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カバのひーくん サンタさんにお願い

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「お母さん、サンタさんいつ来るん?」

 カバのひーくんは、顔を上げて隣を歩くお母さんに尋ねました。

「サンタさんは、クリスマスイブの夜に来るんやで」

 お母さんは大きなお腹に手を当てて、ゆっくり歩いています。

「クリスマスイブっていつ?」

「12月24日よ」

「何時に来るん?」

「さあ、何時に来てくれるんやろね」

 お母さんはサンタさんが家に来る時間を教えてくれません。

「ボク、サンタさんにお願いしたいことがあるねん。サンタさん、こっちにちゃんと来てくれるかな」

「ひーくんがええ子にしてたら、ちゃんと来てくれるよ。あ、じいちゃんとばあちゃん、迎えに出てきてれたわ」

 前を見ると、お母さんのお父さんとお母さんが、大きく手を振っています。ひーくんの名前を呼びながら。

 今日からしばらくの間、ひーくんはじいちゃんとばあちゃんと暮らすことになっています。
 お父さんは出張でしばらくお家にいなくて、お母さんも赤ちゃんを産む準備があるからです。

「それじゃ、ひーくんのこと、お願いするね」

「任せとき。赤ちゃん生まれたら、ひーくん、病院に連れて行くからな」

 ひーくんの荷物を片付け終え、じいちゃんとばあちゃんとしばらく話をしたお母さんは、帰って行きました。
 ひーくんは、お母さんを見送ります。

「お母さん、毎日電話していい?」

「いいよ。お母さんもかけるからね」

 何回も手を振り合ってから、お母さんは角を曲がって行きました。

 じいちゃんとばあちゃんのお家は何度も来ているし、二人はとても優しいし、美味しいご飯を食べさせてくれるけど、お父さんもお母さんおいなくて、ひーくんは少し寂しくなってしまいました。

「ひーくん、おせいべい食べる?」

「ううん」

 おばあちゃんにおせいべいをもらったけど、食べたい気分になりませんでした。

「ひーくん、公園行くか?」

 おじいちゃんが遊びに誘ってくれたけど、遊びたい気分でもありません。

「おじいちゃん、おばあちゃん」

「なあに」

「ボク、サンタさんにお願いごとがあるねん。どうやったらお願いできるん?」

 おじいちゃんとおばあちゃんは、顔を見合わせました。
 サンタさんにお願いごとをするのは、難しいのでしょうか。

「お願いごとするんなら、靴下をぶら下げて、中にお手紙入れたらどうや?」

 おじいちゃんが教えてくれました。

「うん、それやろう」

 ひーくんは、自分の靴下を脱ぎました。

「どこにぶら下げたらいいの?」

 おばあちゃんは目を真ん丸にしてから、大笑いしました。

「明日、一緒に靴下買いに行こうね」

 どうやら、今はいている靴下をぶら下げるのではないようです。ひーくんは脱いだばかりの靴下をはきなおしました。

 翌日、ひーくんは緑色の毛糸で編んだ、大きな靴下を買ってもらったことを、お母さんに報告しました。

 お母さんは、「良かったね。クリスマスイブの夜に、お願いごとを書いたお手紙を入れて、ベッドにぶら下げようね」
 と教えてくれました。

 毎日お母さんと電話をしていたのに、クリスマスイブの日は電話がありませんでした。

 寂しく思いながら、おばあちゃんが作ってくれた鶏の唐揚げとケーキを食べて、お風呂にも入って、寝る準備が整いました。

 お手紙を入れた靴下も、ベッド脇にぶら下げました。

 けれど、ひーくんは寝ないでサンタさんを待っていました。
 寒いので、おふとんには入ったけれど、がんばって起きていようと思っていました。

 靴下をぶら下げたのは、眠ってしまったときのためです。
 だけど、直接サンタさんにお願いしたいのです。

 サンタさん、まだかな。たくさんのお家を回っているから、ここに来るのは遅くなるのかな。
 ぱちぱちとまばたきしながら、ひーくんはサンタさんを待ちます。

 待ちます。
 待ちます。

 やがて、すーすーと寝息を立てて、ひーくんは眠ってしまいました。

 サンタさんを待ちながら眠ったからか、ひーくんは夢の中でサンタさんに会いました。

 真っ赤な帽子とお洋服を着た、白いひげのおじいさんは、ひーくんのお願いごとを聞いてうなずいてくれました。

 ぱっと目が覚めたひーくんは、枕元にプレゼントがふたつ置いてあるのに気がつきました。

 緑色の袋には新幹線のおもちゃが、赤色の袋には電車の図鑑が入っていました。

 ひーくんは電車が大好きです。おもちゃも図鑑も嬉しいけれど、ひーくんはいつもより嬉しくありません。

 一番の望みはサンタさんにお願いしたことだからです。

「ほんまにお願い叶えてくれるんかな。いつ叶えてくれるんやろ」

 心配になりながら、クリスマスの日を過ごしていました。

「ひーくん、病院行くよ」

 おばあちゃんのスマホに電話がかかってきて、通話が終わるなり、着替えるようにいわれました。
 コートを着て、おじいちゃんおばあちゃんと一緒に、タクシーで病院に向かいます。

 ひーくんは病院が好きではありません。注射は痛いし、苦いお薬を飲まされるからです。
 お母さんになにかあったのかなと、ドキドキしながら後ろをついていきます。

 病室に入ると、お父さんがいました。

「ひーくん、ええ子にしてたんか?」

「してたよ。お母さんはここにおるん?」

「おるよ。おいで」

 お父さんはひーくんを抱っこしました。連れていってくれたのは、お母さんのベッドでした。
 お母さんは横になっていました。なんだか疲れているように見えます。

「お母さん、大丈夫なん?」

 ひーくんはとっても心配になりました。

「大丈夫よ。ちょっと疲れてるだけやで。それよりひーくん、見て上げて。弟が生まれたんやで」

 お母さんのベッドの隣に小さなベッドがあり、毛布に包まれた小さな赤ちゃんが眠っていました。
 とってもとっても小さい、ひーくんの弟が。

「生まれたんや。ちいちゃいなあ」

 お母さんのお腹はぺたんと引っ込んで、代わりに弟が生まれました。

「ボク、サンタさんにお願いしてん」

 ひーくんは、赤ちゃんを見つめながら、お母さんとお父さんに伝えます。サンタさんが願いを叶えてくれたのだと。

「赤ちゃんが元気に生まれますように。お父さんとお母さんとボクと赤ちゃんと、一緒にお家に帰れますようにって」


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感想 1

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みんなの感想(1件)

三柴 ヲト
2024.12.16 三柴 ヲト
ネタバレ含む
衿乃 光希(絵本大賞参加中)
2024.12.16 衿乃 光希(絵本大賞参加中)

三柴先生、読んでくださってありがとうございます。
1話ずつに丁寧な感想をくださって、感激です!
ありがとうございます

解除

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