WORLD CREATE

ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

文字の大きさ
上 下
229 / 231
番外編シリーズ

第2章メルン編番外編1 アルベラの苦悩

しおりを挟む
 リオ達がメルンから戻るおよそ1か月前。
 エストラーダ皇国の王城。その2階にある第7王女アリシア・フォン・エストラーダの自室には、彼女を恋心を応援する自称「親衛隊」である近衛兵と「聖騎士団」数名の姿があった。
 その中の1人。近衛兵としては珍しい、女性でありながら近衛兵部隊の一小隊の隊長を担うアルベラは、目の前で起きている出来事にひどく頭を抱えていた。
 現在彼女の目の前では、自称「アリシア様親衛隊」と名乗る迷惑な近衛兵と「聖騎士団」の集まりから出来ている集団が、アリシアの口にした「庶民の生活を知りたい」という台詞に対する案を論議していたためであった。

(ああ、こんなむさ苦しいところよりも鍛錬を行いたいのに・・・)

 アルベラ・レッサー。近衛兵――いや、兵士としては珍しい女性でありながら、皇国王都防衛を任ぜられている近衛兵部隊の一小隊を率いる彼女は、アリシア親衛隊のいわば「幹部」クラスの人物である。ちなみに近衛兵は全員親衛隊に所属することが暗黙の了解として決まっており、その中でも彼女は数少ないアリシアに気に入られている人物でもあった。
 そんな彼女がここにいる理由は説明するまでもないだろう。だが彼女にとっては不本意の招集だった上に、彼女は現在目の前で行われている集会を「くだらないもの」として見ているらしく、溜息こそ吐かないが面倒そうな表情を浮かべていた。

「アルベラ殿、お願いします!」

 すると、不意に親衛隊の近衛兵が頭を下げる。

「あー、分かった分かった」

 対するアルベラは話を全く聞いておらず、その上確認すらせずに安請け合いをしてしまう。――それが一番面倒な仕事と知らずに。

「おお、さすがは我らが幹部!では、キノコ亭へのアポイントメント、よろしくお願いいたします!」

 だがそんな彼女の状態を知らずにそう口にする近衛兵。そしてそれを聞いたアルベラはというと――

「・・・は?」

 まるで汚物を見るかのような目をこの場にいる全員に向けたのだった。



 それから数日後。
 親衛隊の要望――もとい、第7王女であるアリシアの願いを叶えるためにキノコ亭を訪れたアルベラは、その店の前で大きな溜息を吐いていた。

(彼ら、アリシア様が何歳か分かって言っているのか・・・?)

 彼女の目の前に立っていた建物――それは王都北東部では有名な風俗店であった。なお、故意に王族を風俗店に向かわせるという行為は皇国では間違いなく不敬罪に当たる行為であり、それが女性であるアリシアであれば下手をすれば即刻死罪すらあり得る「王族への冒涜」に値する行為である。
 余談にはなるが、ここを推薦した兵士たちに王族を冒涜する意思はない。なぜなら、依頼した当の本人がそういった店を所望していたからである。
 だがいくら本人が希望したとはいえ、仮にも王族へ仕える身でこのような場所を王族に勧めるというのは、それだけで免職となってもおかしくない行為である。
 そういった背景もあったせいか、罰は下らなくとも忌避感が大きかったのだろう。アルベラは店内に入り店長を呼ぶように伝えると、自身がここまで来た事情を包み隠さず伝えた。

「王女様が。・・・ですが、それは・・・」

「ああ、それに関しては私も同感だ。・・・間違ってもアリシア様を変な輩に触れさせん」

 アルベラから事情を聞いた店長が言わんとしたことに同意するアルベラ。すると、店長の男性がある案を出した。

「それでしたら「視察」という名目でここに偶然立ち寄るという形にしては?」

「なるほど。それならアリシア様を上手く説得できます。そして書類上、偶然ここに立ち寄ったことにすれば「表向きには」処罰は下りませんからね、いい案です」

 店長の出した案に乗る姿勢を示すアルベラ。だがそんな彼女の表情を見て一瞬にして体が凍り付く感覚を覚える店主の男性。

「では、そのように伝えて後日お伺いさせていただきます」

 だが彼の心情を知らないアルベラは、そう言い残すとスキップをしそうな勢いで風俗店を後にしたのだった。



 それから数日が経ち、いよいよ「視察」という名目でアリシアが王都を見て回る日が訪れた。
 視察自体は順調に進んでいき、やがて王都北東部にある王都内でも貧民の人々が集まる、通称スラム街を視界に収めた頃――

「王女様、こちらから先は無法者が多い場所になります」

 先頭を歩いていた「聖騎士団」の兵士が、周囲の兵士に対する「警戒を厳にしろ」という命令と共にそう口にする。

「ええ。・・・ですが、そこらの悪漢くらいであればなんとかなりますわ」

 兵士の台詞に頷きながら力こぶを作ってみせるアリシア。だがその行動によって出来た力こぶは、少女らしい程度にしか盛り上がらず、兵士たちが静かに和んでしまう。

「アリシア様、何かあれば我らがお守りいたします。ですので、その際は逃げてください」

 そんな中で唯一、淡々と言葉を発するアルベラ。

「ええ、頼りにしていますわ」

 対するアリシアもアルベラに対して全幅の信頼を寄せているらしく、一切の迷いなくそう口にする。すると、そうこうしている内に目的地に着いたらしく、先頭を進んでいた兵士から声が上がる。

「――姫様、到着いたしました」

 その台詞と共に歩き出すアリシア。そんな彼女についていくのは、アリシアに直属の兵士となってほしいと告げられたアルベラを含む数名の兵士。

「ようこそお越しいただきました。当キノコ亭、誠心誠意――」

「そういうのはいいのです。――私がここへ来た目的は知っていると思います。すぐに準備を」

 口上を垂れる店長の男性に対して、早く目的を果たしたいアリシアが急かす文句を口にする。

「ははっ、ではすぐに準備いたします」

(よし、上手くいった)

 アリシアの台詞を聞いてすぐに準備していた部屋へと通す店長。しばらくすると、かなり際どい恰好をした従業員の女性から声をかけられる。

「準備が完了いたしました」

「そうか、ではすぐに向かう。――くれぐれもしくじるなよ」

 従業員から準備を終えた報告を聞いた店長が小さな声で注意を口にすると、アリシアにばれないように目線だけで了解した旨を伝える女性。

「それではこちらへ」

「では行きましょう、アリシア様」

 そうしてアリシアとアルベラに加え、1名の近衛兵が用意された部屋へと向かった。



 用意された部屋にアリシア達が入ってから約2時間後。

「・・・迂闊だった・・・」

 部屋に入った途端に見せつけられた逢瀬から始まった一連の行為に頭を悩ませていたアルベラは、同じ部屋の中にいた店長を睨みつけていた。

「・・・これが子を成す行為なのですか・・・?」

 そしてその行為を余すことなく見せつけられる結果となったアリシアが驚愕した表情を浮かべながら立ち尽くしていると――

「ええ、男女が子をなしゅにゅわーー!」

「貴様は黙れぇ!」

 アリシアの目撃してしまった行為を説明しようとした店長に対し、アルベラの鉄拳が撃ち込まれる。すると、そんな彼女に対して興味津々といった風にアリシアが口を開く。

「・・・そういえば、アルベラも子供がいると言っていましたわね。・・・夫とあのような行為を?」

「アリシア様、早くここを離れましょう。そして今見たことは忘れてください」

 対するアルベラは鉄の仮面を被ったかのようなポーカーフェイスでアリシアの手を引き、もう一人の近衛兵と共にすぐに部屋を後にする。

(絶対に親衛隊とやらを壊滅させてやる・・・)

 逢瀬の行われていた部屋から離れるたびに怒りが募っていったアルベラは、この出来事から数日後「親衛隊」の解散を宣言すると共に、一連の出来事に乗り気だった人物を物理的にも世間的にも容赦なく叩き潰したのだった。
しおりを挟む
ゾロ目やキリのいい数字は崩すもの、ということで感想・お気に入り登録、お願いします!好きなだけ感想とお気に入り登録お願いします♪良ければTwitterもやってますので、そちらもお願いします。更新情報などをいち早くお届け中です♪https://twitter.com/nukomaro_ryuryuアルファポリスでは他に「My Diary」を、小説家になろうで「種族・烏で進む自由な物見生活」を掲載中です!どちらも作者マイページから飛べますので、ぜひ!
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

辺境領主になった俺は、極上のスローライフを約束する~無限の現代知識チートで世界を塗り替える~

昼から山猫
ファンタジー
突然、交通事故で命を落とした俺は、気づけば剣と魔法が支配する異世界に転生していた。 前世で培った現代知識(チート)を武器に、しかも見知らぬ領地の弱小貴族として新たな人生をスタートすることに。 ところが、この世界には数々の危機や差別、さらに魔物の脅威が山積みだった。 俺は「もっと楽しく、もっと快適に暮らしたい!」という欲望丸出しのモチベーションで、片っ端から問題を解決していく。 領地改革はもちろん、出会う仲間たちの支援に恋愛にと、あっという間に忙しい毎日。 その中で、気づけば俺はこの世界にとって欠かせない存在になっていく。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話

天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。 その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。 ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。 10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。 *本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています *配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします *主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。 *主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

処理中です...