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第三部 最終話
54 お祝い
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翌朝、家の扉が激しく叩かれて、目を覚ました。
ディーノが慌てて昨夜脱ぎ捨てた服を着て扉を開けると、リカルドが仏頂面で立っていた。
「約束の祝いの品だ。イレーネちゃんを泣かせたら、俺が奪いに来るからな」
どんどんと強引に荷物を渡され、お前の顔なんて見たくないとばかりにそそくさと帰って行った。一言も話すこともできずに。
「どうしたの?」
ぼんやりしながら押し付けられた荷物を抱えて部屋に戻ったディーノに、毛布で隠した上半身を起こしたイレーネが問いかけてくる。
朝から刺激的な姿に、下腹部が熱を持つのを自覚しながら、顔に出さないようにして傍に座った。
「おはよう。イレーネ」
額に軽く唇を押し付ける。
「おはよう」
「リカルドさんが届けてくれた。祝いの品だって」
「あら、律儀なところがあるのね」
「すぐに帰ったから、お礼云えなかったんだけど」
「できればもう会いたくないけど、お礼を云わないわけにはいかないわよね。近いうちに伺いましょうか」
「そうだね。開けていい?」
「ええ。お願い」
ディーノが封を破いている間に、イレーネが身を起こし、器用にも布団に隠れて服を着ていく。
それを視界の端に捉えてほんのちょっと残念に思いながら、包みを解いた。
出てきたものは磁器製のティーセットだった。花柄の模様がとても可愛らしい、イレーネによく似合う品物だった。
「これ、高価なものだよね」
「そうだと思うわ」
ディーノが貴族の屋敷で何度か利用したことがあるそれらと、遜色ない立派な食器だった。
二人とも驚きで声がでない。
「・・・・・・えっと、使ってみる?」
おずおずとディーノが切り出したが、イレーネは戸惑っていた。
「分不相応な物、井戸で洗えないわ」
家の外に持ち出せば誰が見ているかわからない。泥棒にでも入られては困る。
「しばらく、置いておこうか」
「そうしましょう」
意見が一致すると、包みを戻して部屋の隅に置いた。
もう一つの包みには新しい布が入っていた。紺と赤の多きな布が二枚。
「これはありがたいわね」
「イレーネのところで服を仕立ててもらおうか」
「ええ。おかみさんに相談してみるわね」
仕立ててもらうのは後日になるので、包みを戻して食器と同じところに置いた。
身支度を整え、出かける準備ができた頃、
「おーい。ディーノ。イレーネ」
ロマーリオの声がした。集落に帰るために迎えに来てくれたのだ。
「すぐ行く」
と返事をして、ディーノは荷物とリュートを持ち、イレーネと共に外へ向かった。
荷台には集落の仲間が数人先に乗っていた。
おはようと挨拶を交わし合い、荷台に乗り込むと、すぐに走り出した。
今まで乗っていた馬車に比べると揺れが大きい。師匠たちは性能のいい馬車を使っていたんだと、久しぶりに揺られて実感した。
幌のついていない荷台は初めてだったが、初秋の爽やかな風が頬を撫でていき、とても気持ちが良かった。
みんなと話をし、笑い、リュートを弾いてくれとせがまれ、半日はあっという間だった。
集落に着くと、懐かしい顔ぶれが集落の入り口で集まっていた。
ロマーリオの両親、先に帰ってきていたのかエレナ夫妻と初めて見る子供たち。八年の間にすっかり見違えて青年になっている、一緒に遊んだ子たち。そしてワルター老も健在だった。
一度帰ってきたときは、夜に到着し、朝には街に向かったので誰にも会わなかった。大人たちは歳を取ってはいるけれど、誰もいなくなっていなかった。そのことにディーノは安堵した。
「おかえり」と「おめでとう」の声で出迎えられて、席へと案内され、そのまま宴が開始された。
ディーノが慌てて昨夜脱ぎ捨てた服を着て扉を開けると、リカルドが仏頂面で立っていた。
「約束の祝いの品だ。イレーネちゃんを泣かせたら、俺が奪いに来るからな」
どんどんと強引に荷物を渡され、お前の顔なんて見たくないとばかりにそそくさと帰って行った。一言も話すこともできずに。
「どうしたの?」
ぼんやりしながら押し付けられた荷物を抱えて部屋に戻ったディーノに、毛布で隠した上半身を起こしたイレーネが問いかけてくる。
朝から刺激的な姿に、下腹部が熱を持つのを自覚しながら、顔に出さないようにして傍に座った。
「おはよう。イレーネ」
額に軽く唇を押し付ける。
「おはよう」
「リカルドさんが届けてくれた。祝いの品だって」
「あら、律儀なところがあるのね」
「すぐに帰ったから、お礼云えなかったんだけど」
「できればもう会いたくないけど、お礼を云わないわけにはいかないわよね。近いうちに伺いましょうか」
「そうだね。開けていい?」
「ええ。お願い」
ディーノが封を破いている間に、イレーネが身を起こし、器用にも布団に隠れて服を着ていく。
それを視界の端に捉えてほんのちょっと残念に思いながら、包みを解いた。
出てきたものは磁器製のティーセットだった。花柄の模様がとても可愛らしい、イレーネによく似合う品物だった。
「これ、高価なものだよね」
「そうだと思うわ」
ディーノが貴族の屋敷で何度か利用したことがあるそれらと、遜色ない立派な食器だった。
二人とも驚きで声がでない。
「・・・・・・えっと、使ってみる?」
おずおずとディーノが切り出したが、イレーネは戸惑っていた。
「分不相応な物、井戸で洗えないわ」
家の外に持ち出せば誰が見ているかわからない。泥棒にでも入られては困る。
「しばらく、置いておこうか」
「そうしましょう」
意見が一致すると、包みを戻して部屋の隅に置いた。
もう一つの包みには新しい布が入っていた。紺と赤の多きな布が二枚。
「これはありがたいわね」
「イレーネのところで服を仕立ててもらおうか」
「ええ。おかみさんに相談してみるわね」
仕立ててもらうのは後日になるので、包みを戻して食器と同じところに置いた。
身支度を整え、出かける準備ができた頃、
「おーい。ディーノ。イレーネ」
ロマーリオの声がした。集落に帰るために迎えに来てくれたのだ。
「すぐ行く」
と返事をして、ディーノは荷物とリュートを持ち、イレーネと共に外へ向かった。
荷台には集落の仲間が数人先に乗っていた。
おはようと挨拶を交わし合い、荷台に乗り込むと、すぐに走り出した。
今まで乗っていた馬車に比べると揺れが大きい。師匠たちは性能のいい馬車を使っていたんだと、久しぶりに揺られて実感した。
幌のついていない荷台は初めてだったが、初秋の爽やかな風が頬を撫でていき、とても気持ちが良かった。
みんなと話をし、笑い、リュートを弾いてくれとせがまれ、半日はあっという間だった。
集落に着くと、懐かしい顔ぶれが集落の入り口で集まっていた。
ロマーリオの両親、先に帰ってきていたのかエレナ夫妻と初めて見る子供たち。八年の間にすっかり見違えて青年になっている、一緒に遊んだ子たち。そしてワルター老も健在だった。
一度帰ってきたときは、夜に到着し、朝には街に向かったので誰にも会わなかった。大人たちは歳を取ってはいるけれど、誰もいなくなっていなかった。そのことにディーノは安堵した。
「おかえり」と「おめでとう」の声で出迎えられて、席へと案内され、そのまま宴が開始された。
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