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第二部

43 思い出す(イレーネ目線)

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 その夜、イレーネは寝付けなくて困っていた。

 離れた寝台からはロゼッタの寝息が聞こえてくる。

 何度も寝返りを打ち、羊を数えてみても眠れなくて、ついいろいろと考え込んでしまう。

 夜が白々と明けてくるのを待って、イレーネは静かに着替えて家を出た。

 眠れないなら布団にいるより、散歩でもしようと思ったからだ。

 自然界の朝は早い。日の出とともに小鳥がさえずり、小動物が走り回る気配がする。

 木々ですらめきめきと成長する音が聞こえてきそうなほど、森には様々な音が息づいている。

 やがてディーノがリュートの練習をしていた切り株が見えてきた。

 この辺りには小動物がたくさん居ついている。リュートに導かれてリスたちがたくさん集まってくる、なんてメルヘンなことにはならなかったけれど。鶏の声も聞こえてくる場所で、ディーノはここを気に入っていた。

 集落の人たちから演奏を褒められたけれど、最初から上手に弾けていたわけではない。

 教えてくれる人もいなくて、曲も知らなくて、なんのお手本もなかった。弦を押さえて音を鳴らし、どの場所からどんな音が出るのか探りながら少しずつ覚えていった。

 左手で押さえた弦を右手で弾くのが難しいようで、何度も違う弦を弾いてしまい、何日も何日も、投げ出すことなく辛抱強く練習を重ねた。

 音を覚えた頃、話す言葉を音に置き換えた遊びをよくやっていた。『おはよう』だったり、『なあに?』だったり。

 単語だったものが、長い文章もできるようになった。「何て云ってるでしょう?」なんて当てっこをして遊んだこともあった。ほとんど当たらなかったけれど、すごく楽しかった。

 イレーネが唄い、ディーノがメロディを再現し、そのうち伴奏になった。

 唄はいつしか即興演奏になり、ディーノの演奏スタイルを築いていった。

 今ではどんな曲を弾けるようになっているのか聴いてみたいと思うけれど、貴族に披露するのなら、イレーネのような庶民が耳にする事は無いのだろう。そう思うと少し残念だった。

「よお」

 切り株に座ってディーノのことに思いを馳せていると、突然声がかかって驚いた。
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