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13.美央の交際
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一穂が高校生になって二週間が過ぎた。
クラスメイトとはまだ手探り状態だけど、美央の他に二人の友人ができた。
昼休みやグループ授業、放課後は四人で過ごすようになった。
「一穂ちゃんはお弁当作ってもらえないの?」
机をくっつけ、向かいに座った安西麻由里が訊ねてきた。
今日の一穂の昼食は、登校途中のコンビニで買ったサンドイッチといちごジュース。
パン、学校の食堂、コンビニと飽きないようにお店を変えているけれど、最初は嬉しかったパンも、たまにでいいかなと思うようになってきた。朝から何を食べようかと考えるのが、めんどうになってきてもいる。
「一穂のところ飲食店だから、ご飯すごく美味しいんだよ」
一穂が答える前に、美央が答える。
「ご飯屋さんなんだ。仕込みで忙しくて作れないの?」
「あたしがいらないって言ったの」
「忙しい親に気使ってるんだ。優しいんだね一穂ちゃん」
「そんなんじゃないけど」
麻由里の勘違いを否定せず、はぐらかす。千里に気を使ったわけではなく、ただの反抗だから言いにくかった。子供っぽいと笑われそうで。
「みんな、親と仲良いの?」
一穂は訊ねてみる。みんな反抗期はもう終わっているのか気になった。
「お母さんとは良いけど、お父さんが嫌」
と言ったのは、木田和香菜。裏表のない子だけど、ズバッと言ってしまうので、一穂的にはひやひやしてしまうこともあった。
「わたしは、どっちとも仲良いよ」
麻由里がふんわりと笑みを浮かべて言った。和香菜と対照的で、物腰の柔らかいおっとりした子。だけど、空気を読むのが上手。
「うちは距離あるけど、それがちょうどいい」
美央からも反抗期の話を聞いたことがない。六歳年上のお兄さんの反抗期がきつく、大学で実家を離れてから落ち着いた。それ以来尾高家では家族でも距離感を大事にしている。らしいことは聞いていた。
「寂しくない? うちはなんでも話すから」
麻由里が美央に訊ねる。
「相談したい時はするよ。ちゃんと乗ってくれるから」
「彼氏できたんでしょう? 恋愛相談はするの?」
麻由里が訊きたかったのは、こっちだったらしい。軽く身を乗り出している。
美央は頬をゆるませ、照れたような笑顔を浮かべた。
「タツキくんかっこよくて、優しいんだ。人前で手を繋いでくれるし、腕も組んでくれるし、いちゃいちゃOKなの。たまにしか会えないんだから、いちゃいちゃしてくれると嬉しくて。好き過ぎてどうしようって感じ。あ、でも親には言ってないの」
「報告しなくていいの?」
「必要? 中学の時も彼氏いたけど、言わなかったよ」
「美央ちゃん、中学の時から彼氏いたの?」
「うん。半年だけ付き合ってた。手も繋いでくれない人だったから、それが嫌で別れた」
「冷たい人だったの?」
「冷たいってわけじゃないけど、表現が下手だったんだろうね」
「いいなあ。わたしも彼氏欲しい」
お弁当を食べることも忘れて、麻由里が夢見る子の顔をする。
「ナンパでしょ? あたしは嫌だな。軽そう」
和香菜の言葉に、美央が顔を上げた。
「別に軽くないよ。ただの出逢いじゃん」
美央は少しむっとしていた。
「尾高さんの恋愛を否定したわけじゃないよ。あたしは嫌だって意見を言っただけだよ」
「まあまあ。それぞれだから。美央ちゃんが幸せだったらいいじゃない。ねえ、一穂ちゃん」
「うん、そうだね」
一穂はナンパを否定するわけではないけど、タツキとケイトには、少しひっかかりを感じていた。表は良い人だけど、まだ本心を見せていないような。
「教室で出逢うのと、街で出逢うとの、どこが違うの? 付き合いながらお互い知っていくんだからさ」
「教室だと普段の顔が見れるけど、たまに会う人の素の顔って見える?」
「見えるよ。優しい所とか、頼りになる所とか」
「ふーん。そっか。キミがそれで良いんだったら、いいんじゃない」
和香菜のどこか突き放したような言い方に、美央はなおも何かを言おうとしたけど、一穂と麻由里が目顔で止めた。
クラスメイトとはまだ手探り状態だけど、美央の他に二人の友人ができた。
昼休みやグループ授業、放課後は四人で過ごすようになった。
「一穂ちゃんはお弁当作ってもらえないの?」
机をくっつけ、向かいに座った安西麻由里が訊ねてきた。
今日の一穂の昼食は、登校途中のコンビニで買ったサンドイッチといちごジュース。
パン、学校の食堂、コンビニと飽きないようにお店を変えているけれど、最初は嬉しかったパンも、たまにでいいかなと思うようになってきた。朝から何を食べようかと考えるのが、めんどうになってきてもいる。
「一穂のところ飲食店だから、ご飯すごく美味しいんだよ」
一穂が答える前に、美央が答える。
「ご飯屋さんなんだ。仕込みで忙しくて作れないの?」
「あたしがいらないって言ったの」
「忙しい親に気使ってるんだ。優しいんだね一穂ちゃん」
「そんなんじゃないけど」
麻由里の勘違いを否定せず、はぐらかす。千里に気を使ったわけではなく、ただの反抗だから言いにくかった。子供っぽいと笑われそうで。
「みんな、親と仲良いの?」
一穂は訊ねてみる。みんな反抗期はもう終わっているのか気になった。
「お母さんとは良いけど、お父さんが嫌」
と言ったのは、木田和香菜。裏表のない子だけど、ズバッと言ってしまうので、一穂的にはひやひやしてしまうこともあった。
「わたしは、どっちとも仲良いよ」
麻由里がふんわりと笑みを浮かべて言った。和香菜と対照的で、物腰の柔らかいおっとりした子。だけど、空気を読むのが上手。
「うちは距離あるけど、それがちょうどいい」
美央からも反抗期の話を聞いたことがない。六歳年上のお兄さんの反抗期がきつく、大学で実家を離れてから落ち着いた。それ以来尾高家では家族でも距離感を大事にしている。らしいことは聞いていた。
「寂しくない? うちはなんでも話すから」
麻由里が美央に訊ねる。
「相談したい時はするよ。ちゃんと乗ってくれるから」
「彼氏できたんでしょう? 恋愛相談はするの?」
麻由里が訊きたかったのは、こっちだったらしい。軽く身を乗り出している。
美央は頬をゆるませ、照れたような笑顔を浮かべた。
「タツキくんかっこよくて、優しいんだ。人前で手を繋いでくれるし、腕も組んでくれるし、いちゃいちゃOKなの。たまにしか会えないんだから、いちゃいちゃしてくれると嬉しくて。好き過ぎてどうしようって感じ。あ、でも親には言ってないの」
「報告しなくていいの?」
「必要? 中学の時も彼氏いたけど、言わなかったよ」
「美央ちゃん、中学の時から彼氏いたの?」
「うん。半年だけ付き合ってた。手も繋いでくれない人だったから、それが嫌で別れた」
「冷たい人だったの?」
「冷たいってわけじゃないけど、表現が下手だったんだろうね」
「いいなあ。わたしも彼氏欲しい」
お弁当を食べることも忘れて、麻由里が夢見る子の顔をする。
「ナンパでしょ? あたしは嫌だな。軽そう」
和香菜の言葉に、美央が顔を上げた。
「別に軽くないよ。ただの出逢いじゃん」
美央は少しむっとしていた。
「尾高さんの恋愛を否定したわけじゃないよ。あたしは嫌だって意見を言っただけだよ」
「まあまあ。それぞれだから。美央ちゃんが幸せだったらいいじゃない。ねえ、一穂ちゃん」
「うん、そうだね」
一穂はナンパを否定するわけではないけど、タツキとケイトには、少しひっかかりを感じていた。表は良い人だけど、まだ本心を見せていないような。
「教室で出逢うのと、街で出逢うとの、どこが違うの? 付き合いながらお互い知っていくんだからさ」
「教室だと普段の顔が見れるけど、たまに会う人の素の顔って見える?」
「見えるよ。優しい所とか、頼りになる所とか」
「ふーん。そっか。キミがそれで良いんだったら、いいんじゃない」
和香菜のどこか突き放したような言い方に、美央はなおも何かを言おうとしたけど、一穂と麻由里が目顔で止めた。
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