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第三部 最終話

46 ピエール

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 人垣から現れた金髪の男はピエールだった。

「ピエールさん!」

「や、ディーノ」

 右手を上げてディーノに軽く挨拶をすると、ピエールはリカルドに身体を向けた。

「僕はロドヴィーゴ・アニエッリというリュート奏者の興行人で、ピエール・ウィリアム・アバックと申します。彼は、アニエッリの元で修行をしていたディーノに間違いありません。僕の身分もお疑いなら、アイゼンシュタット公爵にお問い合わせください」

 ざわざとしていたその場が、凍りついたように静かになった。

 リカルドが息を呑んだのか、ヒーと変な音が鳴った。目を見開き、大きく口を開いた。そして腰でも抜けたのか、ペタンと座り込んでしまった。

「すみません、通してください。すみません」

 人込みを掻き分け掻き分け、背の低い男がぴょんと飛び出してきた。もみくちゃにされてきたのか、頭髪が乱れている。

「やっと着いた」

 と呟き、男はリカルドの傍で立ち止まった。

「リカルドの兄です。弟がご迷惑をおかけしました。申し訳ありません」

 小さな身体を丸めて、深々と頭を下げた。

「知らせを受けて、あなたの演奏途中で到着していたのですが、見ての通り身体が小さいもので、人の間を縫ってここまで来るのに時間がかかってしまいました。弟を止めるのが遅くなってすみません」

 そしてまたもぺこり。

「弟はこう見えて一途なやつでして、イレーネさんへの気持ちは本当だと思います。しかしイレーネさんの気持ちも考えず強引な手に出てしまったことは、兄として情けなく思います。皆様にご迷惑をおかけ致しました。ほら、リカルドも謝りなさい」

「・・・・・・すいません」

 リカルドは座ったままふて腐れたような顔をして、言葉だけを口にした。

 彼はそんなリカルドの頭をぱこっと殴りつけた。

「痛って」

「そんな謝罪の態度があるか」

 怒られて、リカルドはようやく立ち上がって頭を下げた。

「すみませんでした」

「何かお詫びをさせてください」

 背丈はずいぶん差があるものの、兄弟揃って下げた頭の形や渦の巻き方がそっくりで、ディーノは思わず笑ってしまった。

「今後イレーネに二度と会わないって約束してもらえるなら、もういいんじゃない?」

 とイレーネに問うと、彼女は少し考えたあと、

「おかみさんに迷惑をおかけしたので、お詫びはお店にお願いします」

 と答えた。

 それを聞いたおかみさんが、はんっと鼻で笑った。

「うちのことはいいんだよ。本当に反省してるんなら、この二人が所帯を持ったときにどんと贈り物でもしてやりなよ」

 おかみさんが優しい声色でそう云った。

 リカルドはもう屁理屈をこねることはなくおとなしくなり、兄に連れられ帰っていった。

 集まっていた人たちも徐々に解散していき、店の周囲と路地は日常を取り戻しつつあった。
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