23 / 157
第一部
23 ワイン
しおりを挟む
ある日ワルター老六十五歳の誕生日を祝おうと、集落に住む人全員で宴会をすることになった。
連日今にも雪が降りそうな曇り空が続いたが、その日は天候に恵まれた。温かい陽光が降り注ぎ、外での宴会は多いに盛り上がった。
この日は無礼講だとばかりに昼間からワイン樽を開け、大人も子供も飲み放題食べ放題だった。
念願のワインにディーノの胸は高鳴った。奴隷時代さんざん重い樽を運ばされたのに、一滴たりとて分け与えられることのなかったワインが、ようやく口にできる。騒いでいる周りのことなどお構いなしに、ディーノはその赤黒い液体を見つめた。
木のジョッキに惜しみなくなみなみと注がれ、ディーノの震えに呼応して表面が揺れている。
芳醇なぶどうの香りと、アルコールの匂いなのか嗅いだことのない不思議な香りがした。
ゆっくり口に運んでいき、いざ飲もうとしたところへ、誰かがどんとぶつかってきた。飲もうとしていたワインがこぼれ、顎から首に伝った。拭うと、袖が紫色に染まった。
「あ、悪い」
ディーノにぶつかったのは左隣に座っていたロマーリオであった。
宴はまだ始まったばかりだから、酔っ払っての行為ではないだろう。ふざけていてぶつかったのだろうか。
ワインしか目に入っていなかったディーノにはわからかったが、些細なことは気にならなかった。こぼれてしまったワインがもったいないとは思うが、それもまた些細なことだ。ワインは樽にまだまだあるし、その樽もたくさん保存されている。
ディーノは改めてジョッキに視線を戻した。胸の高鳴りはさっきほどではなくなってしまったが、少し減ったワインをようやく口に運ぶことができた。
ワインに飲み方があることなど知らないから、水を飲むようにごくりと流し込み、顔をしかめた。
ぶどうの味はする。しかし相当苦みのあるぶどう。しかも少しばかり酸っぱい。
なんだろう。この味。
液体を見つめて首を傾げる。
アルコールを口にすることが初めてのせいか、美味しいと表現していいものなのかどうかわからなかった。ただ苦い。苦い味のするぶどう。そんな印象だった。
ようやく周りを見渡す余裕がでた。皆ががぶがぶと飲み干し、おかわりを注いでいる。幼い子供たちでさえも、大人ほどではないが水のように飲んでいる。だから美味しいものなのだろう。この苦みも含めて。
そう考えて二口目を口にしようとしたところで、再び邪魔が入った。
連日今にも雪が降りそうな曇り空が続いたが、その日は天候に恵まれた。温かい陽光が降り注ぎ、外での宴会は多いに盛り上がった。
この日は無礼講だとばかりに昼間からワイン樽を開け、大人も子供も飲み放題食べ放題だった。
念願のワインにディーノの胸は高鳴った。奴隷時代さんざん重い樽を運ばされたのに、一滴たりとて分け与えられることのなかったワインが、ようやく口にできる。騒いでいる周りのことなどお構いなしに、ディーノはその赤黒い液体を見つめた。
木のジョッキに惜しみなくなみなみと注がれ、ディーノの震えに呼応して表面が揺れている。
芳醇なぶどうの香りと、アルコールの匂いなのか嗅いだことのない不思議な香りがした。
ゆっくり口に運んでいき、いざ飲もうとしたところへ、誰かがどんとぶつかってきた。飲もうとしていたワインがこぼれ、顎から首に伝った。拭うと、袖が紫色に染まった。
「あ、悪い」
ディーノにぶつかったのは左隣に座っていたロマーリオであった。
宴はまだ始まったばかりだから、酔っ払っての行為ではないだろう。ふざけていてぶつかったのだろうか。
ワインしか目に入っていなかったディーノにはわからかったが、些細なことは気にならなかった。こぼれてしまったワインがもったいないとは思うが、それもまた些細なことだ。ワインは樽にまだまだあるし、その樽もたくさん保存されている。
ディーノは改めてジョッキに視線を戻した。胸の高鳴りはさっきほどではなくなってしまったが、少し減ったワインをようやく口に運ぶことができた。
ワインに飲み方があることなど知らないから、水を飲むようにごくりと流し込み、顔をしかめた。
ぶどうの味はする。しかし相当苦みのあるぶどう。しかも少しばかり酸っぱい。
なんだろう。この味。
液体を見つめて首を傾げる。
アルコールを口にすることが初めてのせいか、美味しいと表現していいものなのかどうかわからなかった。ただ苦い。苦い味のするぶどう。そんな印象だった。
ようやく周りを見渡す余裕がでた。皆ががぶがぶと飲み干し、おかわりを注いでいる。幼い子供たちでさえも、大人ほどではないが水のように飲んでいる。だから美味しいものなのだろう。この苦みも含めて。
そう考えて二口目を口にしようとしたところで、再び邪魔が入った。
11
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
白き鎧 黒き鎧
つづれ しういち
ファンタジー
高校生の内藤祐哉は、身罷(みまか)った異世界の王の身代わりとして突然かの世界に掠め取られる。
友人・佐竹は彼を追うが、ごくわずかの時間差から、向こうではすでに七年もの歳月が流れていた。
言葉も分からぬ異世界で内藤を探す佐竹。
が、やがて出会った国王が成長した内藤にそっくりで――。しかし、彼に内藤としての記憶はなかった。
敵対する二つの国の二つの鎧の秘密に迫り、佐竹は敵国ノエリオール、黒き鎧の王と戦う決意をするのだったが――。
※つづれ しういち作のオリジナルファンタジー小説です。「小説家になろう」および「カクヨム」にも公開中。他サイトへの無断転載は許可しておりません。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。
無能とされた双子の姉は、妹から逃げようと思う~追放はこれまでで一番素敵な贈り物
ゆうぎり
ファンタジー
私リディアーヌの不幸は双子の姉として生まれてしまった事だろう。
妹のマリアーヌは王太子の婚約者。
我が公爵家は妹を中心に回る。
何をするにも妹優先。
勿論淑女教育も勉強も魔術もだ。
そして、面倒事は全て私に回ってくる。
勉強も魔術も課題の提出は全て代わりに私が片付けた。
両親に訴えても、将来公爵家を継ぎ妹を支える立場だと聞き入れて貰えない。
気がつけば私は勉強に関してだけは、王太子妃教育も次期公爵家教育も修了していた。
そう勉強だけは……
魔術の実技に関しては無能扱い。
この魔術に頼っている国では私は何をしても無能扱いだった。
だから突然罪を着せられ国を追放された時には喜んで従った。
さあ、どこに行こうか。
※ゆるゆる設定です。
※2021.9.9 HOTランキング入りしました。ありがとうございます。
Re:征服者〜1000年後の世界で豚公子に転生した元皇帝が再び大陸を支配する〜
鴉真似≪アマネ≫
ファンタジー
大陸統一。誰もが無理だと、諦めていたことである。
その偉業を、たった1代で成し遂げた1人の男がいた。
幾多の悲しみを背負い、夥しい屍を踏み越えた最も偉大な男。
大統帝アレクサンダリア1世。
そんな彼の最後はあっけないものだった。
『余の治世はこれにて幕を閉じる……これより、新時代の幕開けだ』
『クラウディアよ……余は立派にやれたかだろうか』
『これで全てが終わる……長かった』
だが、彼は新たな肉体を得て、再びこの世へ舞い戻ることとなる。
嫌われ者の少年、豚公子と罵られる少年レオンハルトへと転生する。
舞台は1000年後。時期は人生最大の敗北喫した直後。
『ざまあ見ろ!』
『この豚が!』
『学園の恥! いや、皇国の恥!』
大陸を統べた男は再び、乱れた世界に牙を剝く。
これはかつて大陸を手中に収めた男が紡ぐ、新たな神話である。
※個人的には7話辺りから面白くなるかと思います。
※題名が回収されるのは3章後半になります。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜
ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました
誠に申し訳ございません。
—————————————————
前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。
名前は山梨 花。
他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。
動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、
転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、
休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。
それは物心ついた時から生涯を終えるまで。
このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。
—————————————————
最後まで読んでくださりありがとうございました!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる