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第一部

1 痛み

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 腹減ったな……

 月明かりさえも届かない暗い地下で、レーヴェはぼんやりしていた。

 考ねばならないこともないし、やらなければならないことも、今はない。

 だから腹がすいている、ということ以外に思考が働かなかった。

 この地下に閉じ込められてどれくらいの時間が経ったのかわからない。今、周囲は完全な暗闇に覆われている。瞬きをしなければ、自分が瞼を開けているのか閉じているかわからなくなってくる。もう日付が変わっているのだろうか。

 遠くで獣の声がしている。誰かが襲われでもしているのか、酷く興奮状態にあるような吠え声だった。

 怯えた鼠が鳴きながら、壁際で横になっているレーヴェの足元を駆け抜けていった。

 鼠の爪でも当たったらしく、指先にちくんと痛みが走った。

 ああ、くそ。いてえ……

 痛いのは鼠に踏まれたからではない。ぴくんと動いた瞬間に、身体中に痛みが走ったからだった。

 昼間、掃除の手伝いに行ったときに、リュートを見つけどうしても弾いてみたくなって手に取ってしまった。そこを主人に見つかり、折檻棒で殴られた。途中で気を失ったほどだから、相当な力で何度も殴られたのだろう。

 痛みに気づいてしまうと、空腹よりもそちらが気になるようになった。頭も顔も、腕も背中も腹も、尻も足も、全身がずきずきと痛い。

 あー、ちくしょう。

 昼間のことを思い出すと、腹が立つし、悔しい。

 奴隷の身分で生まれてしまったレーヴェには、反抗も抵抗もできなかった。下手をすれば命を取られる。どれだけぞんざいな扱いを受けようとも、命があってこそだから。

 でもひとつだけ、してやったりと思ったことがある。

 殴られた一発目が主人の素手だったことだ。

 今まで杖のような木材でしか折檻をされたことがない。それが素手を使わせた。

 主人の手に少しでも痛みがあれば嬉しいんだけどな。

 そう考えると頬がにんまりと緩んだ。
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