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番外編 猫のいる街 1997

28.誠二郎 23

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夜半、用意してくれた和室で、わしは京子との話しを反芻していた。
去勢避妊手術の必要性、完全室内飼い。
京子の豊富な知識に驚いたのと、わしの疑問や反発にしすぐさま答えられるしっかりした考え方。
京子も同じように疑問や反発を持ち、猫の生態について勉強をした証だろう。
これからは京子が珠たちの飼い主になるわけだし、はるかな知識量で説得されれば、わしに否やはない。
むしろ安心して預けられるというものだ。
残るは珠たちに納得してもらうことだけだが。
明日、珠とチビたちを迎えに行ってから、リンが保護されている団体のところに行く予定になっている。
珠が逃げ出してしまうと事だから、これから説得に行こうか。
幽霊の姿で行っても会話にならないことはわかっているが、様子を見に行こう。
猫の人形から出たときの要領でマネキンから出ると、座ったマネキンが机にくたっと突っ伏していた。二人が見れば悲鳴を上げそうな光景だの。日の出頃には戻ってこんとな。
するすると壁を抜けて、自宅まで飛んで帰る。
肉体があるよりこっちの方が楽でいいの。
チビたちは庭を走り回り、じゃれて遊んでいた。
ちょっかいをかけに行って軽い猫パンチをもらい、ころころと転がりのし掛かられ、甘噛みしては逃げ回り、追っかけ。四匹もいると遊び相手に困ることはない。
そんなチビたちを、珠は静かに見守っていたが、耳をぴくぴくと動かして周囲を警戒している。
声をかけると、珠はわしの方へ顔を向けた。
どうやらわしがわかるようだの。しかし互いに言葉が通じない。幽霊とはいえ、万能ではないな。どういう原理なのか不明だが、やはり猫の人形が必要なようだ。
通じぬとわかっているも、ちょっと待っておれと言い置いて、再び浮かぶ。
博田邸へと思ったが、三回目ともなるとさすがに気が引ける。あの男に頼るのは、最終手段にしようかの。ならば猫の人形は置きっぱなしにしてきた件の団体の建物へ行って探してみることにした。
檻の中に放置されたままなら諦めるしかないが、良心的な団体なら、保護した猫たちを連れてきたまま檻の中で一晩、なんてことはしないだろう。必ずどこかに移し変えているはずだ。
なら人形もすでに見つかって首を傾げたに違いない。
外に捨てられていないかと建物の周囲を回ってみると、ありがたいことに、建物の横手のごみ捨て場に置いてあった。
人形の中に入ろうとして、その前にリンの様子を見ておこうと思いたった。
玄関に戻り、檻が置かれていた場所に向かったが、やはり回収されていた。
保護された猫たちはどこに行ったんだろうかの。
奥の方で獣の息づかいや動き回る気配が感じられた。
ここで面倒を見ている引取り手が見つからない猫や病気の猫だろうか。
わしが覗きに行くと驚かせてしまうことになりそうだから、奥に行くのは止めておこう。
明日会えることだしな。
ごみ置き場に戻り、我が家へ向けて四足で駆け抜けた。
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