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第1章ガレイ編
第三部・「大鷲の翼」 8話
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「ミリーー!!」
地面に横たわる、原形をとどめ切れていない人間の姿を見て叫ぶジン。彼と一番長い年月を共に過ごしてきた、家族同然の女性は今、彼の目の前で無残な死を遂げてしまった。
「これから死ぬ者のためにわざわざ死ぬとは・・・実に滑稽だ」
地面に横たわるミリーを見ながら嘲笑うように口を開く悪魔。その悪魔の台詞がジンをどんな状態にしたかは言うまでもないだろう。
「てんめえぇぇぇー!」
直後、悪魔へと肉薄するジン。その表情は今まで――いや、ジン本人ですら感じた事が無いほどの怒りという感情と共に、目尻から涙が零れていた。
《俊閃の女王》の運営する教育機関から救い出してから約20年。その間正に家族のように過ごしてきた女性を失ったジンの受けた痛みはどれほどだっただろうか。――その答えは、ジンの行動が全て物語っていることだろう。
「次はあなたですか・・・。まあいい、順番が少し狂ったとだけ考えましょう」
激高したジンに対してうんざりした表情を浮かべた悪魔は、手にしていた大剣を2本の片手剣へと変化させるとジンと正面から打ち合う。
(・・・!?なんだ、この男?先ほどまでよりも数段重い・・・?)
ジンと正面から打ち合う悪魔。だがジンの感情任せの攻撃に対して少なくない戸惑いを覚え始める。
(このままでは打ち負けますね。ならば)
感情に任せたジンの攻撃を止めるために、悪魔が一旦距離を取るべく後退する。それと同時に、悪魔はジンの背後へと漏斗を展開していく。
「ジンさん、後ろ!」
その光景を見たリオがジンに注意するように声を上げる。だがジンの耳には入っておらず、後退する悪魔を追い続けていた。
次の瞬間、漏斗の砲門へと魔力が集約していく。と同時に、ジンの大剣が悪魔目掛けて振るわれた。
ジンの振るった大剣を防ぐために、後退しながら障壁を展開する悪魔。だがジンの大剣が障壁を破壊、そのまま悪魔へと迫っていく。
「な・・・!?」
その光景を見て驚いた声を上げる悪魔。それと同時に直撃は避けられないと悟ると、体をわずかに横へずらした。
次の瞬間、悪魔の左腕を切断するジン。と同時に放たれた漏斗からの魔力弾は、ジンの攻撃が悪魔に直撃したためか明後日の方向へと砲門が向き、直後に発射される。だが、その内の一門だけが偶然にも未だにジンの方を指向しており――
その漏斗から放たれた魔力弾がジンの右足を撃ち抜いた。
「ジンさん!」
大剣を振るった勢いのまま地面へと倒れていくジン。その直後、悪魔がジンに向けて右手に持つ片手剣を振り下ろそうとする。だがその攻撃は、間に割り込んだレーベによって防がれたのだった。
その直後、反撃を恐れた様子の悪魔が距離をとると、地面に倒れたジンの元へと駆け寄るリオ。
「すまん、レーベ、リオ」
2人の少年が自分のそばにいることを確認したジンがそう口にする。するとエレナと共に後退したはずの傭兵たちが再度姿を現す。
「おじさん達、ジンさんをお願いしていい?」
再度姿を現した「白虎」の傭兵たちに対して今度はジンを後退させてほしいとお願いするリオ。それを聞いた彼らは迷うことなくジンに肩を貸すと、エミリー、アレックスの2人を残して再度後退していく。
「・・・なんでおっさんだけ消えるんだよ」
傭兵としては珍しい女性2人を残して去っていったギレイとデーンの後ろ姿を見ながら呟くレーベ。
彼らの元に2人が残ったのは、単に2人が生き残っている「白虎」4人の中では最も戦力になるからであり、さらに後方への撤退路がマイセフ率いるガレイ駐屯隊第一小隊によって確保されたからなのだが、それを知らないレーベには「女性だけ残してそそくさと逃げていく卑怯者」に見えていたのであった。
「下がるのに護衛が必要なくなったのよ、坊や」
「ぼ・・・!?」
妖艶な声でレーベに声をかけるアレックス。対するレーベは「坊や」と呼ばれたことに不満げな表情になる。
「あー、気にせんで?この子、昔っからこうやけん」
そんなレーベに対して気さくな雰囲気で話しかけるエミリーは、西日本側の様々な方言が混ざっており、エセ関西弁に聞こえそうだった。
そんな2人は、見た目はアレックスの方が年上に見えるのだが、、実年齢はエミリーの方が一回り以上年上という、ある意味「デコボココンビ」な2人は、皇国では珍しい得物である刀を手に悪魔と対峙しようとする。
だがそんな2人にリオが声をかけた。
「おばさん達、どいてて。多分、2人がいても足手まといだから」
リオの口にした「おばさん」という言葉に反応しそうになった2人だったが、その後に続いたリオの言葉に対して口を開く。
「あらぁ?これでも私達、ブイブイ言わせてるのよ?」
「ブイブイはよう分からんけど、結構やる方なんで?あんたらの足は引っ張らんと思うよ?」
リオの「足手まとい」という言葉に対して遺憾そうな声を上げる2人。だがリオは2人を無視して悪魔へと駆け出していく。
「あ、ちょい!・・・行ってしもうたけど、僕は追いかけんでいいん?」
何も言わず駆け出したリオに声をかけるエミリーだったが、すぐにリオが悪魔と戦闘を始めると、リオの隣に立っていたレーベへと声をかける。
「あー、はい。多分、俺でも足手まといなんで・・・」
「仲間でも自覚するてどういう娘なん・・・?」
「リオとまともにやりあえるのは、それこそ魔人とかの類ですよ」
「・・・すごい娘やな」
レーベの言葉に戦慄に近い感覚を覚えるエミリー。その光景を黙って見ていたアレックスもエミリーと同様の感想を抱いていたようで、驚いた表情を浮かべていた。――エミリーの口にした、ただ1つの間違いを除いて、だが。
「それでも黙って見とるわけにもいかんやろ、すぐに追いかけんと」
そうしてエミリーたちがリオに続いていったのは、それからちょうど1分後のことだった。
悪魔の元へと駆けていくリオに対し、悪魔が漏斗に加え自立式障壁を向かわせる。
直後、銃撃の乱れ飛ぶ戦場となったその場所を、リオは迷うことなく駆けていき、悪魔へと1本になった短剣を振るう。
対する悪魔は数歩後退してリオの攻撃を回避、直後に残った右手に握る片手剣をリオに向けて振るうと、リオは防壁を展開して防御。と共にバックステップを踏むと、リオが立っていた位置に魔力弾が降りそそぎ地面を穿っていく。
バックステップを踏んだリオは留まることなくサイドステップを踏む。
「これも避けますか」
悪魔から感嘆するような声が上がる。それを聞き流したリオは、サイドステップを踏んだ先でも留まることなく、今度は悪魔の懐へ向かって地面を蹴る。
直後ぶつかり合う両者の得物。金属音が響くとほぼ同時にリオは地面を蹴ると、悪魔の背後へと着地、そのまま悪魔の背後から攻撃を加えようとしたが、上空に漏斗の姿を確認したためそのまま前方に転がっていく。それを追いかけるように地面へと着弾する魔力弾。
「・・・これでも駄目なんだね」
2メートルほど地面を転がって移動したリオが悪魔の方を見ながらそう口にする。対する悪魔は鬱陶しそうな表情を浮かべながらも少しだけ楽し気に口を開いた。
「実に鬱陶しい。・・・ですが、楽しめていることも事実ですね。ここまでやりあえる人間はあの男以来でしょうか」
「あの男?」
リオの問いに対して、鬱陶しそうな表情とは裏腹に、口調のように興奮している様子の悪魔が饒舌に語り始める。
「ええ。にっくきあの男。あの男がいなければすでにこの世界は終わっていたのです。それなのに、あの御方は我らを消すためにあの男をこの世界に生まれさせた。――いや、調整したという方が正しいのでしょうね。そうしなければあの御方の崇高なる目的は達成できないのでしょう」
まるで何かに浸るようにどんどんと言葉を口にする悪魔。怒りや不満を口にしている悪魔だが、なぜかその表情は喜ばし気にほころんでいた。
恨み辛みを口にしながらもどこか嬉しそうな悪魔に今更ながらに忌避感を抱くリオ。だが悪魔はそんなことは関係なしに語り続ける。
「だがあの御方の目的が達成された暁には私も消える。そしてこの偽りの世界も終わる。――そう、これは我らへの試練。この試練を乗り越えれば――」
「言ってることはよく分かんないけど、消えたいんなら1人で静かにやってよ」
いつまでも話し続ける悪魔に対してリオが苛ついたようにそう口にすると、悪魔の脇を駆け抜けミリーの死体の元まで駆ける。そして地面に落ちていたミリーの短剣を拾い上げると、今度は悪魔へと肉薄していく。
対する悪魔も残る右手に握る片手剣を構え、リオを正面から迎え撃とうとする。
「・・・君は私を飽きさせることがありませんね」
「僕はもう飽き飽きしてるよ」
喜々とした様子の悪魔に対してうんざりしたように口を開いたリオ。その直後に両者の得物がぶつかり合い鍔迫り合いとなる。だが次の瞬間、リオへと指向した漏斗から魔力弾が放たれる。
漏斗から撃ち出された魔力弾を間一髪のところでバックステップを踏み回避するリオ。その動きを見た悪魔がリオに接近、片手剣を横薙ぎに振るう。
再度ぶつかり合う両者の得物。その直後再度リオの元へ魔力弾が降りそそぐ。
(あれをなんとかしないと・・・)
再度魔力弾を回避するリオ。と同時に漏斗へ向けて魔法を行使、魔力で出来た風の刃で漏斗を攻撃するが、その攻撃は漏斗の正面に展開された自立式の障壁によって防がれてしまう。
(・・・そうだった、あれもあるんだ)
魔法を防いだ障壁を見てその存在を思い出すリオ。先ほどから悪魔が防御に使用していなかったために失念していたようだった。
リオが放った魔法が防がれた直後、悪魔が自身の周辺に氷塊を出現させリオへと撃ち出す。対するリオはその氷塊を回避しながら直撃弾のみ短剣で打ち払っていく。
(このままだとこっちが負ける。でも魔力も残り少ないし・・・)
悪魔の攻撃を防ぎながら現状を整理していくリオ。そんな彼を仕留めるために悪魔は得物を振るった剣跡から電撃を繰り出す。
(今の・・・!一か八かだけど、試してみる価値はあるかも)
悪魔の放った電撃を回避しながら両手に握る短剣へと魔力を注いでいくリオ。そして短剣を悪魔に向けて振るうと同時に剣跡が輝き、そこから魔力弾が撃ち出される。
(上手くいった!)
剣跡から放たれた魔力弾がまっすぐに悪魔へと向かって行く。対する悪魔は驚いた表情を浮かべながらサイドステップを踏んで回避する。
「・・・下手なことをするとこちらが不利になりそうですね」
自身の攻撃をすぐに真似されたという事実に警戒する悪魔。と同時に、短期決戦という思考が出てきたらしく、悪魔の方からリオへと肉薄していく。
急に攻勢に出た悪魔に対し、一瞬反応が遅れるリオ。直後、リオの心臓目掛けて悪魔の獲物が突き出される。
「《防護壁》」
回避が間に合わないと感じたリオは瞬時に防壁を展開し悪魔の攻撃を防ぐ。それと同時に後退すると得物を構え直す。
対する悪魔は後退したリオへ向けて追撃を加えるべく再度接近、今度は魔力弾による牽制を混ぜながら自身は魔力となってリオの後方へと瞬間移動する。
(後ろ・・・!?)
視界から悪魔が消えた瞬間を目撃したリオは、それとほぼ同時に右側へと転がる。リオが迷いなくその行動をとれたのは、フジミや魔人達が魔力となって移動できることを知らなければ回避できなかっただろう。
その証拠に、リオが地面を転がった直後、リオが立っていた場所を悪魔の得物と魔力弾が通過していった。
(・・・あれ、使えるかも)
悪魔の動きを見ながら悪魔のした瞬間移動を再現できないか脳内でシュミレートするリオ。そうしてミリーから学んだ暗殺術を活かせるのではという可能性に行き着く。
(問題はその程度じゃあいつは倒せないことだよね。・・・さっきジンさんはどうやって悪魔の障壁を破壊したんだろう?)
先ほどジンが悪魔の障壁を破壊したことを思い出すリオ。それと同時に今すぐジンに聞きたい衝動に駆られるが、既にジンは後方へと護送された後だった。
「リオ!」
思考を続けていたリオに対し、遅れて駆け付けたレーベが声をかける。
「レーベ。とおばさん達」
「おばさんちゃうわ!さっきもこれ言い損ねたな・・・じゃのうて、うちはエミリーや!おばさんちゃうんよ?」
「私はアレックス。せめて「お姉さん」って呼んでほしかったなぁ?」
レーベと共に来た2人にも声をかけたリオに対し、その声をかけられた本人であるエミリーとアレックスがそれぞれリオに対してそう口にする。
だがリオは2人の台詞を気にすることなく、悪魔を警戒したままレーベに声をかける。
「レーベ、2人を下がらせて。さっきまでとは違うみたいだから」
「知ってる。だが、下がるわけにはいかねえだろ。グレンの時のや昨日の奴とは違うんだぜ?」
リオの台詞に対して、得物を構えながらそう口にするレーベ。だがリオはレーベのその台詞に何かを閃いたようで――
「・・・ごめん、ここは下がって。お願い」
リオが普段よりも数段低いトーンでそう口にする。その姿を見たレーベは不満そうな表情を浮かべながら、さらに声を上げる。
「わかったよ。その方が良いんだな?」
「うん。これ以上誰も死なせないためにも」
それを聞いたレーベは、リオの言葉に従ってエミリーらと共に少し後方へと移動して行った。
地面に横たわる、原形をとどめ切れていない人間の姿を見て叫ぶジン。彼と一番長い年月を共に過ごしてきた、家族同然の女性は今、彼の目の前で無残な死を遂げてしまった。
「これから死ぬ者のためにわざわざ死ぬとは・・・実に滑稽だ」
地面に横たわるミリーを見ながら嘲笑うように口を開く悪魔。その悪魔の台詞がジンをどんな状態にしたかは言うまでもないだろう。
「てんめえぇぇぇー!」
直後、悪魔へと肉薄するジン。その表情は今まで――いや、ジン本人ですら感じた事が無いほどの怒りという感情と共に、目尻から涙が零れていた。
《俊閃の女王》の運営する教育機関から救い出してから約20年。その間正に家族のように過ごしてきた女性を失ったジンの受けた痛みはどれほどだっただろうか。――その答えは、ジンの行動が全て物語っていることだろう。
「次はあなたですか・・・。まあいい、順番が少し狂ったとだけ考えましょう」
激高したジンに対してうんざりした表情を浮かべた悪魔は、手にしていた大剣を2本の片手剣へと変化させるとジンと正面から打ち合う。
(・・・!?なんだ、この男?先ほどまでよりも数段重い・・・?)
ジンと正面から打ち合う悪魔。だがジンの感情任せの攻撃に対して少なくない戸惑いを覚え始める。
(このままでは打ち負けますね。ならば)
感情に任せたジンの攻撃を止めるために、悪魔が一旦距離を取るべく後退する。それと同時に、悪魔はジンの背後へと漏斗を展開していく。
「ジンさん、後ろ!」
その光景を見たリオがジンに注意するように声を上げる。だがジンの耳には入っておらず、後退する悪魔を追い続けていた。
次の瞬間、漏斗の砲門へと魔力が集約していく。と同時に、ジンの大剣が悪魔目掛けて振るわれた。
ジンの振るった大剣を防ぐために、後退しながら障壁を展開する悪魔。だがジンの大剣が障壁を破壊、そのまま悪魔へと迫っていく。
「な・・・!?」
その光景を見て驚いた声を上げる悪魔。それと同時に直撃は避けられないと悟ると、体をわずかに横へずらした。
次の瞬間、悪魔の左腕を切断するジン。と同時に放たれた漏斗からの魔力弾は、ジンの攻撃が悪魔に直撃したためか明後日の方向へと砲門が向き、直後に発射される。だが、その内の一門だけが偶然にも未だにジンの方を指向しており――
その漏斗から放たれた魔力弾がジンの右足を撃ち抜いた。
「ジンさん!」
大剣を振るった勢いのまま地面へと倒れていくジン。その直後、悪魔がジンに向けて右手に持つ片手剣を振り下ろそうとする。だがその攻撃は、間に割り込んだレーベによって防がれたのだった。
その直後、反撃を恐れた様子の悪魔が距離をとると、地面に倒れたジンの元へと駆け寄るリオ。
「すまん、レーベ、リオ」
2人の少年が自分のそばにいることを確認したジンがそう口にする。するとエレナと共に後退したはずの傭兵たちが再度姿を現す。
「おじさん達、ジンさんをお願いしていい?」
再度姿を現した「白虎」の傭兵たちに対して今度はジンを後退させてほしいとお願いするリオ。それを聞いた彼らは迷うことなくジンに肩を貸すと、エミリー、アレックスの2人を残して再度後退していく。
「・・・なんでおっさんだけ消えるんだよ」
傭兵としては珍しい女性2人を残して去っていったギレイとデーンの後ろ姿を見ながら呟くレーベ。
彼らの元に2人が残ったのは、単に2人が生き残っている「白虎」4人の中では最も戦力になるからであり、さらに後方への撤退路がマイセフ率いるガレイ駐屯隊第一小隊によって確保されたからなのだが、それを知らないレーベには「女性だけ残してそそくさと逃げていく卑怯者」に見えていたのであった。
「下がるのに護衛が必要なくなったのよ、坊や」
「ぼ・・・!?」
妖艶な声でレーベに声をかけるアレックス。対するレーベは「坊や」と呼ばれたことに不満げな表情になる。
「あー、気にせんで?この子、昔っからこうやけん」
そんなレーベに対して気さくな雰囲気で話しかけるエミリーは、西日本側の様々な方言が混ざっており、エセ関西弁に聞こえそうだった。
そんな2人は、見た目はアレックスの方が年上に見えるのだが、、実年齢はエミリーの方が一回り以上年上という、ある意味「デコボココンビ」な2人は、皇国では珍しい得物である刀を手に悪魔と対峙しようとする。
だがそんな2人にリオが声をかけた。
「おばさん達、どいてて。多分、2人がいても足手まといだから」
リオの口にした「おばさん」という言葉に反応しそうになった2人だったが、その後に続いたリオの言葉に対して口を開く。
「あらぁ?これでも私達、ブイブイ言わせてるのよ?」
「ブイブイはよう分からんけど、結構やる方なんで?あんたらの足は引っ張らんと思うよ?」
リオの「足手まとい」という言葉に対して遺憾そうな声を上げる2人。だがリオは2人を無視して悪魔へと駆け出していく。
「あ、ちょい!・・・行ってしもうたけど、僕は追いかけんでいいん?」
何も言わず駆け出したリオに声をかけるエミリーだったが、すぐにリオが悪魔と戦闘を始めると、リオの隣に立っていたレーベへと声をかける。
「あー、はい。多分、俺でも足手まといなんで・・・」
「仲間でも自覚するてどういう娘なん・・・?」
「リオとまともにやりあえるのは、それこそ魔人とかの類ですよ」
「・・・すごい娘やな」
レーベの言葉に戦慄に近い感覚を覚えるエミリー。その光景を黙って見ていたアレックスもエミリーと同様の感想を抱いていたようで、驚いた表情を浮かべていた。――エミリーの口にした、ただ1つの間違いを除いて、だが。
「それでも黙って見とるわけにもいかんやろ、すぐに追いかけんと」
そうしてエミリーたちがリオに続いていったのは、それからちょうど1分後のことだった。
悪魔の元へと駆けていくリオに対し、悪魔が漏斗に加え自立式障壁を向かわせる。
直後、銃撃の乱れ飛ぶ戦場となったその場所を、リオは迷うことなく駆けていき、悪魔へと1本になった短剣を振るう。
対する悪魔は数歩後退してリオの攻撃を回避、直後に残った右手に握る片手剣をリオに向けて振るうと、リオは防壁を展開して防御。と共にバックステップを踏むと、リオが立っていた位置に魔力弾が降りそそぎ地面を穿っていく。
バックステップを踏んだリオは留まることなくサイドステップを踏む。
「これも避けますか」
悪魔から感嘆するような声が上がる。それを聞き流したリオは、サイドステップを踏んだ先でも留まることなく、今度は悪魔の懐へ向かって地面を蹴る。
直後ぶつかり合う両者の得物。金属音が響くとほぼ同時にリオは地面を蹴ると、悪魔の背後へと着地、そのまま悪魔の背後から攻撃を加えようとしたが、上空に漏斗の姿を確認したためそのまま前方に転がっていく。それを追いかけるように地面へと着弾する魔力弾。
「・・・これでも駄目なんだね」
2メートルほど地面を転がって移動したリオが悪魔の方を見ながらそう口にする。対する悪魔は鬱陶しそうな表情を浮かべながらも少しだけ楽し気に口を開いた。
「実に鬱陶しい。・・・ですが、楽しめていることも事実ですね。ここまでやりあえる人間はあの男以来でしょうか」
「あの男?」
リオの問いに対して、鬱陶しそうな表情とは裏腹に、口調のように興奮している様子の悪魔が饒舌に語り始める。
「ええ。にっくきあの男。あの男がいなければすでにこの世界は終わっていたのです。それなのに、あの御方は我らを消すためにあの男をこの世界に生まれさせた。――いや、調整したという方が正しいのでしょうね。そうしなければあの御方の崇高なる目的は達成できないのでしょう」
まるで何かに浸るようにどんどんと言葉を口にする悪魔。怒りや不満を口にしている悪魔だが、なぜかその表情は喜ばし気にほころんでいた。
恨み辛みを口にしながらもどこか嬉しそうな悪魔に今更ながらに忌避感を抱くリオ。だが悪魔はそんなことは関係なしに語り続ける。
「だがあの御方の目的が達成された暁には私も消える。そしてこの偽りの世界も終わる。――そう、これは我らへの試練。この試練を乗り越えれば――」
「言ってることはよく分かんないけど、消えたいんなら1人で静かにやってよ」
いつまでも話し続ける悪魔に対してリオが苛ついたようにそう口にすると、悪魔の脇を駆け抜けミリーの死体の元まで駆ける。そして地面に落ちていたミリーの短剣を拾い上げると、今度は悪魔へと肉薄していく。
対する悪魔も残る右手に握る片手剣を構え、リオを正面から迎え撃とうとする。
「・・・君は私を飽きさせることがありませんね」
「僕はもう飽き飽きしてるよ」
喜々とした様子の悪魔に対してうんざりしたように口を開いたリオ。その直後に両者の得物がぶつかり合い鍔迫り合いとなる。だが次の瞬間、リオへと指向した漏斗から魔力弾が放たれる。
漏斗から撃ち出された魔力弾を間一髪のところでバックステップを踏み回避するリオ。その動きを見た悪魔がリオに接近、片手剣を横薙ぎに振るう。
再度ぶつかり合う両者の得物。その直後再度リオの元へ魔力弾が降りそそぐ。
(あれをなんとかしないと・・・)
再度魔力弾を回避するリオ。と同時に漏斗へ向けて魔法を行使、魔力で出来た風の刃で漏斗を攻撃するが、その攻撃は漏斗の正面に展開された自立式の障壁によって防がれてしまう。
(・・・そうだった、あれもあるんだ)
魔法を防いだ障壁を見てその存在を思い出すリオ。先ほどから悪魔が防御に使用していなかったために失念していたようだった。
リオが放った魔法が防がれた直後、悪魔が自身の周辺に氷塊を出現させリオへと撃ち出す。対するリオはその氷塊を回避しながら直撃弾のみ短剣で打ち払っていく。
(このままだとこっちが負ける。でも魔力も残り少ないし・・・)
悪魔の攻撃を防ぎながら現状を整理していくリオ。そんな彼を仕留めるために悪魔は得物を振るった剣跡から電撃を繰り出す。
(今の・・・!一か八かだけど、試してみる価値はあるかも)
悪魔の放った電撃を回避しながら両手に握る短剣へと魔力を注いでいくリオ。そして短剣を悪魔に向けて振るうと同時に剣跡が輝き、そこから魔力弾が撃ち出される。
(上手くいった!)
剣跡から放たれた魔力弾がまっすぐに悪魔へと向かって行く。対する悪魔は驚いた表情を浮かべながらサイドステップを踏んで回避する。
「・・・下手なことをするとこちらが不利になりそうですね」
自身の攻撃をすぐに真似されたという事実に警戒する悪魔。と同時に、短期決戦という思考が出てきたらしく、悪魔の方からリオへと肉薄していく。
急に攻勢に出た悪魔に対し、一瞬反応が遅れるリオ。直後、リオの心臓目掛けて悪魔の獲物が突き出される。
「《防護壁》」
回避が間に合わないと感じたリオは瞬時に防壁を展開し悪魔の攻撃を防ぐ。それと同時に後退すると得物を構え直す。
対する悪魔は後退したリオへ向けて追撃を加えるべく再度接近、今度は魔力弾による牽制を混ぜながら自身は魔力となってリオの後方へと瞬間移動する。
(後ろ・・・!?)
視界から悪魔が消えた瞬間を目撃したリオは、それとほぼ同時に右側へと転がる。リオが迷いなくその行動をとれたのは、フジミや魔人達が魔力となって移動できることを知らなければ回避できなかっただろう。
その証拠に、リオが地面を転がった直後、リオが立っていた場所を悪魔の得物と魔力弾が通過していった。
(・・・あれ、使えるかも)
悪魔の動きを見ながら悪魔のした瞬間移動を再現できないか脳内でシュミレートするリオ。そうしてミリーから学んだ暗殺術を活かせるのではという可能性に行き着く。
(問題はその程度じゃあいつは倒せないことだよね。・・・さっきジンさんはどうやって悪魔の障壁を破壊したんだろう?)
先ほどジンが悪魔の障壁を破壊したことを思い出すリオ。それと同時に今すぐジンに聞きたい衝動に駆られるが、既にジンは後方へと護送された後だった。
「リオ!」
思考を続けていたリオに対し、遅れて駆け付けたレーベが声をかける。
「レーベ。とおばさん達」
「おばさんちゃうわ!さっきもこれ言い損ねたな・・・じゃのうて、うちはエミリーや!おばさんちゃうんよ?」
「私はアレックス。せめて「お姉さん」って呼んでほしかったなぁ?」
レーベと共に来た2人にも声をかけたリオに対し、その声をかけられた本人であるエミリーとアレックスがそれぞれリオに対してそう口にする。
だがリオは2人の台詞を気にすることなく、悪魔を警戒したままレーベに声をかける。
「レーベ、2人を下がらせて。さっきまでとは違うみたいだから」
「知ってる。だが、下がるわけにはいかねえだろ。グレンの時のや昨日の奴とは違うんだぜ?」
リオの台詞に対して、得物を構えながらそう口にするレーベ。だがリオはレーベのその台詞に何かを閃いたようで――
「・・・ごめん、ここは下がって。お願い」
リオが普段よりも数段低いトーンでそう口にする。その姿を見たレーベは不満そうな表情を浮かべながら、さらに声を上げる。
「わかったよ。その方が良いんだな?」
「うん。これ以上誰も死なせないためにも」
それを聞いたレーベは、リオの言葉に従ってエミリーらと共に少し後方へと移動して行った。
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ゾロ目やキリのいい数字は崩すもの、ということで感想・お気に入り登録、お願いします!好きなだけ感想とお気に入り登録お願いします♪良ければTwitterもやってますので、そちらもお願いします。更新情報などをいち早くお届け中です♪https://twitter.com/nukomaro_ryuryuアルファポリスでは他に「My Diary」を、小説家になろうで「種族・烏で進む自由な物見生活」を掲載中です!どちらも作者マイページから飛べますので、ぜひ!
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