豊饒の儀(仮題)

新居もえ子/EMA

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3腸内洗浄(※)

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四日目になると木の棒の大きさは成人男性の平均サイズと同じか幾分か小ぶりなものになっていた。
司祭がそれを選び取った後の長方形の盆の上には他にも、もっと太くて大きい物や、表面がごつごつした物、色柄が他とは違いマーブル状になっている物等がごろごろしており、偶々それを寝台上から目端に留めた『僕』はゴクリと喉を鳴らす。

物を体内に入れておく事にももう慣れた。今では入っていない時の方が何だか不自然な気がする。
入れておく時間も初日は一晩だけだったのが今では排泄時以外、取る事を許されていない。勝手な事をすればどうなるか…、お仕置きが待っている。
それに、拡張計画スケジュールが後ろ詰めになり、結局、後で辛い思いをするのは自分なのだという事も経験上『僕』は身を以て知っていた。

これから本番の儀式に向け、木の棒は大きさも形もどんどん様変わりしていく。形は明確に男性器を模したものに変わり―――もうこれは木の棒とは言えない。“張り型”だ―――サイズも太く大きくなっていく。

儀式やそれに付随する下準備に関しては到底納得しているとは言えないが、理不尽でも受け入れざるを得ない状況だった。
慣れた、というより、諦めている、の方が正しいだろう。

だが、そんな『僕』にも一つだけ、これだけはどうしても譲れない、慣れない、我慢できないと思う事があった。それは……、



     ◇     ◇

「……終わり?」

―――疲れた……。

もう指一本動かしたくない。

ぐったりとした体は全身水浴びでもしたかのように汗だくで、都度、世話係が汗を拭いたり、蒸しタオルで温めたりしてくれていたが、如何せん『僕』は元々体力が無く、加えて儀式中は便臭を抑える為、食事制限が設けられているため力が出ず、そんな『僕』の顔色はどうしたって悪くなる。

だが、その顔色の悪さは合否判定の結果に何ら影響を与えなかったらしい。

「申し訳ありません、まだもう少し汚れが……、もう一度お願いします」

無情な判定結果に『僕』の表情が引き攣った。

そして一言。

「無理」

「神子様…」


後はもうどんな猫撫で声で宥め賺されても、「出来ない」、「やりたくない」、「絶対にいやだ」の一点張りで、自分でも駄々っ子のようだと思うが、出来ないものは出来ないし、やりたくないものはやりたくないのだ。
それに、どうせ言ったって無駄なのだから、言うだけはタダだろう、という心境だった。

案の定、『僕』の頭上で彼らは無言で目配せし合うと、

「神子様、失礼します」

『僕』の前に陣取っていた力仕事担当の男神官が『僕』の体を抱き寄せるようにして背中に手を回す。

何をされるか察した『僕』は手足を振り回し、男の手から逃げようとするが、運動らしい運動など箱庭の散歩くらいしかしていない(させてもらえない)『僕』の抵抗など、たかが知れたもので、どんなに強く胸を叩こうと体を捩ろうと足で蹴っても細い割に筋肉質な男の体はびくともしない。逆に易々と抵抗を封じ込められてしまう。


「…っ!やめっ!やめろってばっ!離せっ!この、くそっ!」

抱き竦められた『僕』の体が持ち上がる。便座から僅かに浮いた尻と便座との間に何か・・の気配が近付いてきた。

「やだやだやだっ!」

『僕』は狙いを定めさすまいとして唯一動く下半身を右へ左へ振って拒絶の意を示すが、その動きが周囲の目にどれほど卑猥に映っているか『僕』は知らなかった。

男である事を疑いたくなるほど白く肌理細やかな肌に細くくびれた腰、その下に続くなだらかな曲線ラインと艶味を帯びた白桃が目の前でゆらゆらと揺れる。その様にどんなに敬虔な神官でも魅了されずにはいられない。

『僕』を抱き締める手に力が籠った。

「やあっ!痛っ!お願い!止めさせてっ!お願いだからっ…もう、止め、やあああぁぁっっ!!!」


だが、泣いても喚いても『僕』の願いは聞き入れられない。そして、いつまでたってもじっとしない腰を今度は左右から伸びてきた別々の手が捉え、そこをしっかり固定されてしまえば後はもう観念するしか無かった。

「神子様、ご容赦下さい」

「ひっ!」

尻の肉が左右に割られ、赤くぽってりと腫れた肛門が露わになる。
そこに驚くほどの早技で軟膏が塗り込められると、ぬめりと共に指の太さ程もある管が挿入ってきた。

やあっ!と叫ぶ声に艶が混じる。

そこは排泄器官であると共に『僕』にとっては既に性感帯であり、敏感な性器も同様の場所だった。

こんな事で、そんな場所で感じたくなど無い!そう思うのに『僕』の小ぶりなペニスはその刺激を快感と捉えたらしい。だが、それはまだ余裕があればこその話で。


じんわりと腹の中が温かくなってきた事でぬるま湯の注入が始まった事を知る。

くちくちと腹の中が満たされていく一方で『僕』の声はすすり泣きに、更には嗚咽へと変わっていった。

口から何か出てきそうな程張っていく腹。汗がじんわりと滲み、力の入らない肛門から湯が漏れ出て、柔らかな内腿に幾本もの筋を作る。その感触がまたお漏らしでもしているようで、情けなくて、惨めで…。また新たな涙が零れた。

「もう、駄目っ……苦しっ…」

「もう少しですよ」

励ましの声を掛けられるが、信じられない。その、もう少し、とは具体的にあとどれ位の量のことを指すのか、明確に教えて欲しかった。
それに、
―――だったら自分が耐えれば良いだろうっ……!

がくがくと震える膝は最早一人で立っている事も儘ならず、ぐにゃぐにゃの骨無し人間の態の『僕』の体を男神官は『僕』の背中を撫で摩りながら、相変わらず危なげ無いようすで支え続ける。

とくとくと服越しに聞こえる心音に僅かにだが強張っていた気分が解れた気がした。すると、今度は大人しくなった『僕』の元へと世話係の召使いたちがやって来て、甲斐甲斐しく世話を焼き始める。

冷えた体を蒸しタオルで温め、乱れる髪を整えられる。その手付きはまるで高価な美術品にでも触れるかのような繊細さで、表情は真剣そのものだった。

それに『僕』に付く彼、彼女らの手指は男女の別無くいつ見ても美しい。爪が切り揃えられているのは勿論のこと、肌荒れ一つ、ささくれ一つ無い。それが『僕』に触れる為の最低条件なのだと知ったのは一体いつの事だったか。


人形にしか見えなかった彼らがこの時ばかりは血の通った人間に見える。

もしかしたらそれは『僕』を手懐けようと画策する誰かの策略なのかも知れなかったが、そう疑いを抱いて尚、現状が辛ければ辛い程、人間・・である彼らに縋り付きたくなる、甘えたくなる。

彼らの事を信じて裏切られるのが怖いくせに、その優しさと温もりが嘘だとは『僕』は思いたくなかった。



「良いですよ」

管(チューブ)の代わりに尻栓(プラグ)が嵌め込まれ、それからまた地獄の苦しみを味わった後、ようやく『僕』に解放の時が訪れた。

「外します」と宣言した後、尻栓が外される。

と、同時に―――大きな破裂音が鳴った。

「………っ」

どんなに下腹に力を込めても止まらない。
怒涛の如く流れ落ちていく。その水音が収まるまで『僕』は耳目を塞ぎ、ただじっと時を数えて待つ事しか出来なかった。
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