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33.クズ男
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漁師たちにぼこぼこにされたピアスや銀髪たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
警察が来るとのちのち面倒だから、と漁師たちとともに、千里たちも半分に折れ曲がったフライパンを回収してから移動した。
逃げ出した男たちがもしも後をつけていたらまずいからと、漁業組合の事務所に向かう。
千里は一度店に戻ってから事務所に向かうと告げて、一穂たちから離れた。
店に戻ると、暖簾をしまった優紀が洗い物をしてくれていた。
「優紀さん、ごめんなさい。今日もう上がってください」
「女将さん、お帰りなさい。一穂ちゃん大丈夫でしたか」
「ええ。友達が変な男たちにつき纏われていて、漁師さんたちが助けてくれたの。怪我はしてないと思う」
「無事で良かったです」
優紀を見送ってから、千里も鍵を閉めて、漁業組合の事務所に向かった。
事務所のソファーには組合長と拓海ら数人の漁師がいて、朋夏が一穂と美央に付き添ってくれていた。
千里が来るまで話を聞くのを待っていてくれたらしい。
まだ青い顔をしていたが、いくぶんか顔色の戻った美央がぽつぽつと話しだした。
数日前、恋人と渋谷でデート中、銀髪たち三人の男につき纏われた。肩を小突き合うなどの衝突はあったが、隙を見て恋人と逃げた。それで終わったことだと思っていた。男たちに連絡先がバレるようなことは一切していないと言って泣き出した。
一穂がその先を話した。美央の手を握りながら。
男たちが言うには、恋人を殴って美央の住所かなにかをバラしたようだ。今日、晧月に向かう途中だった美央と出くわし、追いかけられた。逃げる途中で囲まれたところを見つけたと説明した。
「どうして、助けに来てくれたんですか?」
と一穂が質問すると、朋夏が口を開いた。
「近所の小学生が教えてくれたんだよ。晧月のおばちゃんたちが大変だ。男の人と喧嘩してるって」
「子供たちが? どうして警察じゃなくて、ここだったのかしら」
千里が首を傾げて問うと、
「漁師さんたちの方が頼りになりそうだから。だって」
朋夏の言葉に、
「俺たちの町は、俺たちで守らないとな」
と言って拓海たちは二の腕に拳を作った。
「警察に通報しますか」
と組合長が静かに訊ねた。
本当ならば、警察に相談するべきなのだろうが、そうなると騒動を起こした漁師たちも、事情聴取をされることになる。聴取だけですめばいいが、場合によって傷害事件にもなりうるかもしれない。
フライパンを持ち出した千里も、正当防衛に当たらないと言われる可能性もある。
「今後のことを考えるなら、相談はした方がいいかもしれません。住所がバレているのなら、報復される可能性もありますからね」
組合長の言葉に、美央は一度体を震わせたが、「いいえ。しません」と首を横に振った。
「彼には最寄り駅しか、教えていません。住所を知らなかったら、家に来ようがありませんよね」
「念のため、彼に訊ねておいた方がよくないですか? 何を教えたのか」
朋夏の提案に、みんなが頷いた。
美央はスマホを取り出し、電話をかけた。
「もしもし、タツキくん? 聞きたいことがあるんだけど……」
美央は声を震わせながら、男たちにどこまで自分の情報を売ったのか教えて欲しいと話した。
相手が話をはぐらかしているのか、会話が進まない。
「貸して」
美央からスマホを取り上げた一穂が電話の相手と話を進めた。
「最寄り駅とスマホの電話番号ね。ちょっと待ってて。絶対切るなよ」
一穂はスマホから口を話し、
「最近電話かかってきた?」
美央に訊ねた。
「一昨日、知らない番号からあった。出なかったし、すぐに着拒した」
「美央が男らにつき纏われて大変だったんだからね。どうしてこんなことになったの……殴られて脅された? そんなんで彼女売るなよ……許して欲しい? 許してもらえると思ってるわけ? あんたバカじゃないの。美央を危険な目に遭わせておいて、よくも言えたね。もう二度と美央と会うな。あんたのスマホから美央とあたしの情報すべて削除して。わかった? ちょっと待って」
拓海に手を差し出された一穂は、美央のスマホを拓海に渡した。
「おう、クズ。二度と彼女らに手を出さねえと誓え。破ったら俺らがお前のところ乗り込んでやるからな。わかったか」
電話の相手はきっと震えあがっているだろう、拓海の声にはそれだけ迫力があった。
拓海は美央にスマホを返す際、
「バカな男に引っかかっちまったな。でも男が全部あんなバカなわけじゃないから」
と優しく言った。
「ありがとうございました」
受け取った美央は、泣きながらもお礼を伝えた。
警察が来るとのちのち面倒だから、と漁師たちとともに、千里たちも半分に折れ曲がったフライパンを回収してから移動した。
逃げ出した男たちがもしも後をつけていたらまずいからと、漁業組合の事務所に向かう。
千里は一度店に戻ってから事務所に向かうと告げて、一穂たちから離れた。
店に戻ると、暖簾をしまった優紀が洗い物をしてくれていた。
「優紀さん、ごめんなさい。今日もう上がってください」
「女将さん、お帰りなさい。一穂ちゃん大丈夫でしたか」
「ええ。友達が変な男たちにつき纏われていて、漁師さんたちが助けてくれたの。怪我はしてないと思う」
「無事で良かったです」
優紀を見送ってから、千里も鍵を閉めて、漁業組合の事務所に向かった。
事務所のソファーには組合長と拓海ら数人の漁師がいて、朋夏が一穂と美央に付き添ってくれていた。
千里が来るまで話を聞くのを待っていてくれたらしい。
まだ青い顔をしていたが、いくぶんか顔色の戻った美央がぽつぽつと話しだした。
数日前、恋人と渋谷でデート中、銀髪たち三人の男につき纏われた。肩を小突き合うなどの衝突はあったが、隙を見て恋人と逃げた。それで終わったことだと思っていた。男たちに連絡先がバレるようなことは一切していないと言って泣き出した。
一穂がその先を話した。美央の手を握りながら。
男たちが言うには、恋人を殴って美央の住所かなにかをバラしたようだ。今日、晧月に向かう途中だった美央と出くわし、追いかけられた。逃げる途中で囲まれたところを見つけたと説明した。
「どうして、助けに来てくれたんですか?」
と一穂が質問すると、朋夏が口を開いた。
「近所の小学生が教えてくれたんだよ。晧月のおばちゃんたちが大変だ。男の人と喧嘩してるって」
「子供たちが? どうして警察じゃなくて、ここだったのかしら」
千里が首を傾げて問うと、
「漁師さんたちの方が頼りになりそうだから。だって」
朋夏の言葉に、
「俺たちの町は、俺たちで守らないとな」
と言って拓海たちは二の腕に拳を作った。
「警察に通報しますか」
と組合長が静かに訊ねた。
本当ならば、警察に相談するべきなのだろうが、そうなると騒動を起こした漁師たちも、事情聴取をされることになる。聴取だけですめばいいが、場合によって傷害事件にもなりうるかもしれない。
フライパンを持ち出した千里も、正当防衛に当たらないと言われる可能性もある。
「今後のことを考えるなら、相談はした方がいいかもしれません。住所がバレているのなら、報復される可能性もありますからね」
組合長の言葉に、美央は一度体を震わせたが、「いいえ。しません」と首を横に振った。
「彼には最寄り駅しか、教えていません。住所を知らなかったら、家に来ようがありませんよね」
「念のため、彼に訊ねておいた方がよくないですか? 何を教えたのか」
朋夏の提案に、みんなが頷いた。
美央はスマホを取り出し、電話をかけた。
「もしもし、タツキくん? 聞きたいことがあるんだけど……」
美央は声を震わせながら、男たちにどこまで自分の情報を売ったのか教えて欲しいと話した。
相手が話をはぐらかしているのか、会話が進まない。
「貸して」
美央からスマホを取り上げた一穂が電話の相手と話を進めた。
「最寄り駅とスマホの電話番号ね。ちょっと待ってて。絶対切るなよ」
一穂はスマホから口を話し、
「最近電話かかってきた?」
美央に訊ねた。
「一昨日、知らない番号からあった。出なかったし、すぐに着拒した」
「美央が男らにつき纏われて大変だったんだからね。どうしてこんなことになったの……殴られて脅された? そんなんで彼女売るなよ……許して欲しい? 許してもらえると思ってるわけ? あんたバカじゃないの。美央を危険な目に遭わせておいて、よくも言えたね。もう二度と美央と会うな。あんたのスマホから美央とあたしの情報すべて削除して。わかった? ちょっと待って」
拓海に手を差し出された一穂は、美央のスマホを拓海に渡した。
「おう、クズ。二度と彼女らに手を出さねえと誓え。破ったら俺らがお前のところ乗り込んでやるからな。わかったか」
電話の相手はきっと震えあがっているだろう、拓海の声にはそれだけ迫力があった。
拓海は美央にスマホを返す際、
「バカな男に引っかかっちまったな。でも男が全部あんなバカなわけじゃないから」
と優しく言った。
「ありがとうございました」
受け取った美央は、泣きながらもお礼を伝えた。
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