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7.仲直り

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 翌日、朋夏と拓海が来店した。
 連日続けて朋夏が来るのは珍しいが、驚きはしなかった。
 その後が気になっていたので、むしろ顔が見れて安心した。

 二人の間に流れる空気は、いつもより緊張があるけれど、こちらが気を遣うほどぴりぴりはしていない。
 拓海は天ぷら定食、朋夏はかやくご飯とうどんの定食を注文する。食欲は、昨日より少し回復したようだ。

 同テーブルに着くお客様には、できるだけ近いタイミングで提供することを心掛けている。
 うどんを湯がく用のお湯を火にかけてから、天ぷら粉を準備する。
 卵黄を先に混ぜてから冷蔵庫で冷やしておいた冷水を加え、振るった薄力粉を一回分混ぜて、二回目を追加。混ぜすぎると粘さが出てしまうので要注意。ダマが残っていても大丈夫。最期に炭酸水を加えるのが、サクっと揚がるコツ。

 下拵え済みの鶏、海老、野菜を冷蔵庫から取り出す。
 フライヤーの温度が170°になっているのを確認して、野菜に小麦粉をはたいてから天ぷら粉にくぐらせ、油に投入する。ブロッコリー、かぼちゃ、さつまいも、アスパラガス、レンコン、長芋、なすび。一気に入れると温度が下がってしまうので、千里は二つずつ入れるようにしている。泡が小さくなり音が小さくなった頃が出すタイミング。バッドに上げ、次の野菜を投入する。

 根野菜を揚げていると、お湯が沸騰したのでうどん2玉を投入。
 野菜を揚げ終わると、海老の出番。180°に油の設定を変更する。
 油が上がるのを待っている間にうどんをざるに移し、うどんつゆを温める。
 菜箸で油に天ぷら粉を落とすと、すぐに上がってきた。適温になっている。
 海老にも小麦粉を軽くはたいてから衣をつけ、油に投入。
 泡が小さくなって、浮き上がってきたら取り出すタイミング。

 次はとり天。塩と砂糖、酒、生姜とにんにくの下味をつけてラップにくるんでおいた鶏むね肉を、天ぷら粉に入れてから油へ。
 とり天をひっくり返して揚がり具合を確認しながら、うどんを作り終える。

 長方形のお盆に小鉢と漬物を準備する。昼は急いでいる方がいるので、小鉢は先に小分けしてサランラップをかけて冷蔵庫に準備済み。今日の小鉢は大根、人参、こんにゃくの煮物。

 とり天も揚がり、懐紙を敷いた籠に盛りつける。美味しそうに見えるポイントは立体感。天ぷら同士を重ねるように盛り付けていく。

 作り置きの天つゆをポットから注ぎ、大根おろしを添えてお盆へ。天塩も用意する。かやくご飯を茶碗によそうと、同時に完成。

 気づいた朋夏が席を立ち、取りに来てくれる。
 朋夏の注文分を頼み、千里は厨房を出て拓海の注文分を持ち運ぶ。

 料理を作っている間、夫婦の間に会話はなかった。もしかしたら小声で二言三言はあったかもしれないが、千里の耳には届いてこなかった。

 二人は無言で食べ始めた。が、朋夏が「天ぷら美味しそう」と呟くのが聞こえた。
 追加注文が入るか、それともーー。様子を窺っていると、
「好きな天ぷら取れよ」
 拓海が言っているのが聞こえた。
「じゃあ、レンコンちょうだい」

 レンコンは二つ入れてある。朋夏はそれに気づいて選んだのだろう。
「かやくご飯食べる?」
 朋夏訊ねると、拓海が「食べる」と返した。

 すかさず千里はお茶碗を持っていく。
 受け取った朋夏は、はにかんだような笑顔を見せた。

 ※ ※ ※

 夫婦が食べ終わる頃、店内のお客様は二人だけになっていた。

「千里も事情知ってるから、お仕事しながら聞いてくれる?」
 朋夏に言われて、千里は厨房から二人の話に耳を傾ける。

「昨日外食したの?」
「ああ」
「何を食べたの?」
「……牛丼」
「美味しかった?」
「うん、まあ」
「あたしが作った物より」
 歯切れの悪い返答をしていた拓海が、言葉に詰まる。

「あたしね、拓海に言われて、あんたに甘えてたなって反省したんだ。カレー二日続けるのはダメだったなって。それだけじゃないけど。だから昨日は頑張ったんだよ。拓海の好きなハンバーグと、レンコンのはさみ揚げと、にんじんのナムルと。味噌汁も具沢山にして。拓海帰ってこなかったけどさ、たぶん、牛丼より美味しかったんじゃないかなって思うんだ」
「うん」
「お腹いっぱいになるし」
「うん」

「あたしの料理、美味しくない?」
「そんなことはないけど」
「そりゃ、千里や舟木の料理と比べたら適わないよ。プロと比べてるわけじゃないよね」
「そんなわけねえよ」

「子供たちの手は離れてきたから、料理はもうちょっと頑張ってみる。だけど、あの言い方はないんじゃないかと思うんだ。どう思う? まさか覚えてないってことはないよね」
「覚えてる。イライラしてて、朋夏に当たったごめん」
 拓海も気にしていたのだろう、すぐに頭を下げた。

「今日から家で食べるよね」
「食べる」
「わかった。まず昨日の残り、食べてよね」
「ああ」

 こちらを向いた朋夏が、にこりと笑いかけた。
 
「それで、千里に頼みがあるんだ」
「なにかしら」
「料理教えてくれない? 時間のある時でいいんだ。定休日の一時間ほどとか」
 拝むように、両手を合わせる。
 
 まさか料理を教えて欲しいという展開になるとは予想していなかったが、頑張りたいと言う朋夏の決意を無下にはできなかった。休みが合わなくてもなんとか調整できるだろう。
「いいわよ。やりましょう」
「ありがとう、千里」
 朋夏が顔を輝かせた。 
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