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ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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第1章グレン編

第三部・グレン 5話

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 ジンを狙った魔物の攻撃は、なんとか大剣で防御したジンによって阻まれた。だが、勢いは殺しきれなかったようで、攻撃で受けた衝撃によりジンが喀血する。

「・・・まだやれるぜ?」

 口元を拭ったジンが闘志を燃やす瞳と共に魔物たちを見る。だが体の方は限界のようで、ジンの意識では指を動かすことも困難であった。
 それを知ってか知らずか、魔物たちはジンの周りを死の輪舞ロンドを奏でるように回りだす。
 やがて一体の魔物がジンに向かい突進する。対するジンは、先ほど防御に使用した大剣を地面に突き刺し盾にした。
 大剣に頭から突っ込み、脳震盪に近い状態になる魔物だったが、すぐに再度ジンをロックオンする。

(さすがにもう対抗できないな)

 体も満足に動かず、武器も手放してしまったジンが諦観の表情を浮かべる。
 そして再び接近する魔物。すでにジンが対抗できないことを知っているのか、ゆっくりと恐怖を味あわせるかのように近づいていき――

「グルウオォォォォーー!」

 雄たけびと共にジン目掛けて最後の一撃を放つ。
 魔物が一歩近づく度に、その光景を見るアッガスとエレナの声が聞こえてくる。
 そうして、彼我の距離が一メートルを切った瞬間。

「はあああぁぁぁっ!」

 いつの間にか魔物を倒していたレーベが、ジンに止めを刺そうとした魔物を切り裂いた。



「レー、ベ・・・?」

 死を覚悟していたジンが、いつまで経っても来ない痛みに対し恐る恐る目をあけると、目の前に立つレーベの姿を目にし、呆けた声をあげた。
 対するレーベは、ジンを取り囲む魔物たちから目を離さずにジンに声をかける。

「無事ですか、ジンさん」

「・・・これが無事に思えるならお前の頭はどうかしてるぞ」

 尋ねるレーベに対し、皮肉を口にするジン。そんな彼に対し、レーベは真面目に答える。

「すぐにふぐおが来ます。そうしたらすぐに離脱してください」

「フグ」

 レーベの言葉と共に、ふぐおが鳴く。どうやら二人は、共に魔物を相手にしていたようだった。
 すでに追いついていたふぐおに対し、横目で視線を送るレーベ。するとふぐおがジンを抱えてリオの元へと駆けだした。

「おっと、お前たちの相手は俺だ。ここから先は一歩も進ませないからな!」

 ふぐおを追いかけようとする魔物たちとの間に立つレーベ。残り四体となった魔物が同時にレーベに攻撃をかけるが、彼の動きに足止めされ、立ち往生してしまう。
 その間にふぐおはジンと共に、リオの近くにいたアッガスとエレナの元へ辿り着く。
 そしてリオの方も、ふぐおの姿を見た途端に、自身を囲む魔物たちを壊滅させる。

「それが出来るんなら初めからそうしてくれよ・・・」

 瞬く間に魔物を殲滅したリオを見ながら呻くアッガス。だが、リオの方にもそれが出来ない理由があったようで。

「ふぐおとパスが繋がってるからなのかわからないけど、上手く魔法が使えなかったんだ」

 そう口にし、即座にレーベの元へ向かう。

「たしかに、戦いにくそうでは、あったな」

 リオの台詞に対し、かすれ気味の声ではあったが納得するジン。あの状況においても全体を見ていたその観察眼は、もはや「さすが」としか言いようがない。
 だが、喋ることすら精一杯のジンを見て、エレナが口を開く。

「少し黙ってなさい。すぐに治癒を始めるから」

「すま、ん」

 申し訳なさそうに呟くジン。彼としてもここまで追い詰められるとは思っていなかったようで、その瞳には後悔と懺悔の念が浮かんでいた。

「レーベ、こいつらは絶対に倒そう」

「何言ってんだ、リオ。跡形も残さず潰さなきゃ腹の虫が収まらねえ!」

 リオとレーベ。二人の少年が明確な意思を持って四体の魔物と相対する。対する魔物たちは、二人を見てわずかに怯む。

「リオ、アタッカーは頼んだぜ」

「レーベこそ、しくじらないでよ」

 互いに相手を見ずに言葉を交わすと、リオが飛び出す。
 次の瞬間。煌めく剣閃と同時に、魔物が一体霧散していく。

「お前らの相手は俺だ!」

 残る魔物に対し、大剣を振るいながら突撃することで注意を集めるレーベ。そうしてレーベの挑発に乗った魔物たちは――

「《業火》!」

 リオの魔法により跡形もなく燃え去っていった。



 その後、ミリーとオーガスが相手をする魔物を倒したリオ達は、メンバーを二つに分け、ジンとエレナ、オーガスの三人は昨日野宿をした場所まで戻ってきていた。

「っつ・・・」

 エレナに包帯を巻かれながら、傷の痛みに呻くジン。

「まったく、今回はリオ君たちが居たから何とかなったけれど、五人だけだったら全滅してたわよ?」

 そう指摘するエレナに対し同意するジン。

「ああ。・・・俺が状況を見誤ったが故だな」

 そう口にし、落ち込むジン。そんなジンに対し、オーガスが口を開いた。

「それで不思議に思ったことを聞いていいか、ジン」

「なんだ?」

 オーガスの問いに対し尋ねるジン。

「見ていたところ、魔物どもは明らかにお前とリオを狙っていた。・・・それは何か理由があるんじゃないのか?」

 ジンも感じた違和感を口にしたオーガス。だが、ジンもその答えには至らなかったようで、腕を組みながら答える。

「理由に関してはさっぱりだ。だが、一つ言えるのは」

「お前の言う魔物を操っている輩がリオとお前の二人を消したい。・・・そういうことだろう?」

「ああ、そうだな」

 オーガスの台詞に頷くジン。そんな彼らに、エレナが声をかける。

「二人を消したいってことは、言い方を変えれば「居たら困る」ってことよね?ジンは分かるけれど、リオ君はどうしてかしら」

 エレナの台詞に再度首を傾げるジンとオーガス。レベルの高い冒険者であるジンが狙われる理由はいくらでも思いつくが、それではリオを優先的に狙っていた理由がつかない。

「きっと、リオには俺達が思っている以上の「何か」があるんだろう。敵はそれを知っているってことだな」

 やがて答えを絞り出したジンが口を開く。

「おそらく、奴らはリオの超人的な能力について知っている。・・・つまり、本当にリオは俺たちにとっての切り札というわけだ」

「なるほどね。・・・けど、単純にリオ君が弱そうだから狙われた可能性もあるはずよ」

 ジンの台詞に反対意見をあげるエレナ。

「いや、俺もその可能性を考えたんだが、おそらくないと見ていい」

 ジンも同じことは考えたらしく、エレナの意見を否定する。

「どうして?実際にリオ君は十体以上の魔物に襲われたじゃない」

 エレナが口を尖らせ、ジンに詰め寄る。だがジンは、本人も理由は分からないが不思議と確信があったようで。

「ああ。だが、昨日も言った通り奴らは軍隊だ。なぜ弱い奴にあれだけの戦力を割く?雑魚を一人削るくらいなら戦力になる奴を潰す方へ戦力を回すだろう」

「雑魚、か。つまり、あいつらを操っている存在にとって、俺達はその程度の認識ということか」

 ジンの台詞を聞いたオーガスが零す。彼とて「大鷲の翼」のメンバーである。それなりに自尊心はあるのだろう。
 彼らを襲った存在にとってはそこらの石ころと同じ扱いということには、さすがに我慢がならなかったようだった。

「おそらく、な」

「さっきの話に戻るんだけど、軍隊であれば先に周りを削って孤立させた方がよくないかしら?」

 エレナがそんな疑問を挟む。軍としてはジンの考えもエレナの考えもどちらも正解だろう。――だがそれは、長期的に戦争を続けられるかどうかで大きく変わってくる。
 短期決戦であれば間違いなく相手の中枢を潰した方が良い。ただし、長期的に戦うことを見越しているのならば、相手の足場から崩す方が確実に勝利を掴めるだろう。
 勿論、両者とも相手の戦意や物資量によって大きく異なるため、どちらが確実に良いとは言い切れないのだが。過去の歴史の中では、短期決戦を目論見ながらもずるずると長引き敗北した例もあり、またその反対も然りである。

「だが、長期戦になれば不利になるのはあちらさんだ。いくら無尽蔵に魔物が出てきても、長引かせすぎれば冒険者や傭兵の数が多くなる」

「・・・つまり、やってくる獲物をさっさと倒さないと私達みたいな存在が鼠算式に増えるかもしれないってこと?」

 いくら魔物が無尽蔵に湧いても、それを狩る狩人が増えるのであれば無限というアドバンテージも意味が薄くなってしまう。
 いい例としては害虫の一種でもあり、最も嫌う人が多いゴキブリだろう。
 彼らは「一匹見たら三十匹はいると思え」という言葉通り、すさまじい生命力と繁殖力を持ち、それこそ無尽蔵に湧き出てくる。
 だが、そんな彼らでも現代でいう「ゴキブリホイホイ」や「キンチョール」といった殺虫専用の狩人達には敵わない。それは、今回の魔物達とて同じである。

「ああ、そうだ。地の利は魔物達にあるだろう。だが、時の利は少なくとも俺たちにある」
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