28 / 60
三章 過去の行い
4.宮前母
しおりを挟む
「宮前亜澄は、カメラ慣れしているようだな」
「お祖父さんがプロですもんね。思春期になって恥ずかしくなったんでしょうか」
亜澄の家族の情報をかなり入手できた。量としてはまだまだだが、一歩前進できた。
外村との情報共有と整理をして、今後の取材方針の相談をしよう。
ICレコーダーを止めて考えていると、美智琉から声をかけられる。
「今日はこれでもう終わり?」
「そうですね。今日の取材内容をまとめたいので、ここで別れましょう」
「駅まで行かないのか?」
「どこかでお店を見つけて、仕事をします」
「お茶でもしたいところだけど、今日は帰る。明日も同行していいか?」
美智琉が伺いを立てながらも、同行する気満々なのが見てとれた。
「明日は日曜ですけど、ついてくるんですか。今後の予定はどうなるか決まってませんけど」
「まだ一日じゃないか。もう少し付き合わせてくれよ」
「わかりました」
タクシーに乗る美智琉を溜め息と共に見送り、芙季子はもう一度、宮前宅に向かった。
外村に一家の写真を添付してメールをし、宮前母の顔がわかったから宮前家のマンションをしばらく張るとメッセージを出した。
すぐに返信が届き、車で行くので、合流しましょうとの事。
自販機でアイスティーを買い、建物に隠れてマンションを見張っていると、1時間ほどして外村から連絡があった。車を止めている所に移動し、四駆の助手席に乗り込む。
芙季子は今日録音したデータをノートPCに保存する作業をしながら、車外の様子を窺う。
外村は杏子の写真を画像検索して、出演作品を調べていた。
3時間ほどが経った。人通りはあるものの、暗くなって人の顔の判別はつきにくい。
マンションに向かっていく人にだけ注意を向けるしかなくなった。
ついさっき一人が件のマンションに入って行ったが、男性でしかも1階の電気がついた。
「病院の面会時間はもう終わってますよね」
外村の呟きに、芙季子は左手の腕時計をちらっと見る。8時半。
「そうね。ぎりぎりまでいてまっすぐに帰宅してくれたら、そろそろじゃないかと思うんだけど」
マンションの真向いの道から自転車が現れた。
左右の確認をした後道路を渡り、マンションの敷地内に入って、駐輪場に自転車を止めた。
女性の姿だとわかるが、顔はわからない。
芙季子と外村が注視している中、女性はオートロックの扉を開けて、マンションに入った。
6軒あるうちの、部屋に明かりが灯っているのは半分。1階にしては時間がかかっている。
2階は両方ついている。
3階だとすれば納得のいく時間のかかり方だった。
「点いた」
明かりが点いたのは3階の左側の部屋。
宮前宅がどちらなのかわからないが、突撃してみることにした芙季子は、車を降りた。
歩きながら何と声を掛けようか考える。
週刊成倫の記者だと名乗ると、得られるものはきっとない。どの面下げてと怒らせるだけだろう。
怒らせて相手の本性を見るという手段もあるにはあるが、悪人でもない亜矢にそんな手段は使いたくない。
芙季子はただ知りたいだけなのだ。
宮前亜澄の置かれていた状況を。
山岸由依との関係性を知るためには、背景を知らないと何も見えてこない。
亜澄が純粋な被害者であることがわかれば、前回の記事を謝罪し、真相を書き直さなければならない。
そのためには知らなければいけない。
芙季子は宮前宅のインターホンを鳴らした。
訝しむような声色で「はい」と返事があった。
「宮前さんでいらっしゃいますか」
確認を取ると、肯定した。
あちらの画面に芙季子の顔が写っているはずだ。芙季子はぺこんと一度頭を下げた。
「雑誌社の記者で大村と申します。亜澄さんについて詳しく教えて頂きたく、取材の申し込みに参りました。亜澄さんのご容体はいかがでしょうか。快方に向かわれていらっしゃいますか」
言葉を切って返答を待ったが、亜矢は沈黙している。
だがインターホンの向こうにいる気配は感じられた。
こちらの様子を窺っているのか、取材を迷っているのか。
少し突っ込んでみようか。芙季子は返事を待たず、口を開いた。
「Bさんについて、学校から詳しい説明はありましたか? 中学時代のお友達と同一人物であることはご存じですよね」
「……本当なんでしょうか? あたしは別人だと思っていたので、飲み込めなくて」
亜矢の動揺が伝わってくる。
亜矢は動画とテレビで亜澄と友達だった山岸由依に感謝の言葉を述べた後、少女Bに対して攻撃の言葉を口にした。
あの地点では同一人物だと気がついていなかったはずだ。
だが芙季子の記事を読んだのだから、同一人物だとわかっているはずなのに、2回目の動画では触れていなかった。
自分が非難されたと頭に血が上がり、理解していないのではないかと思っていた。
「確かな情報です」
「あの子について教えてもらえるなら、少しの時間でしたら取材に応じます」
「ありがとうございます。では、ご都合の良いお時間をご指定ください」
「今からでもいいですよ」
「今から? わかりました。準備をしまして、上がらせて頂きます」
芙季子は急いで車に戻り、外村に取材を取り付けたことを伝えた。
「週刊成倫だと伝えたんですか」
「言ってない」
「身バレしたら危ないですよ。俺も行きます」
「車はどうするの?」
「コインパーキングを見つけてあります。少しだけ待っていてください」
マンションの玄関先で5分ほど待っていると、外村が走って戻ってきた。
外村に指摘されるまで危険性など考えていなかったが、週刊成倫を恨んでいるだろうから、逆上する可能性もあった。
柔道経験者の外村がいてくれると、心強い。
「お祖父さんがプロですもんね。思春期になって恥ずかしくなったんでしょうか」
亜澄の家族の情報をかなり入手できた。量としてはまだまだだが、一歩前進できた。
外村との情報共有と整理をして、今後の取材方針の相談をしよう。
ICレコーダーを止めて考えていると、美智琉から声をかけられる。
「今日はこれでもう終わり?」
「そうですね。今日の取材内容をまとめたいので、ここで別れましょう」
「駅まで行かないのか?」
「どこかでお店を見つけて、仕事をします」
「お茶でもしたいところだけど、今日は帰る。明日も同行していいか?」
美智琉が伺いを立てながらも、同行する気満々なのが見てとれた。
「明日は日曜ですけど、ついてくるんですか。今後の予定はどうなるか決まってませんけど」
「まだ一日じゃないか。もう少し付き合わせてくれよ」
「わかりました」
タクシーに乗る美智琉を溜め息と共に見送り、芙季子はもう一度、宮前宅に向かった。
外村に一家の写真を添付してメールをし、宮前母の顔がわかったから宮前家のマンションをしばらく張るとメッセージを出した。
すぐに返信が届き、車で行くので、合流しましょうとの事。
自販機でアイスティーを買い、建物に隠れてマンションを見張っていると、1時間ほどして外村から連絡があった。車を止めている所に移動し、四駆の助手席に乗り込む。
芙季子は今日録音したデータをノートPCに保存する作業をしながら、車外の様子を窺う。
外村は杏子の写真を画像検索して、出演作品を調べていた。
3時間ほどが経った。人通りはあるものの、暗くなって人の顔の判別はつきにくい。
マンションに向かっていく人にだけ注意を向けるしかなくなった。
ついさっき一人が件のマンションに入って行ったが、男性でしかも1階の電気がついた。
「病院の面会時間はもう終わってますよね」
外村の呟きに、芙季子は左手の腕時計をちらっと見る。8時半。
「そうね。ぎりぎりまでいてまっすぐに帰宅してくれたら、そろそろじゃないかと思うんだけど」
マンションの真向いの道から自転車が現れた。
左右の確認をした後道路を渡り、マンションの敷地内に入って、駐輪場に自転車を止めた。
女性の姿だとわかるが、顔はわからない。
芙季子と外村が注視している中、女性はオートロックの扉を開けて、マンションに入った。
6軒あるうちの、部屋に明かりが灯っているのは半分。1階にしては時間がかかっている。
2階は両方ついている。
3階だとすれば納得のいく時間のかかり方だった。
「点いた」
明かりが点いたのは3階の左側の部屋。
宮前宅がどちらなのかわからないが、突撃してみることにした芙季子は、車を降りた。
歩きながら何と声を掛けようか考える。
週刊成倫の記者だと名乗ると、得られるものはきっとない。どの面下げてと怒らせるだけだろう。
怒らせて相手の本性を見るという手段もあるにはあるが、悪人でもない亜矢にそんな手段は使いたくない。
芙季子はただ知りたいだけなのだ。
宮前亜澄の置かれていた状況を。
山岸由依との関係性を知るためには、背景を知らないと何も見えてこない。
亜澄が純粋な被害者であることがわかれば、前回の記事を謝罪し、真相を書き直さなければならない。
そのためには知らなければいけない。
芙季子は宮前宅のインターホンを鳴らした。
訝しむような声色で「はい」と返事があった。
「宮前さんでいらっしゃいますか」
確認を取ると、肯定した。
あちらの画面に芙季子の顔が写っているはずだ。芙季子はぺこんと一度頭を下げた。
「雑誌社の記者で大村と申します。亜澄さんについて詳しく教えて頂きたく、取材の申し込みに参りました。亜澄さんのご容体はいかがでしょうか。快方に向かわれていらっしゃいますか」
言葉を切って返答を待ったが、亜矢は沈黙している。
だがインターホンの向こうにいる気配は感じられた。
こちらの様子を窺っているのか、取材を迷っているのか。
少し突っ込んでみようか。芙季子は返事を待たず、口を開いた。
「Bさんについて、学校から詳しい説明はありましたか? 中学時代のお友達と同一人物であることはご存じですよね」
「……本当なんでしょうか? あたしは別人だと思っていたので、飲み込めなくて」
亜矢の動揺が伝わってくる。
亜矢は動画とテレビで亜澄と友達だった山岸由依に感謝の言葉を述べた後、少女Bに対して攻撃の言葉を口にした。
あの地点では同一人物だと気がついていなかったはずだ。
だが芙季子の記事を読んだのだから、同一人物だとわかっているはずなのに、2回目の動画では触れていなかった。
自分が非難されたと頭に血が上がり、理解していないのではないかと思っていた。
「確かな情報です」
「あの子について教えてもらえるなら、少しの時間でしたら取材に応じます」
「ありがとうございます。では、ご都合の良いお時間をご指定ください」
「今からでもいいですよ」
「今から? わかりました。準備をしまして、上がらせて頂きます」
芙季子は急いで車に戻り、外村に取材を取り付けたことを伝えた。
「週刊成倫だと伝えたんですか」
「言ってない」
「身バレしたら危ないですよ。俺も行きます」
「車はどうするの?」
「コインパーキングを見つけてあります。少しだけ待っていてください」
マンションの玄関先で5分ほど待っていると、外村が走って戻ってきた。
外村に指摘されるまで危険性など考えていなかったが、週刊成倫を恨んでいるだろうから、逆上する可能性もあった。
柔道経験者の外村がいてくれると、心強い。
10
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
時の呪縛
葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。
葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。
果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。
騙し屋のゲーム
鷹栖 透
ミステリー
祖父の土地を騙し取られた加藤明は、謎の相談屋・葛西史郎に救いを求める。葛西は、天才ハッカーの情報屋・後藤と組み、巧妙な罠で悪徳業者を破滅へと導く壮大な復讐劇が始まる。二転三転する騙し合い、張り巡らされた伏線、そして驚愕の結末!人間の欲望と欺瞞が渦巻く、葛西史郎シリーズ第一弾、心理サスペンスの傑作! あなたは、最後の最後まで騙される。
憑代の柩
菱沼あゆ
ミステリー
「お前の顔は整形しておいた。今から、僕の婚約者となって、真犯人を探すんだ」
教会での爆破事件に巻き込まれ。
目が覚めたら、記憶喪失な上に、勝手に整形されていた『私』。
「何もかもお前のせいだ」
そう言う男に逆らえず、彼の婚約者となって、真犯人を探すが。
周りは怪しい人間と霊ばかり――。
ホラー&ミステリー
失った記憶が戻り、失ってからの記憶を失った私の話
本見りん
ミステリー
交通事故に遭った沙良が目を覚ますと、そこには婚約者の拓人が居た。
一年前の交通事故で沙良は記憶を失い、今は彼と結婚しているという。
しかし今の沙良にはこの一年の記憶がない。
そして、彼女が記憶を失う交通事故の前に見たものは……。
『○曜○イド劇場』風、ミステリーとサスペンスです。
最後のやり取りはお約束の断崖絶壁の海に行きたかったのですが、海の公園辺りになっています。
没落貴族イーサン・グランチェスターの冒険
水十草
ミステリー
【第7回ホラー・ミステリー小説大賞奨励賞 受賞作】 大学で助手をしていたテオ・ウィルソンは、美貌の侯爵令息イーサン・グランチェスターの家庭教師として雇われることになった。多額の年俸と優雅な生活を期待していたテオだが、グランチェスター家の内情は火の車らしい。それでもテオには、イーサンの家庭教師をする理由があって…。本格英国ミステリー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる