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番外編 猫のいる街 1997

3. 誠二郎と珠 1

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一階の一番奥の部屋をそっと覗いた真っ白い猫に、部屋内にいた猫たちが様子を窺うように入り口に視線を向けてくる。
その中の一匹が、むくりと身を起こした。
「殿!? 殿、なぜここに?」
白猫は近寄ってきた黒猫を見て、視線をうろうろとさせた。
黒猫の全身をなめる様に見、蒼い首輪に目を留める。
「珠か」
黒猫が頷くのを確認し、白猫はほっと息をついた。
「珠。やっと会えたの」
「殿がなぜかような所におるのです。それにそのお姿。いかがなさったので」
「これか。わし死んでしもうての。珠を捜しにさまよっておったら、不思議な男に会っての。その男から猫の人形をもらいうけたのじゃ。身体は軽いし、猫たちの警戒も低いしで、気に入っておる。珠もようわしだとわかったの。匂いがあまりせんって言われたんじゃがの」
「匂いはしませぬ。殿の魂が拙者に見えており申す」
「わしの魂が見えるのか。動物というのは侮れんの。ところで、珠や。お前さん変な話し方をする猫だの。さっき子猫たちにどうしてかと聞かれて何のことやらわからんかったが、このことだったんだの。珠と話すのは初めてだから、びっくりしたわ」
「これは……」
黒猫――珠は視線を逸らして、顔をうつむけた。人なら赤面して照れているような状態だろうか。と白猫こと誠二郎は思った。
「これは、殿が、時代劇というものを拝見しておられた影響にてございます。他の者にもおかしいとよく言われるのですが、なかなか直りませぬ。殿もおかしいと思われますか」
上目遣いでちろちろと誠二郎を見上げる。
「たしかに、お前さんの世話をしながら時代劇を見とった。すりこみ、っというやつかの。それはすまんかった。しかしわしのことを殿というのは?」
「一番偉い方は殿と呼ばれておられるではありませぬか」
「わし、そんな大層な者じゃないがの」
誠二郎はくっくと笑った。時代劇を理解し、かつその言葉で話す猫がいるとは。
「うるさいな。喋るんなら外へ行ってくれよ」
寝ていた猫からうるさがられて、二匹は部屋を出た。建物の玄関へ向かいながら、話を続ける。
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