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第三部 最終話
12 邂逅
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屋敷に戻り、使用人が用意してくれた朝餉をとると、再び教会に向かった。
街の住人たちがすでに数組椅子に座っている。
さっきと同じ席に座り、今度こそ礼拝が始まるのを待つ。
しばらくすると、楽器を持った人たちが入ってきた。六人が祭壇の下に左右に分かれて座る。リュートとフルートはわかったけれど、ディーノの知らない楽器があった。一人はオルガンの前に座った。こちらからは背中しか見えない。
徐々に人が増えていき、頃合になると扉が閉まった。
神父が祭壇に上がり、粛々と進めていく。
今日のこの日を迎えられたことを神に感謝し、聖書の一節を読み上げ、説教をし、みんなで祈り、歌を唄う。
その合間合間に、音楽が挟まれる。
オルガンの独奏だったり、すべての楽器が合わさったり、歌の伴奏だったり。もともとの音量が同じ楽器を揃えたのだろう。主旋律と同じパートでも歌の邪魔になっていないどころか、主旋律の補助的な役割になっていて、唄いやすかった。それに副旋律も奏でられていて、厳かな中に華やかさも加わった。
こんな礼拝は経験がなかった。厳かな礼拝を好む人には受け入れられないかもしれない。けれど、華やかな礼拝も悪くなかった。ステンドグラスの光が溢れるような教会にはぴったりだ。
礼拝が終わると、人々は笑顔で帰っていき、楽器隊が残った。
「ご紹介をしますので、皆様こちらへお願いします」
そこへギュルダン氏が声をかけ、楽器隊とディーノたちを一箇所に集めた。
ディーノはオルガン奏者の顔を見て、「あっ!」と大きな声を上げた。見覚えのある顔だった。しかし名前が出てこない。なんて名前だったっけ、と焦っていると、顔を上げた彼もディーノに気がついた。
「きみは、ディーノ? ディーノ君じゃないか!」
一同の視線が二人に集まる中、彼はディーノに近寄ってきた。
ディーノはまだ彼の名前を思い出せずにいた。
「驚いた。また会えるなんて神の思し召しだね」
「あ、うん。驚いたよ。えーと、ごめん、名前が出てこなくて」
正直に言うと、彼は笑った。
「酷いなあ。リーゼだよ。リーゼ・アンテンバック」
「そうだ! リーゼだ。ほんとにごめん」
「気にしてないよ。あ、すみません。ディーノ君とはフランでの音楽会で話をしたことがありまして」
ギュルダン氏や他の人たちに向けて謝る。
「こんな田舎街で邂逅するとはな。あとでゆっくり話をしてくるといい。さて、双方の紹介といこうか」
街の住人たちがすでに数組椅子に座っている。
さっきと同じ席に座り、今度こそ礼拝が始まるのを待つ。
しばらくすると、楽器を持った人たちが入ってきた。六人が祭壇の下に左右に分かれて座る。リュートとフルートはわかったけれど、ディーノの知らない楽器があった。一人はオルガンの前に座った。こちらからは背中しか見えない。
徐々に人が増えていき、頃合になると扉が閉まった。
神父が祭壇に上がり、粛々と進めていく。
今日のこの日を迎えられたことを神に感謝し、聖書の一節を読み上げ、説教をし、みんなで祈り、歌を唄う。
その合間合間に、音楽が挟まれる。
オルガンの独奏だったり、すべての楽器が合わさったり、歌の伴奏だったり。もともとの音量が同じ楽器を揃えたのだろう。主旋律と同じパートでも歌の邪魔になっていないどころか、主旋律の補助的な役割になっていて、唄いやすかった。それに副旋律も奏でられていて、厳かな中に華やかさも加わった。
こんな礼拝は経験がなかった。厳かな礼拝を好む人には受け入れられないかもしれない。けれど、華やかな礼拝も悪くなかった。ステンドグラスの光が溢れるような教会にはぴったりだ。
礼拝が終わると、人々は笑顔で帰っていき、楽器隊が残った。
「ご紹介をしますので、皆様こちらへお願いします」
そこへギュルダン氏が声をかけ、楽器隊とディーノたちを一箇所に集めた。
ディーノはオルガン奏者の顔を見て、「あっ!」と大きな声を上げた。見覚えのある顔だった。しかし名前が出てこない。なんて名前だったっけ、と焦っていると、顔を上げた彼もディーノに気がついた。
「きみは、ディーノ? ディーノ君じゃないか!」
一同の視線が二人に集まる中、彼はディーノに近寄ってきた。
ディーノはまだ彼の名前を思い出せずにいた。
「驚いた。また会えるなんて神の思し召しだね」
「あ、うん。驚いたよ。えーと、ごめん、名前が出てこなくて」
正直に言うと、彼は笑った。
「酷いなあ。リーゼだよ。リーゼ・アンテンバック」
「そうだ! リーゼだ。ほんとにごめん」
「気にしてないよ。あ、すみません。ディーノ君とはフランでの音楽会で話をしたことがありまして」
ギュルダン氏や他の人たちに向けて謝る。
「こんな田舎街で邂逅するとはな。あとでゆっくり話をしてくるといい。さて、双方の紹介といこうか」
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