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天獣編

ベージエラの助言と、花肌キレンの力。それと淡出硝介の力。

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「天から降り注ぐ天力てんりきというものがあって、あなた達はそれによって能力に必要な体力・筋力のようなものを、休むことで補充しているの。毎日しっかり休むように。夜更かしダメ!」
「はぁい、先生もね」
「先生は大丈夫です!」
 担任のベージエラは、とある朝のホームルームで、そんな助言をした。
 守護結界の赤天石せきてんせきのおかげで、いつ天獣てんじゅうがやって来ても、学園内の人間を守れる。天獣が戸惑う間に駆け付ければ被害なんて無いようなものだ、力がまだ弱いうちの天獣相手なら当面は大丈夫――というのが、天界の見解。
 それを想起し、形快かたがい晴己はるきは思った。
(通行人には悪いけど、遠回りしてもらう手もあるんだよね……シンプルだけど、それが一番か)
 五組のほとんどの者も同じように思った。

 そして昼。
 正門前の長閑な時間を、悲鳴や慌てふためく声が塗り替えた。
「あっちか!」
 と、駆け付けた少女がいた。水色に髪を染めた五組の少女――花肌はなはだキレン。
『鋭利さを無いものとする』
 彼女の能力は、フィッシング部に所属するがゆえのものだった。針が自分自身や他人に刺さることを防ぎたいと思った彼女はそういった方向性で天獣とのいざこざの中でもサポートできればと考えたのだった。
 キレンの前に現れた天獣は、白い人型で、腕は四本。のっぺらぼうのような顔からクワガタのノコのようなものが前方に伸びている。尻尾もある。尾にはトゲが数多ある。
 天獣は、既に、数人に切り傷を負わせたあとのようだった。辺りには手などから少々血を流す生徒や警備員がいた。
 そんなことをした存在を前に、キレンは仲間を待った。攻撃の手段がないからだった。
 天獣はその手から白い刃を生じさせた。それが周囲の人を――。
 それが飛んでくる。
 キレンはそれの鋭利さを無いものとし、それ以上の被害を抑えた。当たっても蹴られただけのようなもの。
(誰か! 誰か! 私じゃ守ることしかできない!)
 キレンは攻撃の手を待った。必死に待った。目が潤む中で、守りながら。
 そこへ――正門より前へと――キレンの横へと、現れた。
 淡出あわで硝介しょうすけ
「遅れてごめん!」
「いいから! ほらアレ!」
 硝介は天獣に睨みを利かせた。天獣に目はなかったが、その眉間のような所にシワはできた。まるで、「お前は強そうだ、警戒しなければ」と動物が本能的に察するように。
『火を出したり操ったりする』
 硝介はその力によって、主に、消火活動なんかに協力したいと思っていた。それを逆に出しもできるならと、天獣との戦闘に積極的な考えを持ったのだった。
 その硝介が前へと進み出る。だけではなく話し掛けた。
「おい白いの。焦げて真っ黒になりたいか? 人を喰わねえなら生かしてやる」
「グギギャァアアッ!」
 顔に口を生じさせ、そう発声した瞬間、二人の元へと、それは、白い刃を放った。さっきよりも大きな刃。さっきよりも多く。
 交渉決裂――できたかすら分からないが――と、硝介は感覚的に思った、一瞬で。
 硝介は必死にけた。
 彼はその茶髪を激しく風に揺らし、そして前方に出る。
 巧みな動きだった。彼のそれはダンス部ゆえの体裁き。
 キレンは刃の切れ味を損なわせ、周囲への、もしもの被害を抑えながら、自身もできるだけけた。数発は腕にかすめたりしてしまったが、そこまで痛みはなかった。
 天獣から数歩という所で止まった硝介は、手のひらを前に向け、差し出した。
「こんなにケモノだとは思わなかったぜ。焼け死んで生まれ変われ!」
 その手から、火が生まれた。
 巨大な火の玉。
 熱が凝縮された球体。燃え広がらずに燃え続けるほどの。
 赤く、所々黄色く、白さを剥ぎ取るように、それは、天獣を飲み込んでいく。
「ぎっ…ギアァアアッ! ァ……ギ……ィ………」
 天獣は火を纏ってしまってから、数歩だけ歩いた。そして、倒れた。
 ウズヴォヴォヴォと独特な音を出すとその体は消え、天に昇るように消えた。同時に燃えるものがなくなり、火が消えた。だが辺りの木の葉なんかには燃え移っていた。
「危ない火はさよならだ」
 硝介がそう言って念じると、木の葉の火は消えた。
 その後方では、キレンが叫んだ。
「みんな! 保健室に! 淡出も手伝って!」
 硝介はキレンに駆け寄った。そして、
「誰か傷を治せる人、いないかな」
 といた。
「いるかもしれないけど、とりあえずは」
「そうだな……みんな!」
 手当ても視野に入れてきちんと連携できれば、もっとうまくやれるかもしれない。その実感が、硝介とキレンにはあった。そして、それさえできれば自分達なら大丈夫だと。
 ベージエラは遅れてけ付けたが、最後の方しか見ていない。そして、
「……この子達、やっぱり凄いわ。初めてであんな……」
 と、彼女は、ただただ心を震わせた。
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