アタエバネ ~恵力学園一年五組の異能者達~

弧川ふき

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天獣編

突然の発表や始まった調査と、更上磨土の力。それと佐田山柔の力。

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 北校舎屋上の天獣てんじゅうを倒せた余韻に、その夜、晴己はるきは自宅リビングにて浸っていた。
 そんな時、テレビのニュース番組が伝えた。
「天使の御子弥みこやブラウネラさんが会見を行なっております」

『天の世界から儀式の手違いで――』

 晴己は飲んでいた緑茶を噴き出した。
 映ってしゃべっているのは、担任ベージエラと同じくらいの歳の、若い女性。

『――という訳で、逃げた天獣が狙う物を守りながら戦う戦力を、用意しました。恵力けいりき学園の現在の一年五組の三十二名です。彼らは天から力を授けられていまして――』

「げほげほっ!」
 晴己は何度噴き出させるのかと恨んだ。
「え、そこまで大っぴらにしていいの? マジ?」
「これ、アンタのその力のこと?」
「う、うん、そうだよ」
 彼の母もそのことを知り、気にしているものの、心配などしていない。
 これからの生活は取材陣をも巻き込むかもしれない。晴己は世間体を気にした。

 そして翌日。
 朝、ホームルームにて、前日にベージエラが約束したように『あの確認』をすることとなった。
「みんなまず力をちょっとでいいから使ってみて。まあ維持はしてね、もの凄く小規模で。それで羽根の印が光り出すから、私はその光に違いがあるかをチェックします」
 皆、思い思いに、それぞれの力を使った。
 窓を開けて外に空気の類のものを放出した者もいた。
 五組の生徒の手首の外側の与羽根アタエバネのマークを、ベージエラはとにかく順に見て回った。
 最後の一人まで見たあと、ベージエラは教壇に立ち、皆に向け、目を見開いた。
「全然分からなかった」
「そういうこともあるよねー」
 ウィン・ダーミウスという少年のフォローのあとで、花肌はなはだキレンという少女が前の方の席から質問を飛ばした。
「分かる方法、誰かが知ってたりしないの?」
「一応、昨日のうちに天界に行って聞いてみたのよ。でも誰も」
「そっかぁ」
 というのは、質問者自身の声。残念感が強かった。
「また別の方法を考えておくけど、みんなも協力してね。じゃあ、最初の授業の準備をして」

 授業自体はあまり関係ないから割愛だ。
 中休みのあいだに晴己はるき正則ただのりはできるだけ聞いて回った――皆の能力を、そして使う時の感じなどを。メモもしていった。
 そんなこんなで昼休み。
 この時も皆に聞いて回った晴己と正則は、皆の羽根に刻まれたナンバーと能力のことだけはとりあえず把握した。
 最後に尋ねた相手のいた場所が中庭だったから晴己と正則はそこで――近くのベンチに腰掛けて話した。
「色も違わない……光る時のね。形も違わない。浮かんだ数字も余計なものは多分ない」
「もしかして見た目じゃ分からないんじゃないか?」
「そうなのかも……」
「お前、毛ぇサラサラだな。……髪は伸びねぇの? 力で」
「やってみたんだけど短いままなんだよね。僕、絶対長い方が似合うと思うんだ」
「俺の見立てで言うと……うん、確かにそうかもな」
「はは、信用度高いね」
 その時だ。
「うぁぎゃああああ!」
 東側の門付近から悲鳴が轟いた。
 晴己は走った。正則は遅れて走り出した。
 現場に到着した時には、そこに、更上さらがみ磨土まつち佐田山さたやまやわらの姿があった。周囲にはチラホラと通行人も。
 天獣《てんじゅう》が、門から、今戦っている磨土まつちやわらに向かって歩きながら、その辺のバケツやらを投げた。人へ飛んでいくものは、ほかにも、天獣自身の白い針のようなものもあった。
 その天獣は、すねや前腕に毛針のような物が大量に生えていた…そういう白い巨人だった。
 その針などの攻撃を――佐田山さたやまやわらの能力が、完全に無力化していた!
『物を軟らかくする』
 彼女は、自らが培ってきた体操の技術を用いて、誰かを助けられたらと思う反面、怪我を恐れた。自身が無傷であればと、そして守る対象共々無傷であるためには、着地ミスや回避の際に何かにぶつかってもいいようにと――守るためにその力を選んだ。
 その力は、周囲の者を完璧に守った。
 そして、更上さらがみ磨土まつち
『物を硬くする』
 彼女はその力によって、すぐそこの備品室からかっぱらってきたカーテンを長いまま鈍重どんじゅうな板のようにし、その形状を維持して持ったまま、にじり寄っていた。
 天獣の攻撃は、すべてがやわらかくされ、磨土は恐怖さえも感じていない。
 そこへ――あと数歩の所で、磨土まつちが――
「ふんぬあぁっ!」
 と、鈍重なカーテンという凶器で、くように殴り掛かった。
「ぎっ!」
 それの角が、刺すように天獣の頭に当たった。
 その時には、天獣の方が恐怖を感じていた。それが……数秒後の今は、磨土まつちの足元に。倒れてすぐ、奇妙な音を立てて消えた。
 遅れて駆け付けた正則とともに、晴己は、二人して身を震わせた。
(凄い……! 完璧な守りと、機転の利いた使い方! け付けてすぐでコレだ! すでに考えていたんだ、凄い……!)
 晴己はるきは、感動を全身で表した。
 更上さらがみ磨土まつちは歩いて佐田山さたやまやわらに近付いた。磨土の長い紫の髪が揺れる。
 後ろで一つに束ねた栗毛の髪の柔は、近付いてきた磨土と、挙手のようなポーズをし合うと、ニッと笑い、ハイタッチした。その様は、何かの遺跡によくある向かい合う天使の像のように美しかった。
 柔は粛々しゅくしゅくとしていた。磨土には、どことなく親方のような風格があった、技術部の性だ。
 それを見て、正則ただのりは、
「しびれるね」
 とつぶやいた。誰も聞いていないが、正則にとってそれはどうでもよかった。
 そんな磨土と柔の元へと、駆け寄る。
「今ので疲れは? どれくらい?」
 晴己は興味津々に聞いたのだった。
「まぁだ全然やれるぜ」
「そうね、私も」
 晴己は、また、尊敬の念で身を震わせたのだった。
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