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24.一瞬の隙
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食後はショッピングモールに寄って、お土産品や化粧品、服などのお店を見て回った。
二時間ほどで遊園地に戻って、またジェットコースターに乗り、まだ乗っていないアトラクションも楽しんでいるうちに、薄暗くなってきた。
アトラクションのライトアップが目立っていく。
「そろそろ行こうか。観覧車」
時が来たらしい。
「待ってました!」
タツキの提案に、美央が歓喜の声を上げた。
カップルや家族連れに続いて並ぶ。後ろにも人が並んでいく。
周囲はどんどん暗くなり、人の顔が見えにくくなる。
前に並んだタツキと美央。二人が身を寄せ始め、距離が縮まっていく。
暗くなるとロマンティックな気分になるのか、大胆になっていった。
ようやく順番が回ってきて、美央に続いて歩き出した一穂は、腕を引っ張られた。
「俺らはこっち」
ケイトに連れられて、後ろのゴンドラに乗り込んだ。
一穂は前のゴンドラが見える位置に座る。ケイトは向かい側。
突然ケイトと二人になってしまって、一穂は動揺する。
昼間は楽しい時間を過ごしたけれど、打ち解けられるほどではない。二人っきりだと何を話していいのかわからない。そわそわしていると、
「外、きれいだよ」
とケイトが指差した。
「うわー、すごい」
近くのホテルの客室は明かりが灯っていたりなかったり、車のライトが行き交い、高度が上がれば上がるほど、見える範囲がどんどん広がっていく。真っ黒の川が見え、その向こうにも光が輝いている。
大都会が見渡せる光景に、一穂は息を呑んだ。
地元でも山から街を見下ろせるけれど、こんなにすごくはない。
夜景に夢中になっていると、隣にケイトが座っていることに気がつかなかった。
「あっちのゴンドラ見てみろよ」
ケイトに言われ、つい視線を向けてしまった。
シルエットとなった二人の姿がひとつに重なっているように見える。
「キス、してんじゃないかな」
美央とタツキは付き合っている。二人っきりの空間で、外は夜景。
ロマンティックな光景に、そういう気分になってしまうんだろうな。
驚きはしたけど、納得はした。
でも、友人のそういう姿は見ちゃいけないなと思って、夜景に目を移す。
一穂はそんな気分にはならない。だってケイトは彼氏じゃないし、一穂はケイトにドキドキしない。隣にいるのが海人だったら、と一瞬想像したけれど。
「俺らもする?」
「はぁ?」
耳元で囁かれ、勢いよく振り返ったすぐそこに、ケイトの薄ら笑いを浮かべた顔があった。
「ちょっ……」
ケイトの右手はいつの間にかゴンドラにかかっていた。
びっくりして固まってしまったけれど、固まっている場合じゃないことに、はっと気がついた。
ええー壁ドンじゃんと思いながら、身を引く。好きでもない人にされても、不快でしかない。
だが夜景に夢中になっている間に端っこに寄っていたせいで、体はそれ以上引けなかった。
精一杯頭を倒しても、もう動けない。迫って来るケイトを押し退けるため、思いっきり突き飛ばした。
「痛って。ひでえーなー。冗談じゃん」
ケイトはぶつけたのか、後頭部を撫でる。
どっちが酷いのよ、と思ったけど、声に出せなかった。代わりに席を立ち、ケイトから遠い所で身を縮こまらせた。
これ以上迫ってくるなら蹴飛ばしてやる、という思いを込めて、ゴンドラがスタート地点に戻るまで睨みつけて目を逸らさなかった。
係員がゴンドラの扉を開けた途端、弾丸のように外に飛び出した。
先に降りて待っていた美央の横をすり抜け、一穂は走った。触れられてもいない唇を、手の甲で拭いながら。
二時間ほどで遊園地に戻って、またジェットコースターに乗り、まだ乗っていないアトラクションも楽しんでいるうちに、薄暗くなってきた。
アトラクションのライトアップが目立っていく。
「そろそろ行こうか。観覧車」
時が来たらしい。
「待ってました!」
タツキの提案に、美央が歓喜の声を上げた。
カップルや家族連れに続いて並ぶ。後ろにも人が並んでいく。
周囲はどんどん暗くなり、人の顔が見えにくくなる。
前に並んだタツキと美央。二人が身を寄せ始め、距離が縮まっていく。
暗くなるとロマンティックな気分になるのか、大胆になっていった。
ようやく順番が回ってきて、美央に続いて歩き出した一穂は、腕を引っ張られた。
「俺らはこっち」
ケイトに連れられて、後ろのゴンドラに乗り込んだ。
一穂は前のゴンドラが見える位置に座る。ケイトは向かい側。
突然ケイトと二人になってしまって、一穂は動揺する。
昼間は楽しい時間を過ごしたけれど、打ち解けられるほどではない。二人っきりだと何を話していいのかわからない。そわそわしていると、
「外、きれいだよ」
とケイトが指差した。
「うわー、すごい」
近くのホテルの客室は明かりが灯っていたりなかったり、車のライトが行き交い、高度が上がれば上がるほど、見える範囲がどんどん広がっていく。真っ黒の川が見え、その向こうにも光が輝いている。
大都会が見渡せる光景に、一穂は息を呑んだ。
地元でも山から街を見下ろせるけれど、こんなにすごくはない。
夜景に夢中になっていると、隣にケイトが座っていることに気がつかなかった。
「あっちのゴンドラ見てみろよ」
ケイトに言われ、つい視線を向けてしまった。
シルエットとなった二人の姿がひとつに重なっているように見える。
「キス、してんじゃないかな」
美央とタツキは付き合っている。二人っきりの空間で、外は夜景。
ロマンティックな光景に、そういう気分になってしまうんだろうな。
驚きはしたけど、納得はした。
でも、友人のそういう姿は見ちゃいけないなと思って、夜景に目を移す。
一穂はそんな気分にはならない。だってケイトは彼氏じゃないし、一穂はケイトにドキドキしない。隣にいるのが海人だったら、と一瞬想像したけれど。
「俺らもする?」
「はぁ?」
耳元で囁かれ、勢いよく振り返ったすぐそこに、ケイトの薄ら笑いを浮かべた顔があった。
「ちょっ……」
ケイトの右手はいつの間にかゴンドラにかかっていた。
びっくりして固まってしまったけれど、固まっている場合じゃないことに、はっと気がついた。
ええー壁ドンじゃんと思いながら、身を引く。好きでもない人にされても、不快でしかない。
だが夜景に夢中になっている間に端っこに寄っていたせいで、体はそれ以上引けなかった。
精一杯頭を倒しても、もう動けない。迫って来るケイトを押し退けるため、思いっきり突き飛ばした。
「痛って。ひでえーなー。冗談じゃん」
ケイトはぶつけたのか、後頭部を撫でる。
どっちが酷いのよ、と思ったけど、声に出せなかった。代わりに席を立ち、ケイトから遠い所で身を縮こまらせた。
これ以上迫ってくるなら蹴飛ばしてやる、という思いを込めて、ゴンドラがスタート地点に戻るまで睨みつけて目を逸らさなかった。
係員がゴンドラの扉を開けた途端、弾丸のように外に飛び出した。
先に降りて待っていた美央の横をすり抜け、一穂は走った。触れられてもいない唇を、手の甲で拭いながら。
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