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第二部

37 飲みすぎ

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 手品や寸劇、オペラ歌手が舞台で披露し、最後の出演者、ロドヴィーゴの演奏が終わった時には日にちが変わろうとしていた。後には舞踏会が予定されていて、出席者たちは舞踏会場に移動する。

 食事の途中で眠りこんでしまっている客、廊下のソファーで横になってしまう泥酔者、彼らに構うことなく、貴族たちは思い思いに楽しんでいる。招待客用に五十余りの部屋も解放されていて、宿泊していくのか階段を上がっていく者もいる。

 舞踏会場に向かう途中のロビーでは、帰る前に公爵に礼を述べるための貴族たちの長い列もできていた。

 そのちょっとした混乱の中で、ピエールはディーノを見失った。


    *        *        *


 ディーノは、玄関とは逆方向の廊下を歩いていた。

 世界がぐにゃぐにゃに歪んで見えるせいで、まっすぐに歩けない。壁伝いに歩こうと思うのに、その壁までがぐにゃぐにゃで、手を伸ばしているのに壁に触れられない。身体が重い重いと思っているうちに、よろよろと傾き転んでしまった。

 こけた自分がおかしくて、ふへへへと変な笑い声が洩れた。

「嫌ですわぁ。せ~んせ、大丈夫?」

 揺れる天井を見ていたディーノの視界を、マルティナ夫人の顔が覆った。

「へーきですよ~」

 自分の吐く息が酒臭い。いつもは気になる夫人の香水がまったく匂わない。

 しまった。呑み過ぎた。

 立ち上がろうとしているのになかなか起き上がれなくて、ゆっくりと身体を反転し、這いつくばるようにして足を伸ばし、なんとか壁に寄りかかってようやく立ち上がった。

「先生。階段ですわよ」

 手すりに捕まらせてもらい、一段一段ゆっくりと足を上げていく。ときどき頭から落ちそうになって、笑いながら手すりにしがみついた。酔った頭でも落ちることだけは避けたかったので、途中から這うようにして階段を上ることにした。
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