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27.調理開始

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 法事や法要の後の会食のことをお斎おときという。故人の供養をするためだが、参列者へ感謝の気持ちを伝えるためでもあるらしい。

 本来ならば精進料理を出すべきなのだが、年配者にはよくても十代には物足りないだろう。

 今回の十代の参列者は佑介の甥と姪。十七歳の道哉、十五歳の双子陸と海、十二歳の奏、そして一穂の五人。食べ盛りの子供たちに精進料理ばかりと言うのはあまりに気の毒。
 唐揚げや春巻きなどお腹がいっぱいなるようなものを作ってあげたい。

 千里が作ろうと思っているメニューは筑前煮・里芋の煮っころがし・大根とイカの煮込み・切り干し大根・おからの煮物・夏野菜のお浸し。唐揚げ・春巻き・天ぷら。ポテトサラダ・春雨サラダ・マカロニサラダ。お吸い物とあとは枝豆やキュウリの漬物など残った食材でおつまみを数点。

 定休日の月曜日以外、毎日店の準備を一人でしている千里にとっては、十二人分など、大した量ではない。

 切り干し大根を水につけて戻している間に、筑前煮用の野菜を一口サイズや乱切りにして切り分け、下茹でする。
 鶏もも肉を皮から焼き、冷ましている間にさやいんげんの筋を取って茹でておく。
 一口サイズに切った鶏肉を煮立った出汁汁に入れ、出てくるアクを取っていく。一度鶏肉を引き上げ、野菜を入れて煮ていく。
 味付けは、砂糖としょう油とみりん。味見をしながら調節していく。煮しめる途中で鶏を戻し、ときどき鍋を揺する。

 筑前煮の様子を見ながら、大根とイカの煮込みを作っていく。

 半月切りにした大根を下茹でしている間に、イカのワタやくちばし、軟骨を取り除き輪切りに。足を包丁でしごいて吸盤を取る。
 イカも下茹でをする。水に料理酒を入れ、沸騰後に塩を足してさっとイカを茹で、冷水につける。キッチンペーパーでイカの水気を取り、出汁汁に大根とイカを入れ、料理酒、砂糖、しょう油、みりんを加え、落し蓋をして煮ていく。

 次はコンロを長く使わない、切り干し大根。
 にんじんを細切りに、油揚げはさっと熱湯で茹でてから、短冊切りに。
 戻した切り干し大根の水をぎゅっと絞り、適当に切り、ごま油でにんじんと炒める。
 戻し汁を入れて、みりんとしょう油を足し、落し蓋。

 これで三ツ口コンロがいっぱいになった。切り干し大根が終わったら里芋の煮っころがしとおからの煮物を作るので、使う野菜を切っておく。

 少し疲れを感じたので、椅子に腰かけて、イチゴミルクを飲みながらぼんやりする。
 立ち仕事は毎日の事なので慣れているはずなのに、勝手が違う台所はやはり使いづらい。
 でも自分が言いだした事だから。妥協することなく、美味しい料理を作ろう。
 気合を入れ直して、千里は腰を上げた。

 出来上がった大根とイカの煮込みと切り干し大根を大皿に移し。
 出汁汁に酒、砂糖、しょう油、みりんを入れ、里芋を入れて煮ていく。

 次はおからの煮物。小さく切っておいたにんじん、しいたけ、ネギ、下茹で済みのこんにゃくを油で炒める。火を止めてから、油揚げとおから、出汁汁、みりん、砂糖、しょう油、油を加える。ポイントは調味料としての油を多めに入れること。中火にかけ、全体を混ぜながら煮詰めていく。

 出来上がったおからの煮物も大皿に移し、煮物料理は筑前煮に味が染みこめば終了。
 夏野菜を揚げ、つけ汁に漬け込めば、夏野菜の揚げびたしが完成。一晩経てば美味しく染みる。
 サラダを各種作っていく間に冷めた料理から冷蔵庫に入れていく。

 サラダが出来ると、後は明日作る物の仕込みに入る。
 鶏肉の水分をキッチンペーパーで拭き取り、脂肪や筋、余分な皮を取り除いてから、一口サイズに切り分け、料理酒、おろし生姜、おろしにんにく、しょうゆを混ぜた液に漬け込んでおく。

 春巻きは具材を切っておくだけ。明日炒めてから春巻きに包み、揚げる。
 あとはおつまみ用のキュウリの漬物を作っておき、今日の支度を終えた頃、陽が暮れかけていた。
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