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第二部

41 不安(イレーネ目線)

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 イレーネはインゲンの筋を剥きながら、大きな溜め息をついた。

 ここの生活は毎日ほとんど代わり栄えはないけれど、そのことに不満は一切ない。

 養父母は優しくて、特にロゼッタは実母のように甘えさせてくれる。相談事にも乗ってくれるし、愚痴も聞いてくれる。ディーノのことだって、とても心配している。溜め息の原因はそのディーノのことだった。

 前回の手紙が届いたのは、もう三年近く前になる。

 最初の手紙には馬車での移動はお尻が痛くて大変なのに、先生はよく寝ている。お尻の皮が相当に厚い。ピエールさんは物知りで、新しい場所に行くといろいろと教えてくれる。御者のマウロさんは寡黙だけど、馬が大層好きらしく、馬からの信頼が篤い。など日常のことや、先生からたくさん曲を教えてもらっていること、演奏時の注意点を指摘されたことなどリュートのことがらどたどしい文章で綴られていた。

 次の手紙には、貴族たちを前にして演奏が出来たことが心情とともに書かれていた。

 三通目の手紙には、再び演奏旅行に出ていること。貴族相手の教師の仕事も入ってきている。貴族への対応は気を張るから疲れてしまう、といった愚痴も少し書いてあった。

 体調を崩していないだろうかと気になりながらも、居場所がわからないためイレーネから手紙を出すことができなくて、もどかしい気持ちで次の手紙を待っていた。

 なのに、なのに、ディーノときたら。もう私のことなんて忘れちゃってるのかしら。

 今度は不安な思いで胸が押しつぶされそうになった。

「ほらほら、手が止まってるよ」

 ロゼッタに注意され、イレーネは再びインゲンに向き合う。

「ねえ、お母さん。私から手紙を出す方法はないかしら?」

「ディーノにかい? 居場所がわからないんじゃあねえ。宛先のないものを受け付けてくれるわけがないからね」

「そうよね」

 わかっていたけれど、聞かずにはいられなかった。

「ディーノも忙しいんだろう。それに通商のない国には届かないし、長距離だと手紙がどこかで止まる可能性もあるらしいから。そのうちひょっこり届くだろうさ。気長に待っておやりよ」

「……うん」

 ロゼッタの云うことはもっともだった。

 だけど、このままディーノに忘れ去られて、お婆さんになってしまったらどうしよう。と心配になる。

 イレーネは十九歳になった。同じ歳頃の子たちは、縁付いたり仕事を見つけたりして、集落を出て近くの街に住んでいる。残っているのは歳下の子たちばかりだ。

 周囲が独り立ちしていくのを見ていると焦ってしまう。いつかは家庭を持ちたいと願っているし、子供だって欲しい。

 ここは居心地がとてもいいから、つい二人に甘えてしまっているけれど、このままじゃいけないこともわかっていた。

 いっそ街で仕事を探してみようか。住み込みで雇ってもらえるような仕事はないだろうか。
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