色をつけていただきました」
「すごくステキ! ねえ、つけて」
髪留めが左のこめかみの辺りに差し込まれる。鏡で見たいと思っていると、アランは手鏡を用意していた。さすが出来る側近ね。
アランが言うとおり、銀色の髪に、淡く青い光を放つ雪の結晶は、とてもきれいに映えている。白だったら髪に同化していたわね。
鏡に映る私は、自分でいうのもなんだけど、とても嬉しそうに笑っていた。
「アラン。ずっと、ずーっと、私のそばにいてね」
「あなた様の仰せのままに。このアランは、ずっとお傍におります」
幼いころの無邪気な約束は、今も守られている。この3年後に両親を病で失い、領地から離れることになって8年経つ今も。アランだけは、私に仕えてくれている。
次回⇒2話 婚約破棄をされまして
手を伸ばして、受け止める。外が寒いせいか、冷たさは感じない。
体温で溶けてしまうのが惜しくて、何度も手のひらに雪を乗せて遊んでいると、
「シェリーヌ様、お風邪をひきますよ」
背中に声がかかった。振り返らなくても誰かわかる。
側近のアランだ。
私が生まれた時からそばにいて、5年になる。私のことはなんでも知っている。降雪に気づいて、パーティー真っ最中の大広間からこっそりバルコニーにきたのに。すぐに見つかった。
「だって、雪が降ってきたのよ」
「シェリーヌ様のお誕生祭の頃には、必ず降ってくれますね。失礼いたします」
アランが肩にマントを掛けてくれる。
アランは4歳年上だから、まだ9歳。気が利くし、物知り。
とても優秀な側近に、一人っ子の私は兄のように懐いていた。この頃はまだ。
「明日、積もるかしら」
バルコニーに落ちる雪は、すっと溶けて消えていく。
「きっと積もるでしょう」
アランが言うんだから、きっとそのとおりになるわね。
「楽しみ。たくさん遊ぶんだから」
「お付き合い致します」
「今年は負けないんだからね」
振り返ると、アランの顔が目の前にあった。片膝をついて、顔の高さを合わせてくれる。アランの黒い瞳と視線が合う。
「お嬢様といえど、手加減は致しませんよ」
穏やかな微笑み。
「いらないわ。全力でかかっていらっしゃい」
私の返答に、彼の目と口が緩む。とても優しい表情。私はアランのこの顔が大好き。安心できるから。
戻りましょうと促してくる彼を、私は呼び止めた。
「待って。まだ、アランからもらっていないわ」
立ち上がりかけたアランが、ジャケットの内ポケットから紙の包みを取り出した。
「恐縮ですが、こちらをお収めください。お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。開けてもいい?」
アランが頷くのを見てから、私は受け取った包みを開いた。
「わあ、かわいい」
青みがかった雪の結晶の髪留め。
「シェリーヌ様の銀糸のような髪に映えるように、色をつけていただきました」
「すごくステキ! ねえ、つけて」
髪留めが左のこめかみの辺りに差し込まれる。鏡で見たいと思っていると、アランは手鏡を用意していた。さすが出来る側近ね。
アランが言うとおり、銀色の髪に、淡く青い光を放つ雪の結晶は、とてもきれいに映えている。白だったら髪に同化していたわね。
鏡に映る私は、自分でいうのもなんだけど、とても嬉しそうに笑っていた。
「アラン。ずっと、ずーっと、私のそばにいてね」
「あなた様の仰せのままに。このアランは、ずっとお傍におります」
幼いころの無邪気な約束は、今も守られている。この3年後に両親を病で失い、領地から離れることになって8年経つ今も。アランだけは、私に仕えてくれている。
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