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ミラー

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 俺は苛立っていた。
 ガムを噛んでクチャクチャでもなく、納豆を食べてネチャネチャでもなく、雨で濡れてピチャピチャでもなく、草を食べてムシャムシャでもなく、ムシャクシャしていた。
 何故かと言うと犬に噛まれたからだ。これだから犬は嫌いなのだ。やはり猫に限るな。日本では狂犬病がほぼないとは言え、狂犬病は致死率が100%であるので、恐怖と絶望に俺は苛まれた。しかも咬まれた瞬間、道を歩いていた外国人がワンダホーとか言いやがって、俺は更に怒りの感情も湧いて来たのだ。
 今、このやり場のない怒りを運転しながらどこにぶつけようか考えている。
 そして俺はある結論に達した。
 人生は運だ。俺が今日犬に噛まれた様に。だから今度は俺のターンだ。車のナンバーが1111の車。つまりワンワンワンワンの犬の車のナンバーを発見したら追跡し、因縁をつけてやろう。そう思った。
 そして道を周回するように、移動し、見つけた1111のナンバー。しかも運転しているのは男、更に助手席には犬が。もうこれは弁解の余地はない。今日、今この時を持って俺は因縁マンへと変貌を遂げた。
 車を追跡し、広い公園の駐車場でワンワン車は止まった。
 男が車から降り、こちらを見た。その瞳には激しい憎悪の念が籠っていた。なるほど、俺が追跡していたのがばれていたのか。しかし、その程度でひるむ俺ではない。俺は男へと近づいた。
「今日俺は犬に噛まれたんだ。どうしてくれるんだ」
「今日俺は猫に噛まれたんだ。どうしてくれるんだ」
 何を言っているんだこいつ。オウム返し戦法か? まあいい。更に威嚇してやろう。
「お前のナンバーは1111、つまりワンワンワンワンだ。この犬畜生めが」
「お前のナンバーは2222、つまりにゃんにゃんにゃんにゃんだ。この猫畜生めが」
 どういう事だ? 確かに俺の車のナンバーは2222だが。まさかこいつも俺と同じ考えで行動したのか?
「俺は1111のナンバーを見つけたから追跡した」
「俺は2222のナンバーを見つけたから誘導した」
 なるほど、世界は広い様で実に狭いんだな。俺と同じような考え方の奴と巡り会うとはな。
 俺達は、にゃんにゃんにゃんにゃん、わんわんわんわんと笑い合った。
 そしてお互いに仲良くなり、猫と犬の魅力について語り合った。
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