90 / 157
第二部
37 飲みすぎ
しおりを挟む
手品や寸劇、オペラ歌手が舞台で披露し、最後の出演者、ロドヴィーゴの演奏が終わった時には日にちが変わろうとしていた。後には舞踏会が予定されていて、出席者たちは舞踏会場に移動する。
食事の途中で眠りこんでしまっている客、廊下のソファーで横になってしまう泥酔者、彼らに構うことなく、貴族たちは思い思いに楽しんでいる。招待客用に五十余りの部屋も解放されていて、宿泊していくのか階段を上がっていく者もいる。
舞踏会場に向かう途中のロビーでは、帰る前に公爵に礼を述べるための貴族たちの長い列もできていた。
そのちょっとした混乱の中で、ピエールはディーノを見失った。
* * *
ディーノは、玄関とは逆方向の廊下を歩いていた。
世界がぐにゃぐにゃに歪んで見えるせいで、まっすぐに歩けない。壁伝いに歩こうと思うのに、その壁までがぐにゃぐにゃで、手を伸ばしているのに壁に触れられない。身体が重い重いと思っているうちに、よろよろと傾き転んでしまった。
こけた自分がおかしくて、ふへへへと変な笑い声が洩れた。
「嫌ですわぁ。せ~んせ、大丈夫?」
揺れる天井を見ていたディーノの視界を、マルティナ夫人の顔が覆った。
「へーきですよ~」
自分の吐く息が酒臭い。いつもは気になる夫人の香水がまったく匂わない。
しまった。呑み過ぎた。
立ち上がろうとしているのになかなか起き上がれなくて、ゆっくりと身体を反転し、這いつくばるようにして足を伸ばし、なんとか壁に寄りかかってようやく立ち上がった。
「先生。階段ですわよ」
手すりに捕まらせてもらい、一段一段ゆっくりと足を上げていく。ときどき頭から落ちそうになって、笑いながら手すりにしがみついた。酔った頭でも落ちることだけは避けたかったので、途中から這うようにして階段を上ることにした。
食事の途中で眠りこんでしまっている客、廊下のソファーで横になってしまう泥酔者、彼らに構うことなく、貴族たちは思い思いに楽しんでいる。招待客用に五十余りの部屋も解放されていて、宿泊していくのか階段を上がっていく者もいる。
舞踏会場に向かう途中のロビーでは、帰る前に公爵に礼を述べるための貴族たちの長い列もできていた。
そのちょっとした混乱の中で、ピエールはディーノを見失った。
* * *
ディーノは、玄関とは逆方向の廊下を歩いていた。
世界がぐにゃぐにゃに歪んで見えるせいで、まっすぐに歩けない。壁伝いに歩こうと思うのに、その壁までがぐにゃぐにゃで、手を伸ばしているのに壁に触れられない。身体が重い重いと思っているうちに、よろよろと傾き転んでしまった。
こけた自分がおかしくて、ふへへへと変な笑い声が洩れた。
「嫌ですわぁ。せ~んせ、大丈夫?」
揺れる天井を見ていたディーノの視界を、マルティナ夫人の顔が覆った。
「へーきですよ~」
自分の吐く息が酒臭い。いつもは気になる夫人の香水がまったく匂わない。
しまった。呑み過ぎた。
立ち上がろうとしているのになかなか起き上がれなくて、ゆっくりと身体を反転し、這いつくばるようにして足を伸ばし、なんとか壁に寄りかかってようやく立ち上がった。
「先生。階段ですわよ」
手すりに捕まらせてもらい、一段一段ゆっくりと足を上げていく。ときどき頭から落ちそうになって、笑いながら手すりにしがみついた。酔った頭でも落ちることだけは避けたかったので、途中から這うようにして階段を上ることにした。
10
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
「お前は彼女(婚約者)に助けられている」という言葉を信じず不貞をして、婚約者を罵ってまで婚約解消した男の2度目は無かった話
ラララキヲ
ファンタジー
ロメロには5歳の時から3歳年上の婚約者が居た。侯爵令息嫡男の自分に子爵令嬢の年上の婚約者。そしてそんな婚約者の事を両親は
「お前は彼女の力で助けられている」
と、訳の分からない事を言ってくる。何が“彼女の力”だ。そんなもの感じた事も無い。
そう思っていたロメロは次第に婚約者が疎ましくなる。どれだけ両親に「彼女を大切にしろ」と言われてもロメロは信じなかった。
両親の言葉を信じなかったロメロは15歳で入学した学園で伯爵令嬢と恋に落ちた。
そしてロメロは両親があれだけ言い聞かせた婚約者よりも伯爵令嬢を選び婚約解消を口にした。
自分の婚約者を「詐欺師」と罵りながら……──
これは【人の言う事を信じなかった男】の話。
◇テンプレ自己中男をざまぁ
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げる予定です。
<!!ホットランキング&ファンタジーランキング(4位)入り!!ありがとうございます(*^^*)!![2022.8.29]>
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。
ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」
夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。
──数年後。
ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。
「あなたの息の根は、わたしが止めます」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる