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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第1章終章編

1章終幕編 最終話

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 ミストにある一軒の宿屋。
 リオの義理の両親であるティアナとサミュエルが切り盛りするその宿屋の2階にある一室では、リオの血の繋がった父親であるハヤトが、リオの口にした台詞に対して難色を示していた。

「さっきも言ってた神様みたいなやつのことか?・・・でも、それを探すのはリオの役目でも何でもないだろう」

「・・・それはそうかもしれないけれど、もしもその神様のせいでお母さんが死んだのなら。もしもその神様のせいでメインの両親が殺されたのなら、僕は許せない」

 ハヤトに対して力強く口にするリオ。そしてリオの脳裏にはジンの口にしたある言葉があった。

「それから、ジンさんにこうも言われたんだ。生き残った人間にはやらなきゃいけないことがあるって。・・・きっと、僕がやらないといけないのはそういうことなんだと思う」

 ガレイでジンが口にした言葉をリオが口にする。だがそれを聞いたハヤトは、それでもリオに思い留まるように声をかける。

「なあ、リオ。生き残れたっていうことは、死んだ人の分まで生きなきゃいけないってことでもあるだろう?わざわざ危険に飛び込む必要もないはずだ。それに・・・リオまで失ったら、俺は――お父さんは誰を想って生きればいいんだ?」

 もはや懇願に思える台詞を口にしたハヤトに対し、リオは苦虫を噛み潰したような表情になる。リオもハヤトが口にした事は既に理解しており、その上での決断だったのだが、唯一リオが忘れていたことがあった。――それは「残された者の気持ち」である。
 5歳の時に嫌というほど味わったその思いをなぜ忘れていたんだろう、と疑問に思うリオ。だが、それを思い出したことでよりリオの決意は固まったようで、自分の思いをまっすぐにハヤトに伝える。

「お父さん、僕は、僕やメインみたいに誰かに家族を亡くしてほしくないんだ。・・・だから、僕は――」

「リオ、それ以上は言わないでくれ。・・・リオの気持ちはよく分かった」

 リオの台詞を途中で遮るハヤト。そして自身の荷物の中から布に包まれた何かを取り出すと、リオに手渡す。

「開けてみな。・・・きっと、リオのやりたいことに助けになるはずだから」

 ハヤトから布に包まれた何かを受け取ったリオが、受け取ったものに対して既視感を抱く。それは、5歳の時にハヤトとミサトからユリの花の彫刻が施された短剣を渡された時と全く同じだったからだ。

「・・・短剣だ。しかも、鳥が彫られてる・・・」

 あの日と同じように布をめくり、中身を見たリオが鞘へと彫られた彫刻を見て呟く。

「鷲だ。実は、俺が好きな鳥なんだ。・・・昔、旅先で偶然見つけてな、リオが冒険者になるときにミサトと一緒に渡そうと思っていたんだ」

 まあ、もうそれは叶わないけどな――
 そう口にしたハヤトの表情は、どこか物憂げであり、何かを悟ったかのような表情だった。
 そんなハヤトの姿を見ていることしかできなかったリオに、ハヤトが声をかける。

「リオ、1つ約束だ」

「何?」

 ハヤトの台詞に首を傾げるリオ。その姿を見たハヤトは、一度大きく深呼吸をすると――

「必ずまたここに戻ってくること。いいな?」

 右手を差し出す。それを「指切り」の合図と受け取ったリオは、ハヤトの手を両手で握りしめる。

「うん。必ず、絶対に帰ってくるよ。お父さんも絶対に戻ってきて」

「ああ、わかった」

 リオに右手を握られたままの状態で答えるハヤト。そうして親子の時間は過ぎていったのだった。



 その翌日。かねてからの予定通り、ミストを発つことにしたリオは、ミストで出来うる限りの準備を進める為に、ある露店を訪れていた。

「おや、そこにいるキミ!いつだったか来た「大鷲の翼」の人達と一緒にいた娘かな?」

 リオが訪れた露店。それは、ミサトもエレナも訪れた例の女性店主の経営する露店だった。実はミストに居た頃に一度アッガスやミリーと共に訪れており、どうやら店主の女性はリオの顔を覚えていたようであった。

「久しぶりだね、今日は「大鷲の翼」の人達はいないのかな?」

 どうやら女性は以前リオと会った時に意気投合したらしく、普段の畏まった雰囲気からは想像できないほどに砕けた声となる。

「うん、今日は僕1人だよ。・・・それで、この子に適当な武器を持たせたいんだけど・・・」

 そう口にしながらリオが自身の背後に立つメインに視線を向ける。

「ほう、彼女に可愛いものを買ってあげたいと。いやー、妹にプレゼントだなんて、できたお姉ちゃんだねぇ」

 すると、リオの視線を辿り、一部話を聞いていない様子の女性がメインを見ながらそう口にする。だが「妹にプレゼント」までは問題なかったのだが、その後の台詞はリオの地雷を踏み抜いたようで――

「・・・前も言ったけど、僕、男だからね?」

 と冷たく言われてしまう。それは以前、王都にてレーベの試験官として出会ったアイゼンに向けたものと全く変わらなかった。
 それに対して女性は豪快な笑い声を上げると「そういえばそうだったね」と口にする。

「で、欲しいのは武器だっけ?残念だけど、うちじゃそんな物騒なものは扱ってないよ」

「え、そうなの?・・・でも、お父さんにここで身を守るものは買えるって」

 そう口にしたリオに対して、彼女も思い当たる節があったのだろう、目を空中に泳がせながら「あ~。あの人の子供だったの」と口にする。
 すると、店主の女性は傍らに積んである箱の中からそこらへんに落ちていそうな棒を取り出す。

「そうだね、うちで取り扱ってるのはこの木の棒くらいだよ。・・・でも、あのお客さんの子供なら価値が分かるかな?」

 そう言いながらリオに木の棒を渡す女性。

「・・・ただの木の棒だよね?」

 女性から渡された木の棒を見たリオがそう呟く。すると、女性は再度笑い声を上げた。

「だーはっは。残念、これはとても強力な魔法が封じられた木の棒なんだよ」

 リオの台詞を聞いた女性が笑い声を上げると共にそう口にする。それを聞いたリオが項垂れると――

「――ということは無く、ただの木の棒だよ。さすがはあのお客さんの娘だね」

 と口にする。――再度娘と間違えて。

「やっぱりただの木の棒なんじゃん!」

 それに対してツッコむリオ。だが、娘と呼ばれたことは女性が取り出した物がただの木の棒であったインパクトにかき消されてしまったようで、リオの耳には届いていない様子だった。

「それから、僕は男だよ!」

 ――否、しっかりと耳に届いていたようだった。
 2回に分けてツッコミを入れたリオに対し、店主の女性は笑い声を上げながら、傍らにある箱から別の木の棒を取り出す。
 少し歪だが、そこらへんに落ちている木の棒よりは円柱形状になっている、直径5センチ、長さ50センチほどの木の棒を女性はリオに差し出す。

「・・・こっちが本命なんだね・・・」

 女性から木の棒を受け取ったリオは、その形状を見てそう零す。なぜなら、リオに渡された木の棒には、わずかながら耐久強化系のエンチャントが施されていたからである。

「・・・これじゃあすぐに折れちゃうよ」

 木の棒に施されたエンチャントを見てそう口にするリオ。だが女性は、まるで悪だくみを思いついた子供のような表情を浮かべる。

「知ってる?ただの木の棒でも、このくらいの太さだとそう簡単には折れないんだよ」

 不満そうなリオに対して、無邪気な子供のような顔になりながらそう口にする女性。
 実際に木材はある程度しなることもあって、直径3センチほどでも折るにはそれなりに力がいる。
 その上リオが手にしている木の棒には、弱いとはいえ耐久強化系のエンチャントまで付いたものである。それこそ人の腕力で折ることは不可能に近く、切断するにはよほど鋭利な刃物で切断するか、鋸(のこぎり)で切断するしかないほどの強度がある。

「・・・じゃあ、試してみてもいい?」

 簡単には折れないという女性に対してそう口にするリオ。すると女性は折れるとは思っていないのだろう、挑戦的なリオの台詞に対して「構わないよ。まあ、折れはしないだろうけどね」と口にする。

「じゃ、遠慮なく」

 そう口にしたリオが木の棒の両端を持って力を籠める。すると、わずか直径5センチとは思えない音を立てながら真っ二つになっていく木の棒。そして、その光景を見た女性が戦慄した上に絶句したのは言うまでもないだろう。

「・・・確かに結構硬かったけど、このくらいだったら・・・・・・あれ?」

 感想を口にしたリオが、目の前で口をあんぐりと開けたまま固まる女性を目にし、不思議そうな声を上げると、そこでリオはハッとする。

(そうだ、忘れてた。この力は普通じゃないんだった)

 だが時既に遅し。真っ二つになった木の棒を持ちながら、リオはどうしようかと考え始める。すると女性は、ピクリとも動かない状態から不意に動き出し――

「うちの商品ーー!」

 そう叫んだのだった。



 その翌日。
 あの後商品を折ってしまったことを謝ったリオに対して「いや、気にしないで、こっちも悪かったから」と口にした女性に、お詫びの意味も込めて適当なものを購入したリオは、メイン、ふぐおと共にミストを旅立っていた。
 ミストを発つ彼らを見送ったのは、ハヤト、ティアナ、サミュエル、エレナの4人に加え、どこからかリオがミストにいることを嗅ぎつけた元ユリアナ村の住民数名、それから昨日リオによって商品を破壊された女性であった。――ちなみに、リオは再度女性に謝り何をしたのかとハヤトたちに詰め寄られたのは余談である。
 そうしてミストを発ってから半日。既にミストが見えなくなった位置まで歩いてきたリオ達を見守る存在があった。

「2個目の峠は越したか。・・・この後はメルンだな」

 上空でも地下からでもない、全く別の場所。いわば「神の世界」ともいうべき場所からリオ達の動向を窺っていた存在が、目の前にあるモニターに流れていた映像を見ながら呟いていた。

「だが、何やら邪魔をしてくる存在がいたのは困る。私たちの計画を彼らに知られては困るのだがな」

 映像を何度も見返してきたその存在は、ジンが1度死んだ時。さらにはリオの持つ短剣が発揮した不思議な力。そして、ユリアナ村のあった森で起きた出来事に対して不満そうに呟く。
 それらが及ぼす悪影響を直前で無きものにしていたその存在は、それを引き起こした張本人であろう存在に声をかける。

「クイーン、余計な事はするな。下手に外部の力が加われば望む世界は作れない」

「あら、余計な事とは心外ね、キング。・・・それよりも、そちらの準備は終わっているのかしら?」

 キング、と呼ばれた存在がいる部屋の片隅から見守っていた存在が尋ねる。

「無論、次の峠は次の闘いだ。――戦争は文明を発展させるからな」

「あっそう。・・・世界を創るために戦争を起こそうなんて、そんなことを考えるのはあんただけだよ、このイカレ学者」

 キング、と呼んだ存在に対して吐き捨てるクイーン。そうしてキングが自身のいる部屋からクイーンが退室したことを確認すると、再度モニターへと視線を戻す。

「これで邪魔な存在を消すためのピースは揃った。――あとはポーンを消し、上手くいくことを祈るのみだ」

 そう口にしたキング――管理者かみは、その口元を歪めたのだった。――そうして彼は、刻々と変わっていく世界を監視し続けていく。自らの欲望せかいを創るために。
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