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41.生まれた病院
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ずっと母、麻衣子の手だと思ってきたほくろのある腕。
祖母から、麻衣子の腕にほくろはないと言い切られた。
だから汚れなのだろうと、アルバムを見返してそう思った。それなのに、千里の左腕にほくろがあった。求めていたものと同じなのかはわからないけど、たしかに存在していた。
理解できなくて、軽いパニック状態で一穂は病院を出た。
どういうこと? たまたま同じところにあった? どうして今まで気づかなかった?
疑いもしなかった。あの写真が母ではない可能性なんて。
もしかすると千里がお見舞いに来ていて、生まれたばかりの一穂を抱いたのかもしれない。
でも待って。あの袖はパジャマのような柄だった。
それに、母ではない他人が抱いている写真をアルバムの一枚目に貼りつける?
そういえば、妊娠中の母の写真は一枚も見ていない。
疑いだすと、きりがなくなっていく。
疑惑は一穂の中でどんどんふくらんでいき、あの写真の人物は、千里以外に考えられなくなっていた。
もしかして、でもまさか、という思いに囚われる。
晧月に戻ると、自室の押し入れの棚に保管している両親の荷物をすべて出した。母のアクセサリー、父の時計、二人のアルバムと写真データが残っている携帯電話と充電器。
やはり母の妊娠期の写真がない。それに母子手帳も。
片付けの最中に紛失した可能性もあるけれど、すべて無くなるとは考えにくい。
千里には怪我の治療に専念してもらいたから、訊ねることはできない。
出先から晧月に戻ってきた源三郎に訊ねてみたが、複数人で片付けたのでわからないとのこと。
「あたしの生まれた産婦人科ってどこか知ってる?」
「産婦人科は知らんなあ。それがどうしたのか?」
ほくろのことを言うべきか迷ったが、一穂は嘘をついた。
「学校でさ、自分のルーツを辿るって課題があって、調べなくちゃいけなくて。お祖父ちゃんたちが生きてたら教えてもらたのかな」
「佑介たちが十五年前に住んでいたところは足立区だ。近辺の病院を当たれば見つかるかもしれんぞ」
「足立区か。ネットで調べたらわかるかな」
「電話帳という手段もあるぞ」
「電話帳って何? そんなのあるの?」
「俺の住んでる所には毎年新しい電話帳が届くんだが、この辺もあるんじゃないかな」
「探してみる」
リビングを見渡し、置いてありそうな場所の検討をつける。
二人でテレビ台と食器台を見てみたけれど、電話帳は見当たらない。
千里の自室にあるのなら探しにはいけない。一緒に暮らしているとはいえ、千里の私室に無断で入るのは気が引ける。
一穂はお店にあるのではとひらめいて、一階に降りた。
主不在の晧月は一穂と源三郎の出入り以外に今は使っていない。
窓から入る外の明かりがうっすらと差し込んでいるがそれでも暗く、少し不気味だった。いつもはお客で賑やかなお店に人がいないのは、とても寂しかった。
電気をつけて、厨房の後ろにある電話台の下の扉を開ける。
「これかな?」
冊子を見つけてぱらぱらと捲ってみると、病院や会社の広告とともに、会社名と電話番号だけが掲載されているのを見つけた。
地域毎やジャンル別になっているので、ネットで調べつつ電話帳でもチェックしてみることにした。
書き出して一覧にまとめ、翌日から電話をかけていく。
自分の身分を明かして事情を説明し、須田麻衣子・もしくは上月千里という名前の妊婦が15年前の1月14日女の赤ちゃんを出産していないかと訊ねる。
日曜日であってもスタッフはいて、電話応対してくれた。
十五年も前の出産だから調べられない、個人情報なので教えられない、と断られる事もあったが、一穂の真剣な声と言葉に耳を傾けて、調べてくれるという病院もあった。
数日後、該当患者が見つかったという葛飾にある産婦人科が連絡をくれた。学校が終わった後か、土日ならいつでもいいので伺いたいとお願いした。学校帰りだと千葉に戻るのに夜が遅くなるからと気遣われ、土曜日昼一時にどうぞと時間を取ってもらえた。
一週間を、一穂はそわそわした気持ちで過ぎるのを待った。
その間に千里は骨折の再手術を受け、容体が落ち着いたことから一般の病室に移った。
祖母から、麻衣子の腕にほくろはないと言い切られた。
だから汚れなのだろうと、アルバムを見返してそう思った。それなのに、千里の左腕にほくろがあった。求めていたものと同じなのかはわからないけど、たしかに存在していた。
理解できなくて、軽いパニック状態で一穂は病院を出た。
どういうこと? たまたま同じところにあった? どうして今まで気づかなかった?
疑いもしなかった。あの写真が母ではない可能性なんて。
もしかすると千里がお見舞いに来ていて、生まれたばかりの一穂を抱いたのかもしれない。
でも待って。あの袖はパジャマのような柄だった。
それに、母ではない他人が抱いている写真をアルバムの一枚目に貼りつける?
そういえば、妊娠中の母の写真は一枚も見ていない。
疑いだすと、きりがなくなっていく。
疑惑は一穂の中でどんどんふくらんでいき、あの写真の人物は、千里以外に考えられなくなっていた。
もしかして、でもまさか、という思いに囚われる。
晧月に戻ると、自室の押し入れの棚に保管している両親の荷物をすべて出した。母のアクセサリー、父の時計、二人のアルバムと写真データが残っている携帯電話と充電器。
やはり母の妊娠期の写真がない。それに母子手帳も。
片付けの最中に紛失した可能性もあるけれど、すべて無くなるとは考えにくい。
千里には怪我の治療に専念してもらいたから、訊ねることはできない。
出先から晧月に戻ってきた源三郎に訊ねてみたが、複数人で片付けたのでわからないとのこと。
「あたしの生まれた産婦人科ってどこか知ってる?」
「産婦人科は知らんなあ。それがどうしたのか?」
ほくろのことを言うべきか迷ったが、一穂は嘘をついた。
「学校でさ、自分のルーツを辿るって課題があって、調べなくちゃいけなくて。お祖父ちゃんたちが生きてたら教えてもらたのかな」
「佑介たちが十五年前に住んでいたところは足立区だ。近辺の病院を当たれば見つかるかもしれんぞ」
「足立区か。ネットで調べたらわかるかな」
「電話帳という手段もあるぞ」
「電話帳って何? そんなのあるの?」
「俺の住んでる所には毎年新しい電話帳が届くんだが、この辺もあるんじゃないかな」
「探してみる」
リビングを見渡し、置いてありそうな場所の検討をつける。
二人でテレビ台と食器台を見てみたけれど、電話帳は見当たらない。
千里の自室にあるのなら探しにはいけない。一緒に暮らしているとはいえ、千里の私室に無断で入るのは気が引ける。
一穂はお店にあるのではとひらめいて、一階に降りた。
主不在の晧月は一穂と源三郎の出入り以外に今は使っていない。
窓から入る外の明かりがうっすらと差し込んでいるがそれでも暗く、少し不気味だった。いつもはお客で賑やかなお店に人がいないのは、とても寂しかった。
電気をつけて、厨房の後ろにある電話台の下の扉を開ける。
「これかな?」
冊子を見つけてぱらぱらと捲ってみると、病院や会社の広告とともに、会社名と電話番号だけが掲載されているのを見つけた。
地域毎やジャンル別になっているので、ネットで調べつつ電話帳でもチェックしてみることにした。
書き出して一覧にまとめ、翌日から電話をかけていく。
自分の身分を明かして事情を説明し、須田麻衣子・もしくは上月千里という名前の妊婦が15年前の1月14日女の赤ちゃんを出産していないかと訊ねる。
日曜日であってもスタッフはいて、電話応対してくれた。
十五年も前の出産だから調べられない、個人情報なので教えられない、と断られる事もあったが、一穂の真剣な声と言葉に耳を傾けて、調べてくれるという病院もあった。
数日後、該当患者が見つかったという葛飾にある産婦人科が連絡をくれた。学校が終わった後か、土日ならいつでもいいので伺いたいとお願いした。学校帰りだと千葉に戻るのに夜が遅くなるからと気遣われ、土曜日昼一時にどうぞと時間を取ってもらえた。
一週間を、一穂はそわそわした気持ちで過ぎるのを待った。
その間に千里は骨折の再手術を受け、容体が落ち着いたことから一般の病室に移った。
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