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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第1章終章編

1章終幕編 4話

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 その日の夕方。
 ミストにある飲食店が繁盛する時間――ディナータイムへと突入した頃、ティアナが経営する宿屋にはリオ達の姿があった。

「それで、誰に会わせてくれるの?」

 今日の夕方に会わせたい人がいる――リオが宿屋でティアナから告げられた言葉通りに宿屋にいたリオは、宿屋の受付であるカウンターで帳簿に記入しているティアナへと声をかける。

「それはお楽しみよ。きっと驚くわ」

 尋ねてきたリオに対して、まるで悪戯を思いついた子供のような瞳を向けるティアナ。
 そんな彼女に対し、怪訝そうな視線を向けるリオ。すると、不意に宿屋の扉が開いた。

「いらっしゃいませー」

 ティアナが宿屋へとやってきた冒険者らしき3人組へと声をかける。

「宿を取りたいんだが、個人部屋で3部屋は用意できるか?」

「すみません、今は2人部屋しか空いてないんです。どうしても1人でってことなら、いくらか料金は負けますけど」

「そうなのか。・・・どうする?」

 空き部屋の状況を聞いた男性が、後ろに控える男性2人に声をかける。

「負けてくれるっていうし、2人部屋を3部屋でいいんじゃないか」

「だが、ここもそんなに大きくないし、2部屋で妥協するべきじゃないか?」

 男性の後方に控えていた2人は正反対な意見を口にする。そしてそれを聞いた男性が口を開く。

「・・・2人部屋を2つ。俺はさっきの宿に泊まるから、明日中央の広場で集合にするぞ」

 男性の台詞を聞いた男性2人が頷く。どうやら彼らには、どうしても分かれて眠りたい理由があるらしく、男性はそう告げた後に1人だけで宿屋を後にする。
 そうして男性が宿屋から出ていくと入れ替わりに、別の冒険者らしき男性が宿屋へと入ってくる。
 と、次の瞬間。別の宿屋へと向かった男性と入れ替わりで入ってきた男性を見た途端、リオが驚いた声を上げた。

「お父さん!」

 リオの視界に収まった人物――暗灰色アッシュグレイの髪に、冒険者らしい厳つい顔立ちをしたその男性は、リオの声に反応すると辺りを見回す。
 対するリオは男性の元まで歩いていくと、30代後半くらいの男性の顔を見上げる。

「久しぶり、お父さん!」

「・・・リオ、か?リオなのか・・・?」

 目の前にやってきたリオの姿を見た男性は、今にも消え去りそうな声を上げるとリオを力強く抱きしめる。

「よかった、無事で・・・」

「ハヤトさん「大鷲の翼」が一緒だから大丈夫って言ったじゃないですか」

 嗚咽交じりに声を上げる男性。そんな彼に対してティアナが声をかける。
 だが男性――ハヤトにはその声は届いていなかったようで、彼はリオを伴って1階フロアの空いている席へと向かう。

「――それで、今までどこにいたんだ?」

 席へとリオが着いたことを確認すると同時にハヤトが切り出す。

「最後に居たのは、ガレイっていう町。今日ミストに着いたばかりなんだ」

「ガレイっていうと、3ヶ月か4ヶ月くらい前に魔物に襲われたっていう町か。・・・まさかとは思うが、その頃から居たりはしてないよな?」

 リオが最後に訪れた町の名前を聞いたハヤトはそう尋ねる。
 彼としては首を横に振ってくれる未来を望んでいたのだろう。だがそれに対してリオが静かに頷くと、複雑そうな表情を浮かべると同時に無事に生きていたことを喜ぶ。

「そうか、凄惨な戦いだったと聞いたから、無事でよかった」

「・・・うん」

 父親の口から出てきた言葉に、攻防戦の時のことを思い出したのだろう、リオが目を伏せながら頷く。
 その姿に何かあったことを察したハヤトが席から立ち上がり、リオの頭に手を乗せると口を開く。

「リオ。ガレイであったことは忘れるんじゃないぞ」

「うん」

 ハヤトの台詞にリオが頷くと、その姿を見たハヤトがエレナとメインを手招きする。
 それに応じたエレナは、向かい合って座るリオとハヤトに隣に座るように勧めると、メインをリオの隣へと座らせる。

「・・・さて、と。それで2人は?」

 そうして席に着いたエレナとメインを見ながらリオに尋ねるハヤト。
 一応エレナとハヤトは義姉と義弟の関係でもあるのだが、実は2人は初対面である。その理由はミサトとハヤトが結婚した時期が、エレナが「大鷲の翼」の一員として他国にいた時期であった為である。
 そして、当時ミサトとエレナの仲があまり良くなかったこと。それからハヤトが冒険者ということもあり、結局今まで顔を会わせることが無かったのである。

「エレナさんとメイン。エレナさんはお母さんのお姉さんで、メインは一緒に王都に行く途中なんだ」

「ミサトの・・・。ということは「義理の姉」ということになるのか」

 そう口にしながらエレナの顔を見るハヤト。そんな彼に対してエレナは複雑そうな表情を浮かべる。

「・・・もうミサトは死んでいるから「元」といったところかしらね」

「元、か。・・・本当にミサトは死んでしまったんだな・・・」

 エレナの台詞に肩を落とすハヤト。おそらく、心のどこかではミサトが生きていると信じていたのだろう。

「私もそう聞いただけよ。・・・でも、その瞬間をリオ君が見たらしいから、事実でしょうね・・・残念だけど」

 ハヤトの台詞に対してそう口にするエレナ。そんな彼女の瞳が少しだけ悲し気に輝く。
 その直後、ハヤトが話題を変えるようにメインの方を見ながら口を開く。

「それで、この子は?さっき王都に一緒に向かっているって言ってたが」

「・・・実はガレイでの戦いのときに出会ったんだけど、メインのお父さんとお母さんは魔物に殺されたみたいで」

 そう口にしてから、ガレイであったことについて話をしていくリオ。やがて話を聞き終えたハヤトが口を開く。

「・・・そうか、そんなことが。・・・それで王都の郊外に住んでいる親戚の元に一緒に行く訳か」

 ハヤトの台詞に頷くリオとメイン。そんな2人に対して、ハヤトが残念そうな声を上げる。

「そうか、俺も一緒に行ってやりたいが・・・」

 そこまで口にしたハヤトだったが、次第に声が小さくなっていった。そんなハヤトに対してエレナが尋ねる。

「何か行けない理由でもあるのかしら?」

「ああ、実は依頼を受けていてな、しばらくミストから離れられないんだ」

 尋ねられたハヤトがそう答え、依頼の内容を簡単に説明していく。
 彼が受けていた依頼とは、ミストに常駐する兵士たちの支援であり、万が一の際には義勇兵として戦闘に参加する、というものであった。――要は、臨時雇いの警備員といったところである。
 そして、こういった依頼が出てきた理由は、間違いなくガレイが魔物に襲われたからだろう。

「3ヶ月は依頼のせいで離れられないんだ。・・・リオ、ごめんな」

 依頼の期間を口にしたハヤトは、最後にリオの方を向いてそう口にする。

「ううん、元々2人で王都まで行くつもりだったから。・・・お父さんと旅が出来ないのは少し残念だけど・・・」

 首を振りながらそう答えたリオ。すると、リオの隣に座っていたメインが不意に口を開く。

「お兄ちゃん、おじさんがこっちを見てるよ?」

「え?」

 急に口を開いたメインが、厨房の方からリオ達の姿を見守るサミュエルを指さす。すると、指を指してきたメインに気づいたのか、サミュエルが何かを手にリオ達の元までやってきた。

「皆さん、夕食でもどうぞ」

 そう口にしながら、手にした何か――宿屋で夕食として出している定食をリオとハヤトの前に置く。すると、サミュエルの背後にいたのだろう、リオがまだミストで生活していた時に従業員として雇われた少年がエレナとメインの元に定食を置く。
 そうして4人に夕食を出した2人は静かに厨房へと戻っていく。

「・・・食べてもいいの?」

 目の前に出てきた食事を前に、メインがリオの方を窺う。対するリオがどうするべきか迷っていると――

「メインちゃん、食べていいわよ。これはおばさん達からのプレゼントだから」

 そう言いながら、リオの背後から急にティアナが姿を現す。すると、それを聞いたメインが目の前にある夕食を口に運び始める。

「ほら、ハヤトさんもお姉ちゃんもリオも。早く食べないと冷めちゃうよ」

 食べ始めたメインを見ながら残る3人を急かすティアナ。そうして3人も遠慮気味に夕食に手をつけ始める。

「それでは、ごゆっくり」

 全員が夕食に手を付け始めたことを確認したティアナは、そう言い残しその場を去ったのだった。
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