63 / 231
第1章ガレイ編
第二部・攻防戦 3話
しおりを挟む
それから少し。ジンとクロウの2人は、突如として始まった彼らの競争に巻き込まれた4人と共に迫りくる魔物たちを蹂躙していた。
久しぶりに好敵手と呼べる存在が出てきたことに興奮していたのか、初めチーム戦として始まった両者の競争だが、気づけばジンとクロウの2人によるタイマン勝負と化していた。
「わー、なんだか楽しそうだね・・・」
「ええ。でも、なぜか後でジンを折檻しなきゃいけない気がするわ・・・」
その光景を見ながら呟いたのが、エレナとミリーの2人。彼女たちが見ていたのは、明らかに羽目を外したジンの姿とそのジンについて行くクロウの姿であった。
(こいつ、思ったよりもやるな)
隣で魔物を屠るクロウの姿を見ながら、内心で呟くジン。そんなクロウは、得物である長剣を的確に魔物たちの急所へと突き刺しながらジンの方をちらりと見る。
(挑発ってとこか。たまには乗るのもいい、最近は暴れることもなかったからな)
3年前、オーガスが依頼中に死亡して以来戦闘系の依頼を受けることがめっきり減っていた「大鷲の翼」は、その武勇を振るう機会はほとんどなかった。
おそらくジンは3年経った今でもオーガスの死を引きずっており、意識のどこかで避けるようにしているのだろう。
ジンはクロウに視線を返すと、ギアを一段階上げ、先ほどまでの倍近い速度で魔物を屠っていく。対するクロウも、負けじと付近の魔物たちを殲滅していく。
彼らが得物を一閃するごとに空を舞う魔物たち。
「ねえ、おじさんたち。・・・僕らここに居る意味ってあるのかな?」
一閃ごとに空中へ跳ね上がり霧散していく魔物たちを見ながら、リオがクロウと共に来た傭兵・ペルトに声をかける。
ちなみにジンとクロウが2人で無双しているため、現在彼らは手持無沙汰――もとい、さぼっている最中だった。
「・・・さあな。だが、そろそろ2人を止めねえと、そちらさんの魔法使いが怒り狂いそうだぜ?」
「え?」
世間的に「大鷲の翼」での認知されている魔法使いと言えばエレナのみである。そのことをペルトに指摘され、思わず振り返るリオとレーベ。
するとそこには、彼の言った通り、今にもジンとクロウを再起不能にしてしまいそうな雰囲気のエレナの姿があった。
その姿を見て慌てるリオとレーベ。すぐにジン達の元へ向かうと、2人を強制的に後退させる。
「おじさん、下がって!じゃないと大変なことになる」
「ジンさん、エレナさんが!」
慌てふためく2人を見て、初めは訝しがる2人だったが、突然背後から殺気を感じ思わず振り返る。そうして彼らが見たものとは――
「そこの脳みそ筋肉2人。すぐに冷静になるか、冷や水をぶっかけられるか選びなさい」
頭上に2メートルはあるであろう巨大な氷塊をいくつも浮かべたエレナの姿。冷や水と言いながら氷塊を掲げる彼女の表情は、般若そのものだった。
彼女の表情と言動を見て即座に撤退するジン達。そんな彼らを食らい尽くそうと魔物たちが迫るが――
「消えなさい!」
エレナの台詞と同時に放たれた氷塊たちが、中央の戦場に残っていた魔物たちの内、50体近くを消し去った。
――余談だが、一連の彼女の行動を見ていた「白虎」の3人はその日の夜、仲間たちにこの出来事を話し「「大鷲の翼」で一番怒らせてはならないのはエレナ」という共通認識を持たせるまでに至ったのだった。なお、彼らが撤退した後にジンが折檻を受けていたこともその認識を加速させる一因となったことも記しておく。
その数分後。左翼の戦場からも歓声が上がり、各戦場から魔物たちが撤退していった。
ガレイ攻防戦の初戦、1日目の昼前に始まった戦いは、こうしてわずか1時間ほどでガレイ側の勝利に終わったのだった。
初戦を勝利で収めたガレイ駐屯隊と冒険者・傭兵たちは、最低限の見張りを残し、少し遅めの昼食をとっていた。
そんな中リオ達が西門側にある商業施設の片隅で食事をとっていると――
「おう、ジン。さっきは凄かったな」
傭兵集団「白虎」のリーダー・クロウが数名の部下たちと共に、彼らの元を訪ねてくる。
「ははは・・・できれば忘れてくれ」
何やら遠い目をしたジンが口を開く。そんな彼の隣ではエレナが刺し殺すような視線をジンとクロウへ向け「また余計なことを始めるなら容赦しないわよ」と脅しているように見える。
そんな彼女の視線を感じ押し黙るジンとクロウ。すると、不意にクロウの背後から1人の少女が姿を現し、リオへ一直線に抱き着く。
「お兄ちゃん達、大丈夫だった?」
クロウらの背後から現れた少女は、茜色の髪を揺らしながらリオの胸元へ顔をうずめると、その桃色の瞳をリオの顔へ向ける。
「大丈夫だよ、メイン。・・・ほら、ふぐおとフジミも」
リオが少女の名前を呼び、ふぐおとフジミを手招きする。
「熊さん!ねえ、また触ってもいい?」
ふぐおの姿を見たメインは跳ねるようにリオから離れると、リオの許可を待つことなくふぐおの体へその身をうずめる。
そんな少女を見て苦笑いを浮かべるリオ。急に体をまさぐられたふぐおは、困った視線を周囲に向け、フジミは不機嫌そうに口を尖らせる。
「俺様は呼ばねえのかよ」
ぼそりと呟いたフジミへ、メインが今気づいたように声をかける。
「あ、こわいひと」
「誰が怖い奴か!」
「そういうところだと思うよ」
こわいひと、と言われたフジミが鬼のような形相で少女へ食ってかかるが、リオに指摘され静かになる。だが少しすると、開き直ったように口を開いた。
「は、俺様は魔人だ。怖がられてなんぼの存在なのだ!だから気にしてねえ!いいな!?」
(((めちゃくちゃ気にしてる・・・)))
その台詞を聞いて内心でほぼ同時にそう思うリオ達。そして、当のフジミの方はなぜか胸を反らしているのだから、どことなく可哀そうな子感が出てしまっているのは否めなかった。
そしてフジミの台詞を聞いたメインとクロウ達の反応はというと――
「てことは、お前が昨日北門で大暴れしてやがった野郎か!いやー、あん時は助かったぜ」
「まじん・・・?なんだかかっこいいね」
さほど驚いた様子もなくフジミの発言を受け入れていた。――いや、メインの場合は魔人という存在をよく分かっていないという方が正しいだろう。
そんなメインに、リオが簡単に魔人について説明すると――
「悪者から正義の味方になったの?」
と、子供らしい解釈が返ってくる。人間の敵が人間の味方をするということは、月並みな解釈ではあるが、それが一番わかりやすいだろう。――言い方を変えれば同胞への裏切りでもあるのだが。
「えーっと、まあ、そんなところかな」
本当はリオとフジミの間に色々とあったのだが、ひとまずそこは省くことにしたリオ。そこで、ふと浮かんだ疑問をリオが口にする。
「でも、魔人って魔物たちの親玉みたいなものだけど、メインは憎くないの?」
彼女にとってフジミは家族を殺した魔物の同類である。それにも関わらずフジミに気を許しているのは、フジミ自身が彼女の両親探しを手伝ったからなのか、それともリオの仲間だからなのか。はたまたその両方か――
メインはリオの質問に対し、すぐに首を振り答える。
「全然。こわいひとはメインを助けてくれたもん」
そう口にしたメインの表情は、屈託のない眩しいまでの笑顔だった。
それからしばらく。メインやクロウ達も交え昼食をとったリオ達は、西門を望む範囲で自由行動をとっていた。
ジン、ミリーは久しぶりに2人で昔話をするらしく、町の中央へ。アッガスは1人西門の兵士たちのもとへ。エレナはレーベとフジミを連れ「白虎」のクロウらと交流をしていた。
そして残るリオとふぐおはというと、数日ぶりにふぐおのブラッシングをしていた。地面に横たわり、完全にリラックスしている様子のふぐおは今にも眠ってしまいそうなほどに目をトロンとさせていた。
「熊さん、気持ちよさそう」
リオがブラッシングをする様子を眺めていたメインが呟き、リオの方へちらりと視線を送る。その視線に気づいたリオは「やってみる?」と声をかけると、手にしていた櫛を差し出す。
「うん!」
勢いよく返事をすると、櫛を受け取ったメインが見よう見まねでブラッシングを始める。だが上手くいかないようで、何度も毛が櫛に引っかかるのか強引に引っ張ったりしており、そのたびにふぐおの体がビクンと跳ね上がる。
「あ、あれ?動かなくなっちゃった」
そんな無茶を繰り返したせいか、やがて完全に動かなくなる櫛。と、次の瞬間。メインが櫛を思いっきり引っ張った。
「えい!!」
「フッッ!?ギュウウウウウゥゥオ!!??」
次の瞬間、ふぐおのものとは思えない悲鳴のような絶叫が響き渡る。少し離れた位置で2人を見守っていたリオも、その突然の鳴き声に弾かれた様に2人の元へ向かう。そして――
「・・・・・・」
目の前にあった光景に絶句するリオ。彼の視界に入ったのは、一部が10円ハゲのように見事になくなったふぐおの漆黒のような黒い体。それと、痛みのせいで涙目なふぐおの困り果てた視線と、メインの血の気の引いた真っ青な顔だった。
おそらく、ふぐおも相手が相手だけに怒ることもできず、メインの方も状況が状況だけにどうしたらいいのか分からないのだろう。
「ふぐお、大丈夫?・・・って、これじゃあ大丈夫じゃないよね」
リオの台詞に、涙目のまま頷くふぐお。軽くリオがふぐおの禿げた部分を見るが、しばらくはこのままだろうと思ったリオは、メインに声をかける。
「メイン、ひとまずふぐおに謝ろう?」
リオの台詞にこくこくと頷くメイン。まだその表情は真っ青なままだが、ふぐおの前に立つと深々と頭を下げて謝る。
対するふぐおは自身の毛が絡まったままの櫛を恨めしそうに見るが、一声鳴くと軽い力でメインの頭を小突く。おそらくそれは、「今度からは気を付けろよ」というふぐおの言葉なのだろう。その証拠に、ふぐおの顔は涙目ながらも怒っている様子は一切なかった。
「熊さん、ごめんなさい」
最後にもう一度謝るメイン。そんな彼女に対しふぐおは特に気にした様子もなくブラッシングの続きを要求したのだった。
久しぶりに好敵手と呼べる存在が出てきたことに興奮していたのか、初めチーム戦として始まった両者の競争だが、気づけばジンとクロウの2人によるタイマン勝負と化していた。
「わー、なんだか楽しそうだね・・・」
「ええ。でも、なぜか後でジンを折檻しなきゃいけない気がするわ・・・」
その光景を見ながら呟いたのが、エレナとミリーの2人。彼女たちが見ていたのは、明らかに羽目を外したジンの姿とそのジンについて行くクロウの姿であった。
(こいつ、思ったよりもやるな)
隣で魔物を屠るクロウの姿を見ながら、内心で呟くジン。そんなクロウは、得物である長剣を的確に魔物たちの急所へと突き刺しながらジンの方をちらりと見る。
(挑発ってとこか。たまには乗るのもいい、最近は暴れることもなかったからな)
3年前、オーガスが依頼中に死亡して以来戦闘系の依頼を受けることがめっきり減っていた「大鷲の翼」は、その武勇を振るう機会はほとんどなかった。
おそらくジンは3年経った今でもオーガスの死を引きずっており、意識のどこかで避けるようにしているのだろう。
ジンはクロウに視線を返すと、ギアを一段階上げ、先ほどまでの倍近い速度で魔物を屠っていく。対するクロウも、負けじと付近の魔物たちを殲滅していく。
彼らが得物を一閃するごとに空を舞う魔物たち。
「ねえ、おじさんたち。・・・僕らここに居る意味ってあるのかな?」
一閃ごとに空中へ跳ね上がり霧散していく魔物たちを見ながら、リオがクロウと共に来た傭兵・ペルトに声をかける。
ちなみにジンとクロウが2人で無双しているため、現在彼らは手持無沙汰――もとい、さぼっている最中だった。
「・・・さあな。だが、そろそろ2人を止めねえと、そちらさんの魔法使いが怒り狂いそうだぜ?」
「え?」
世間的に「大鷲の翼」での認知されている魔法使いと言えばエレナのみである。そのことをペルトに指摘され、思わず振り返るリオとレーベ。
するとそこには、彼の言った通り、今にもジンとクロウを再起不能にしてしまいそうな雰囲気のエレナの姿があった。
その姿を見て慌てるリオとレーベ。すぐにジン達の元へ向かうと、2人を強制的に後退させる。
「おじさん、下がって!じゃないと大変なことになる」
「ジンさん、エレナさんが!」
慌てふためく2人を見て、初めは訝しがる2人だったが、突然背後から殺気を感じ思わず振り返る。そうして彼らが見たものとは――
「そこの脳みそ筋肉2人。すぐに冷静になるか、冷や水をぶっかけられるか選びなさい」
頭上に2メートルはあるであろう巨大な氷塊をいくつも浮かべたエレナの姿。冷や水と言いながら氷塊を掲げる彼女の表情は、般若そのものだった。
彼女の表情と言動を見て即座に撤退するジン達。そんな彼らを食らい尽くそうと魔物たちが迫るが――
「消えなさい!」
エレナの台詞と同時に放たれた氷塊たちが、中央の戦場に残っていた魔物たちの内、50体近くを消し去った。
――余談だが、一連の彼女の行動を見ていた「白虎」の3人はその日の夜、仲間たちにこの出来事を話し「「大鷲の翼」で一番怒らせてはならないのはエレナ」という共通認識を持たせるまでに至ったのだった。なお、彼らが撤退した後にジンが折檻を受けていたこともその認識を加速させる一因となったことも記しておく。
その数分後。左翼の戦場からも歓声が上がり、各戦場から魔物たちが撤退していった。
ガレイ攻防戦の初戦、1日目の昼前に始まった戦いは、こうしてわずか1時間ほどでガレイ側の勝利に終わったのだった。
初戦を勝利で収めたガレイ駐屯隊と冒険者・傭兵たちは、最低限の見張りを残し、少し遅めの昼食をとっていた。
そんな中リオ達が西門側にある商業施設の片隅で食事をとっていると――
「おう、ジン。さっきは凄かったな」
傭兵集団「白虎」のリーダー・クロウが数名の部下たちと共に、彼らの元を訪ねてくる。
「ははは・・・できれば忘れてくれ」
何やら遠い目をしたジンが口を開く。そんな彼の隣ではエレナが刺し殺すような視線をジンとクロウへ向け「また余計なことを始めるなら容赦しないわよ」と脅しているように見える。
そんな彼女の視線を感じ押し黙るジンとクロウ。すると、不意にクロウの背後から1人の少女が姿を現し、リオへ一直線に抱き着く。
「お兄ちゃん達、大丈夫だった?」
クロウらの背後から現れた少女は、茜色の髪を揺らしながらリオの胸元へ顔をうずめると、その桃色の瞳をリオの顔へ向ける。
「大丈夫だよ、メイン。・・・ほら、ふぐおとフジミも」
リオが少女の名前を呼び、ふぐおとフジミを手招きする。
「熊さん!ねえ、また触ってもいい?」
ふぐおの姿を見たメインは跳ねるようにリオから離れると、リオの許可を待つことなくふぐおの体へその身をうずめる。
そんな少女を見て苦笑いを浮かべるリオ。急に体をまさぐられたふぐおは、困った視線を周囲に向け、フジミは不機嫌そうに口を尖らせる。
「俺様は呼ばねえのかよ」
ぼそりと呟いたフジミへ、メインが今気づいたように声をかける。
「あ、こわいひと」
「誰が怖い奴か!」
「そういうところだと思うよ」
こわいひと、と言われたフジミが鬼のような形相で少女へ食ってかかるが、リオに指摘され静かになる。だが少しすると、開き直ったように口を開いた。
「は、俺様は魔人だ。怖がられてなんぼの存在なのだ!だから気にしてねえ!いいな!?」
(((めちゃくちゃ気にしてる・・・)))
その台詞を聞いて内心でほぼ同時にそう思うリオ達。そして、当のフジミの方はなぜか胸を反らしているのだから、どことなく可哀そうな子感が出てしまっているのは否めなかった。
そしてフジミの台詞を聞いたメインとクロウ達の反応はというと――
「てことは、お前が昨日北門で大暴れしてやがった野郎か!いやー、あん時は助かったぜ」
「まじん・・・?なんだかかっこいいね」
さほど驚いた様子もなくフジミの発言を受け入れていた。――いや、メインの場合は魔人という存在をよく分かっていないという方が正しいだろう。
そんなメインに、リオが簡単に魔人について説明すると――
「悪者から正義の味方になったの?」
と、子供らしい解釈が返ってくる。人間の敵が人間の味方をするということは、月並みな解釈ではあるが、それが一番わかりやすいだろう。――言い方を変えれば同胞への裏切りでもあるのだが。
「えーっと、まあ、そんなところかな」
本当はリオとフジミの間に色々とあったのだが、ひとまずそこは省くことにしたリオ。そこで、ふと浮かんだ疑問をリオが口にする。
「でも、魔人って魔物たちの親玉みたいなものだけど、メインは憎くないの?」
彼女にとってフジミは家族を殺した魔物の同類である。それにも関わらずフジミに気を許しているのは、フジミ自身が彼女の両親探しを手伝ったからなのか、それともリオの仲間だからなのか。はたまたその両方か――
メインはリオの質問に対し、すぐに首を振り答える。
「全然。こわいひとはメインを助けてくれたもん」
そう口にしたメインの表情は、屈託のない眩しいまでの笑顔だった。
それからしばらく。メインやクロウ達も交え昼食をとったリオ達は、西門を望む範囲で自由行動をとっていた。
ジン、ミリーは久しぶりに2人で昔話をするらしく、町の中央へ。アッガスは1人西門の兵士たちのもとへ。エレナはレーベとフジミを連れ「白虎」のクロウらと交流をしていた。
そして残るリオとふぐおはというと、数日ぶりにふぐおのブラッシングをしていた。地面に横たわり、完全にリラックスしている様子のふぐおは今にも眠ってしまいそうなほどに目をトロンとさせていた。
「熊さん、気持ちよさそう」
リオがブラッシングをする様子を眺めていたメインが呟き、リオの方へちらりと視線を送る。その視線に気づいたリオは「やってみる?」と声をかけると、手にしていた櫛を差し出す。
「うん!」
勢いよく返事をすると、櫛を受け取ったメインが見よう見まねでブラッシングを始める。だが上手くいかないようで、何度も毛が櫛に引っかかるのか強引に引っ張ったりしており、そのたびにふぐおの体がビクンと跳ね上がる。
「あ、あれ?動かなくなっちゃった」
そんな無茶を繰り返したせいか、やがて完全に動かなくなる櫛。と、次の瞬間。メインが櫛を思いっきり引っ張った。
「えい!!」
「フッッ!?ギュウウウウウゥゥオ!!??」
次の瞬間、ふぐおのものとは思えない悲鳴のような絶叫が響き渡る。少し離れた位置で2人を見守っていたリオも、その突然の鳴き声に弾かれた様に2人の元へ向かう。そして――
「・・・・・・」
目の前にあった光景に絶句するリオ。彼の視界に入ったのは、一部が10円ハゲのように見事になくなったふぐおの漆黒のような黒い体。それと、痛みのせいで涙目なふぐおの困り果てた視線と、メインの血の気の引いた真っ青な顔だった。
おそらく、ふぐおも相手が相手だけに怒ることもできず、メインの方も状況が状況だけにどうしたらいいのか分からないのだろう。
「ふぐお、大丈夫?・・・って、これじゃあ大丈夫じゃないよね」
リオの台詞に、涙目のまま頷くふぐお。軽くリオがふぐおの禿げた部分を見るが、しばらくはこのままだろうと思ったリオは、メインに声をかける。
「メイン、ひとまずふぐおに謝ろう?」
リオの台詞にこくこくと頷くメイン。まだその表情は真っ青なままだが、ふぐおの前に立つと深々と頭を下げて謝る。
対するふぐおは自身の毛が絡まったままの櫛を恨めしそうに見るが、一声鳴くと軽い力でメインの頭を小突く。おそらくそれは、「今度からは気を付けろよ」というふぐおの言葉なのだろう。その証拠に、ふぐおの顔は涙目ながらも怒っている様子は一切なかった。
「熊さん、ごめんなさい」
最後にもう一度謝るメイン。そんな彼女に対しふぐおは特に気にした様子もなくブラッシングの続きを要求したのだった。
0
ゾロ目やキリのいい数字は崩すもの、ということで感想・お気に入り登録、お願いします!好きなだけ感想とお気に入り登録お願いします♪良ければTwitterもやってますので、そちらもお願いします。更新情報などをいち早くお届け中です♪https://twitter.com/nukomaro_ryuryuアルファポリスでは他に「My Diary」を、小説家になろうで「種族・烏で進む自由な物見生活」を掲載中です!どちらも作者マイページから飛べますので、ぜひ!
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
妹はわたくしの物を何でも欲しがる。何でも、わたくしの全てを……そうして妹の元に残るモノはさて、なんでしょう?
ラララキヲ
ファンタジー
姉と下に2歳離れた妹が居る侯爵家。
両親は可愛く生まれた妹だけを愛し、可愛い妹の為に何でもした。
妹が嫌がることを排除し、妹の好きなものだけを周りに置いた。
その為に『お城のような別邸』を作り、妹はその中でお姫様となった。
姉はそのお城には入れない。
本邸で使用人たちに育てられた姉は『次期侯爵家当主』として恥ずかしくないように育った。
しかしそれをお城の窓から妹は見ていて不満を抱く。
妹は騒いだ。
「お姉さまズルい!!」
そう言って姉の着ていたドレスや宝石を奪う。
しかし…………
末娘のお願いがこのままでは叶えられないと気付いた母親はやっと重い腰を上げた。愛する末娘の為に母親は無い頭を振り絞って素晴らしい方法を見つけた。
それは『悪魔召喚』
悪魔に願い、
妹は『姉の全てを手に入れる』……──
※作中は[姉視点]です。
※一話が短くブツブツ進みます
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇なろうにも上げました。
幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています
ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら
目の前に神様がいて、
剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに!
魔法のチート能力をもらったものの、
いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、
魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ!
そんなピンチを救ってくれたのは
イケメン冒険者3人組。
その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに!
日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。
ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません
野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、
婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、
話の流れから婚約を解消という話にまでなった。
ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、
絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。
お人好し底辺テイマーがSSSランク聖獣たちともふもふ無双する
大福金
ファンタジー
次世代ファンタジーカップ【ユニークキャラクター賞】受賞作
《あらすじ》
この世界では12歳になると、自分に合ったジョブが決まる。これは神からのギフトとされこの時に人生が決まる。
皆、華やかなジョブを希望するが何に成るかは神次第なのだ。
そんな中俺はジョブを決める12歳の洗礼式で【魔物使い】テイマーになった。
花形のジョブではないが動物は好きだし俺は魔物使いと言うジョブを気にいっていた。
ジョブが決まれば12歳から修行にでる。15歳になるとこのジョブでお金を稼ぐ事もできるし。冒険者登録をして世界を旅しながらお金を稼ぐ事もできる。
この時俺はまだ見ぬ未来に期待していた。
だが俺は……一年たっても二年たっても一匹もテイム出来なかった。
犬や猫、底辺魔物のスライムやゴブリンでさえテイム出来ない。
俺のジョブは本当に魔物使いなのか疑うほどに。
こんな俺でも同郷のデュークが冒険者パーティー【深緑の牙】に仲間に入れてくれた。
俺はメンバーの為に必死に頑張った。
なのに……あんな形で俺を追放なんて‼︎
そんな無能な俺が後に……
SSSランクのフェンリルをテイム(使役)し無双する
主人公ティーゴの活躍とは裏腹に
深緑の牙はどんどん転落して行く……
基本ほのぼのです。可愛いもふもふフェンリルを愛でます。
たまに人の為にもふもふ無双します。
ざまぁ後は可愛いもふもふ達とのんびり旅をして行きます。
もふもふ仲間はどんどん増えて行きます。可愛いもふもふ仲間達をティーゴはドンドン無自覚にタラシこんでいきます。
奪われたものは、もう返さなくていいです
gacchi
恋愛
幼い頃、母親が公爵の後妻となったことで公爵令嬢となったクラリス。正式な養女とはいえ、先妻の娘である義姉のジュディットとは立場が違うことは理解していた。そのため、言われるがままにジュディットのわがままを叶えていたが、学園に入学するようになって本当にこれが正しいのか悩み始めていた。そして、その頃、双子である第一王子アレクシスと第二王子ラファエルの妃選びが始まる。どちらが王太子になるかは、その妃次第と言われていたが……
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
私の妹は確かに聖女ですけど、私は女神本人ですわよ?
みおな
ファンタジー
私の妹は、聖女と呼ばれている。
妖精たちから魔法を授けられた者たちと違い、女神から魔法を授けられた者、それが聖女だ。
聖女は一世代にひとりしか現れない。
だから、私の婚約者である第二王子は声高らかに宣言する。
「ここに、ユースティティアとの婚約を破棄し、聖女フロラリアとの婚約を宣言する!」
あらあら。私はかまいませんけど、私が何者かご存知なのかしら?
それに妹フロラリアはシスコンですわよ?
この国、滅びないとよろしいわね?
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる