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20. 11月 次のステップ

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 私は小野さんから借りた本を毎日読んだ。

 北海道の写真はとてもきれいで、小野さんはこういうものから発想を得て物語を綴っているのかなと考えた。

 ショートショート集は展開が早いので、読みやすい上に、疲れていてもさらりと読めた。短いからこのお話で止めようと、気軽に本を閉じられるのも良かった。

 ショートショート集を読み終わると児童文学を読んだ。
 いくつかの童話がモチーフになっていて、私も知っている童話だったから、先が気になってページが進んだ。
 借り物だから持ち出したくなくて、でもあまりに気になり過ぎて、自分用に購入し、通勤電車の中で読んだ。

 今は短編集を読んでいる。

 ときどき小野さんに想いを馳せてしまい、本の内容が入ってこないこともあった。

 そんな時は読書を止めて、小野さんのことを考えた。

 中世的で優しい声と話し方。
 ミステリアスな雰囲気が魅力的で、でも本のことになると少しだけ早口で情熱的な口調になる。
 ごつごつしていないほっそりした指。
 透明感のあるきれいな肌と血色のいい唇。
 意外に背が高くて、男性なんだとどきどきした。

 那美ちゃんに報告すると、「勇気出したね」と褒めてくれて、「恋っていいよねー。あたしも恋したあい」と羨ましがられた。

「本の感想を伝えたいんだけど、雨がぜんぜん降らなくて」
 私が肩を落としていると、

「次のステップは連絡先の交換ね」
 また背中を押してくれた。

 難易度が高いと思ったけど、素直に本の感想を伝えたいって言えばいいんだよと教えてくれた。

 そして雨の日に来店された小野さんに、本を返却してから、連絡先の交換をお願いしたところ、困った顔を見せず、にこりと笑顔で応じてくれた。

 新しい本も貸してくれたので、帰宅してからお礼のメッセージを送ろうとアプリを開いた。

 慣れているはずのフリック入力なのに、指が震えるせいかミスばかり。
 何度も内容を確認し、30分近くかかって、やっと送信する勇気が持てた。

 いつ見てくれるかな。返事をくれるかな。
 スマホばかり手に取って、落ち着かない時間を過ごした。

 30分後に返信があって、私は思わずスマホを抱きしめた。

 この日のやりとりはすぐに終わったけれど、たまに本の感想を送り、週に1・2回程度やり取りをするようになった。



   次回⇒21. 12月 前職からの電話
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