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第二部
42 ロマーリオの姪と甥(イレーネ目線)
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手を動かしながら考え込んでいると、外が騒がしいことに気がついた。
「何かしら?」
「ああ、ロマーリオたちが帰ってきたんだよ。エレナが子供たちも連れてきているからはしゃいでるんだろうね」
数年前に嫁いでいったロマーリオの姉のエレナは三人の子を産んだ。残念なことに一人は亡くなってしまったらしいけれど。
「顔を見て来ようかしら」
「そうだね。行っておいで」
残りはロゼッタに任せ、イレーネは外に出た。
夕刻になっても夏の強い日差しは健在で、思わず目を瞑る。うっすら瞼を開いて光に慣れさせると、見慣れない二人の子供が走り回る姿が見えた。きっとエレナの子供たちだ。
イレーネが歩いて行くと、背中を向けていたロマーリオが振り返った。口が「お?」と云ったように開き、右手がひらりと上った。イレーネも右手を上げて応えた。
「ただいま」
「お帰りなさい。今回はエレナさんと一緒なのね」
「旦那が一緒に来られないから俺にガキたちの面倒見ろって借り出された。ったく横暴な姉貴だぜ」
口では悪態を吐きながらも、顔は嫌がっていない。イレーネは一人っ子だったから、きょうだいが羨ましかった。
話をしていたロマーリオが突然「うわっ!」と大きな声を上げた。身体ががくんとぶれて、よろけた。
「捕まえた!」
舌足らずな子供の声が聞こえて視線を下げると、ロマーリオの足に男の子がへばりついていた。
男の子は身体を離してロマーリオにもう体当たりをすると、離れて見ていた女の子の方に走って行った。
「この。待て、アラン」
ロマーリオが追いかけると、二人はきゃーきゃー云いながら、ロマーリオに捕まらないように逃げ回っている。
子供たちはロマーリオに懐いているようだった。同じ街に住んでいるのだから、交流があるのだろう。しかし叔父さんと甥っ子姪っ子というより、子供同士がじゃれているように見えてくるのは何故だろう。
三人の無邪気な姿がかわいらしくて、イレーネはくすりと笑った。
「イレーネ。久しぶりね」
「エレナさん。お帰りなさい」
「ただいま。元気にしてた?」
「ええ。エレナさんこそ」
「ええ。毎日ばたばたしてるわ」
ロマーリオによく似た顔で、エレナがにこりと微笑んだ。姉弟はたしか五歳離れていたと記憶している。
「子供さんたち、とても元気ですね」
「毎日あんな調子で、走り回っているわ。あっ!」
エレナと子供たちを見ていると、女の子がぽてっと転んだ。しかし一人ですっくと立ち上がり、兄たちの後を追う。
「たくましいですね」
イレーネは心から感心した。
「二人とも健康で、ありがたいって思ってるわ」
しみじみとした口調から、エレナの心中にある悲しみに気がついた。だから何も云えなかった。子供が何人いようと亡くなった子の替えなどいなくて、失った悲しみが消え去ることも癒されることもないのだと。
「アラン。フランカ」
エレナが呼ぶと、遊んでいた二人がロマーリオに誘導されて母親のところへ走ってきた。
「この人はイレーネさん。仲良くするのよ」
紹介されて、イレーネは腰を屈めた。
「こんにちは」
挨拶をすると、男の子が「こんにちは!」と元気よく挨拶をしてくれた。
女の子は母親のスカートにしがみつき、顔を半分だけ覗かせた。
「ごめんね。フランカは人見知りが激しくて」
「大丈夫です。ゆっくり仲良くなります」
「ありがとう」
エレナたちと手を振って別れ、それぞれの家に戻った。
「何かしら?」
「ああ、ロマーリオたちが帰ってきたんだよ。エレナが子供たちも連れてきているからはしゃいでるんだろうね」
数年前に嫁いでいったロマーリオの姉のエレナは三人の子を産んだ。残念なことに一人は亡くなってしまったらしいけれど。
「顔を見て来ようかしら」
「そうだね。行っておいで」
残りはロゼッタに任せ、イレーネは外に出た。
夕刻になっても夏の強い日差しは健在で、思わず目を瞑る。うっすら瞼を開いて光に慣れさせると、見慣れない二人の子供が走り回る姿が見えた。きっとエレナの子供たちだ。
イレーネが歩いて行くと、背中を向けていたロマーリオが振り返った。口が「お?」と云ったように開き、右手がひらりと上った。イレーネも右手を上げて応えた。
「ただいま」
「お帰りなさい。今回はエレナさんと一緒なのね」
「旦那が一緒に来られないから俺にガキたちの面倒見ろって借り出された。ったく横暴な姉貴だぜ」
口では悪態を吐きながらも、顔は嫌がっていない。イレーネは一人っ子だったから、きょうだいが羨ましかった。
話をしていたロマーリオが突然「うわっ!」と大きな声を上げた。身体ががくんとぶれて、よろけた。
「捕まえた!」
舌足らずな子供の声が聞こえて視線を下げると、ロマーリオの足に男の子がへばりついていた。
男の子は身体を離してロマーリオにもう体当たりをすると、離れて見ていた女の子の方に走って行った。
「この。待て、アラン」
ロマーリオが追いかけると、二人はきゃーきゃー云いながら、ロマーリオに捕まらないように逃げ回っている。
子供たちはロマーリオに懐いているようだった。同じ街に住んでいるのだから、交流があるのだろう。しかし叔父さんと甥っ子姪っ子というより、子供同士がじゃれているように見えてくるのは何故だろう。
三人の無邪気な姿がかわいらしくて、イレーネはくすりと笑った。
「イレーネ。久しぶりね」
「エレナさん。お帰りなさい」
「ただいま。元気にしてた?」
「ええ。エレナさんこそ」
「ええ。毎日ばたばたしてるわ」
ロマーリオによく似た顔で、エレナがにこりと微笑んだ。姉弟はたしか五歳離れていたと記憶している。
「子供さんたち、とても元気ですね」
「毎日あんな調子で、走り回っているわ。あっ!」
エレナと子供たちを見ていると、女の子がぽてっと転んだ。しかし一人ですっくと立ち上がり、兄たちの後を追う。
「たくましいですね」
イレーネは心から感心した。
「二人とも健康で、ありがたいって思ってるわ」
しみじみとした口調から、エレナの心中にある悲しみに気がついた。だから何も云えなかった。子供が何人いようと亡くなった子の替えなどいなくて、失った悲しみが消え去ることも癒されることもないのだと。
「アラン。フランカ」
エレナが呼ぶと、遊んでいた二人がロマーリオに誘導されて母親のところへ走ってきた。
「この人はイレーネさん。仲良くするのよ」
紹介されて、イレーネは腰を屈めた。
「こんにちは」
挨拶をすると、男の子が「こんにちは!」と元気よく挨拶をしてくれた。
女の子は母親のスカートにしがみつき、顔を半分だけ覗かせた。
「ごめんね。フランカは人見知りが激しくて」
「大丈夫です。ゆっくり仲良くなります」
「ありがとう」
エレナたちと手を振って別れ、それぞれの家に戻った。
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