WORLD CREATE

ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

文字の大きさ
上 下
188 / 231
第3章皇国編

第一部・網を敷く 2話

しおりを挟む
「止まれ!」

 アリシア達がトリスタンを出立した翌日。トリスタン東部にある分岐より東側へと進んでいたアッガス、マックス、レーベ、アラン、ふぐおの4人と1頭は、機械魔導連邦の中心地である国都へと進んでいた。
 その道中、機械魔導連邦の兵士らしき人々に呼び止められたアッガス達は、困惑した表情を浮かべながらも彼らの言う通りにその歩みを止めていた。
 片言で叫んだ兵士が、アッガス達の装いを品定めするかのように見ていく。

「・・・行け」

 誰かを探しているのだろう。少しすると、目的を果たせなかったのか、兵士が鼻を鳴らしながらアッガス達にそう告げた。

「なんか嫌な奴らだったな」

 兵士たちと別れてしばらく。不意にそう呟いたアッガスが後頭部へと手を回しながら口を尖らせた。
 すると、その彼の態度に賛同するようにマックス達が各々に感想を呟く。
 全員が不満気な言葉を口にしながら、既に刈り入れが終わり土が露出した畑の中を通る街道を進む。

(だが、あいつらの言動・・・誰かを探していることは間違いないんだが・・・)

 そんな中でただ一人、アッガスだけが先ほど対峙した兵士たちの言動を思い返しながら疑念を内心で呟いていた。
 まさか、リオか?
 直後、はっとしたように思いつく。だがそれが希望的観測であることは、彼自身がよく分かっていた。

(そんな都合の良いことがあるわけない。・・・だが、もしも本当だったら、どうする)

 小さな疑問から生まれた、小さな疑念。そして予感。
 それらを全て溜飲と共に記憶の隅へしまい込んだアッガスは、彼らが向かう目的地・機械魔導連邦国都への道中を進んでいく。
 その様子を、遥か後方、距離にして数キロは離れている位置から一人の老人が眺めていた。

(さて、こちらは気づいた者がいるようだな)

 姿の視認すら困難な距離で、老人がアッガスの心中を見抜いたように呟く。

(余計な輩には退場してもらう必要があるが・・・はたして彼はどこまで気づいたのか)

 すこし直接的に聞いてみるとするか。
 口元を歪める老人。直後彼の周囲に魔法陣が浮かび上がったかと思うと、気づいた頃には老人の姿は無かった。



 それから数日後。
 刈り入れが終わり、土が露出した畑に挟まれた街道を進んでいたアッガス達の元へ、向かい側から一人の老人が歩いてきた。
 既に色素が抜け白くなった老人の髪。それを隠すように羽織っている外套とフードは、旅人らしき佇まいを強調するように薄汚れていた。
 先頭を進んでいたアッガスがハンドサインを送り、街道の端に寄るように伝える。すると――

「そこの旅の方」

 しわがれた声と共に、向かい側から来た老人がアッガス達に声をかけた。

「実は探し人をしていてな、そこの少年より年下くらいの少年なのじゃが、見ておらんか?」

 急に声をかけてきた老人に驚くアッガスだったが、彼の佇まいが旅人のそれでないような感覚を覚え、警戒するように口を開いた。

「いや、俺たちは見てないな」

「そうか。――おお、そうだ。最近ここいらで大罪人がおるらしくての、わしもさっき兵士の方々から聞かれたんじゃ」

「大罪人、ね」

 老人の話を聞き、アッガスが考える素振りを見せる。

「そういうことじゃ。気を付けなされよ」

 そう言い残し立ち去る老人。そうして老人が充分な距離をとったことを確認すると、彼の隣で思案顔になっていたレーベに声をかけた。

「・・・レーベ、今の話、どう思う」

「普通に考えればあの人が罪人でしょうけど、それよりも気になったことが」

「お前もか」

「はい」

 アッガスの台詞に力強く頷くレーベ。
 だがマックスとアランは彼らの抱いていた不審点が分からないようで、二人の会話に首を傾げていた。

「レーベくん、どこがおかしいの?」

 頭をひねっても分からなかったのだろう。アランがレーベに縋るような視線を向けながら尋ねた。

「言葉だ」

「言葉?」

 レーベからの答えを聞き、アランが増々訳が分からないといった風に首を傾げる。
 そんなアランの姿をちょっと可愛いなと思いながら、レーベが説明を始める。

「何日か前に俺たちと会った兵士は最初この国の、機械魔導連邦での標準語で話していた」

「そういえば分からなかったかも」

「だろ?その後、向こうも言葉が通じないと分かったのかユースティアナ語に変えた。けど――」

「さっきの人、初めからわたしたちの分かる言葉で話していたってこと?」

 レーベの説明を聞き、アッガスとレーベが抱いた不審点の正体が分かったようで、アランが声を上げる。
 それを聞いたアッガスがレーベの説明を補完するように自身の推理を口にした。

「ここは俺たちの話す言語は外国語で扱われる。それなのに、わざわざ初めからその外国語を使ったのはいくら何でも怪しいって訳だ」

「なるほど。レーベくん、凄い!」

 冷静に推理を展開したアッガスに興奮したのか、それとも違和感にすぐに気づいたレーベに興奮したのか、それとも理由などないのか――
 いずれにしろ、アランがレーベへと抱き着いたことに変わりは無かった。

「あれ?俺も一応気づいていたんだけどな・・・まあ、別にいいけどよ」

 アランの評価がレーベにしか向いていないという状況に、思わず声を上げてしまうアッガス。
「扶桑鴉」の副リーダーである彼にとって、正直なところ評価はどうでもよかった。――だがそれでも、アッガスのアすら出てこなかったことはさすがに堪えたようだった。だが――

(まあ、付き合ってるんだから当然だわな)

 恋人同士だ、好きな相手が格好良ければアランの反応は別段おかしいものではないだろう。
 そう考えたアッガスの表情が、微笑ましく見守るものへと変化していく。
 すると、いつの間にか傍に来ていたマックスが尊敬するように呟いた。

「アッガス、すごいっすね」

「何がだ?」

「いや、大人だなと」

「そうか。なら、お前も十分に大人だろうに」

「そうすかね?」

「あれを見て微笑まし気に出来るんなら心に余裕はあるだろうさ」

「大人のハードル低いっすね」

「だな。・・・だが、俺たちは負けてるな」

「・・・う、頭が。でも、オレにはリオさんがいるんで!問題ないっす!・・・多分」

「お前、それは敗北宣言と同義だぞ」

 互いにラブラブな雰囲気の漂うレーベとアラン。
 その二人を見守りながら言葉を交わしていたアッガスとマックスは「年長者としての余裕」はあっても「恋人もしくは婚約者がいない」という現状にしばらく打ちのめされることになるのだが、それは別のお話。
しおりを挟む
ゾロ目やキリのいい数字は崩すもの、ということで感想・お気に入り登録、お願いします!好きなだけ感想とお気に入り登録お願いします♪良ければTwitterもやってますので、そちらもお願いします。更新情報などをいち早くお届け中です♪https://twitter.com/nukomaro_ryuryuアルファポリスでは他に「My Diary」を、小説家になろうで「種族・烏で進む自由な物見生活」を掲載中です!どちらも作者マイページから飛べますので、ぜひ!
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

【完結】婚活に疲れた救急医まだ見ぬ未来の嫁ちゃんを求めて異世界へ行く

川原源明
ファンタジー
 伊東誠明(いとうまさあき)35歳  都内の大学病院で救命救急センターで医師として働いていた。仕事は順風満帆だが、プライベートを満たすために始めた婚活も運命の女性を見つけることが出来ないまま5年の月日が流れた。  そんな時、久しぶりに命の恩人であり、医師としての師匠でもある秋津先生を見かけ「良い人を紹介してください」と伝えたが、良い答えは貰えなかった。  自分が居る救命救急センターの看護主任をしている萩原さんに相談してみてはと言われ、職場に戻った誠明はすぐに萩原さんに相談すると、仕事後によく当たるという占いに行くことになった。  終業後、萩原さんと共に占いの館を目指していると、萩原さんから不思議な事を聞いた。「何か深い悩みを抱えてない限りたどり着けないとい」という、不安な気持ちになりつつも、占いの館にたどり着いた。  占い師の老婆から、運命の相手は日本に居ないと告げられ、国際結婚!?とワクワクするような答えが返ってきた。色々旅支度をしたうえで、3日後再度占いの館に来るように指示された。  誠明は、どんな辺境の地に行っても困らないように、キャンプ道具などの道具から、食材、手術道具、薬等買える物をすべてそろえてた。  3日後占いの館を訪れると。占い師の老婆から思わぬことを言われた。国際結婚ではなく、異世界結婚だと判明し、行かなければ生涯独身が約束されると聞いて、迷わず行くという選択肢を取った。  異世界転移から始まる運命の嫁ちゃん探し、誠明は無事理想の嫁ちゃんを迎えることが出来るのか!?  異世界で、医師として活動しながら婚活する物語! 全90話+幕間予定 90話まで作成済み。

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、 婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、 話の流れから婚約を解消という話にまでなった。 ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、 絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

END-GAME ~第2章~【NEXT STORY】

孤高
ファンタジー
END-GAMEが完結し、第2章ということで、始まりました、引き続き読んでいただくと嬉しいです。{注意:END-GAME、日常生活編、をご覧でない方は、そちらの方を読んでからこちらの方を読んでいただくとより楽しめると思われます} 大変長らくお待たせしました。 まだまだ続くので、もしよろしければご覧ください。感想を聞きたいので!よかったらコメントおねがいします! 表紙は上がリル、下の左から花、集 あの世界から脱出した 脱出した後、不思議な同居をし始めた主人公【海道集】そしてその恋人【霧崎花】そしてめぐり合うその仲間、新しい旅へと再び足を運ぶ 主は腕を骨折し、少々投稿できない状態です

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

処理中です...