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第三部 最終話

27 事故

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 衝撃が治まったとわかり、ディーノはきつく閉じていた瞼を恐る恐る開いた。

 視界が薄暗い。

 あちこちに目をやり、馬車が上下逆さまになっていると悟った。

 とにかくここから出ようと足を動かす。

「いっつ!」

 とてつもない痛みが襲ってきた。身体のあちこちが痛いが、右足のふくらはぎ辺りが特に痛みが酷かった。

 我慢して身体を起こし、幌の破けた箇所から這って狭い空間から出る。

 目の前に崖下にあったはずの木々があった。振り返ると、進んでいた道は上にあり、馬車は転落しひっくり返っていた。

 一頭の馬は横になって脚を動かしてもがいていたが、もう一頭は動いていなかった。

 みんなは!?

 立ち上がろうとしたが、痛みのあまり力が入らない。

 ディーノは自身の足を見た。ふくらはぎに木片が突き刺さっていた。

 すぐに抜こうとしたが、深く刺さっているのか、少し時間がかかった。

 檄痛に耐えながらなんとか引き抜き、溢れ出る血を裂けていた幌を破いて傷の上に当てた。布はすぐに真っ赤に染まる。もう一度幌を割いて布を膝の少し上にきつめに巻いた。

 立ち上がろうとしたけれど、あまりの痛みに足を動かせなかった。仕方なく這って移動する。

「師匠! ピエールさん! マウロさん!」

 声が聞こえた。馬車の向こう側に誰かいる。

「大丈夫?」

「なんとか」

 マウロの声だった。ひらひらと動く腕が見える。

「師匠! ピエールさん!」

 続けて二人を捜そうと、馬車をぐるっと回った。

 馬車の荷台部分の幌を破って、ピエールが顔を出した。

「僕もなんとか生きてます。先生は?」

 荷物で切ったのか、ピエールの顔には切り傷ができていたが、出血は少なかった。

「声がしなくて。師匠! どこですか?」

 呼びかけながら這って移動する。

「いた! 師匠! 師匠!」

 師匠は馬車から投げ出され、崖下で倒れていた。四肢を投げ出して仰向けになっている。這いながら何度も呼びかけるが、身体が動く気配がなかった。

 近寄ってみてわかった。

「ピエール! 師匠が、師匠が! 早く街に運ばないと!」

 頭部の下の地面がとんでもない量の赤に塗れ、今なお広がっていた。
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