My Diary

ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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1月2日・後編

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 その後何事も無く家へと帰り着いた俺とひかりは、珍しく祖父のいない極寒の居間で暖房器具を点けていく。そうして程なくして温かくなっていく居間。

「そういや、光は明日帰るんだよな」

「うん。帰ったらまたお仕事だよ」

 暖かくなっていく居間で会話をしながらのんびりと時間を潰していると、玄関が開く音がする。そして――

あらた君。ちょっとご飯作るの手伝ってもらえる?」

 みやこが姿を現した。彼女は姿を現すなり、開口一番そう口にする。そんな彼女に対し口を開いたのは光だった。

「えー、お兄ちゃんともう少し2人で居たいのにー」

「光ちゃんのために手の込んだ料理にしたいの。・・・ほら、明日には帰っちゃうでしょ?」

 光に視線を向けながらそう口にするみやこ。それを聞いた光は、渋々といった表情で了承する。
 そうしてみやこと共に台所へ向かった俺は、2人で夕食を作ったのだった。



 それから約2時間が経ち、完成した夕食を持って居間へと向かう俺とみやこ。俺たちが手にしていたのは、まさかのちらし寿司。1週間ほど前に俺と光で作ったが、まさかこんなにすぐに口にすることになるとは思わなかった。――とは言ってみたが、俺は作っていた側だから初めから知っていたのだが。

「今日はちらし寿司か。光の旅立ち祝いかのう?」

「いやいや、旅立ち祝いって・・・」

 食卓に置かれたちらし寿司を目にした祖父が口にした言葉に、思わず呆れた声を出してしまう。するとそこへ、俺の寝ている部屋から光が姿を現した。

「・・・なんだか挑発された気がするー」

 食卓に並ぶちらし寿司を見て頬を膨らませる光。・・・何に対して挑発されていると思ったのかは分からないが、なんとなくちらし寿司関連な気がするのは俺の気のせいだろうか?
 そんな光に対してどうやらみやこは勝ち誇った表情を浮かべていたらしく、光に「平子ひらこさん、何?その顔」と睨まれていた。

「・・・どうでもいいから早く食べないか?」

 このままでは2人が喧嘩を始める――というか、訳の分からない飛び火を貰いそうな気がしたので、2人を止めるように俺はそう口にする。すると2人は俺の方を一瞬だけ睨むと、みやこは自分の席へ、光は俺に早く座るように視線で急かしてくる。
 その視線を真っ向から見てしまった俺が無言で座ると、光は一切の遠慮なしに膝の上へ収まる。

「・・・やっぱり見慣れて来てるわ」

 その光景を見てぼそりと呟くみやこ。だがそれ以上は何も言わず、むしろ俺たちの事を見守るような視線を向けてくる。

「・・・そんなに見られてると気になるんだけど」

「あら。新君にも他人の目を気にする神経はあるのね」

「それ、非常に失礼だと思うんだが」

「冗談よ。・・・少しだけ羨ましいって思っただけ。私は一人っ子だから」

「・・・そっか」

 光にねだられながらもみやこと会話を続けていると、みやこが不意に話題を変える。

「明日、光ちゃんは帰るのよね。・・・少し寂しくなりそうね」

 急に光が帰ることを話題にしたみやこ。それに対して俺と光は互いに顔を見合わせるとみやこの方を向く。
 そんな俺たちに対して、癇に障ったような表情を向けてくるみやこ。

「・・・何よ、仮にもこうやって食卓を囲んだ中でしょう?私だって寂しく思うわよ」

 口を尖らせながらそう口にするみやこ。そんな彼女に対して、光が口を開く。

「意外。平子さんってお兄ちゃんを狙ってるから、ひかりが居なくなれば喜ぶと思ってた」

「へっ!?」

「はあ!?」

 光の突然の発言に驚いた声を上げた俺とみやこ。そんな中、唯一平然としていた祖父は俺たちの事を見守りながら黙々と夕食を口にしていた。・・・いや、なんで俺はそんな光景が目に入ったんだ!?動揺しすぎて余計なことを口走った感覚を味わった気がするぞ!?

「・・・冗談だよ。さっき平子さんがお兄ちゃんに冗談を言ったから、そのお返し!」

 驚いた俺たちを楽しんだ様子の光が屈託のない笑顔でそう口にする。というか、なんで冗談を言われた俺じゃなくて光が仕返すんだ?
 そもそも、冗談だとしても今のはどうなんだ・・・?言ってはいけない部類の冗談じゃないのか――
 そう感じた俺は、膝の上に座る光に対して口を開く。

「・・・光、さすがにそういう冗談は良くないと思うぞ」

「はーい。・・・でも、平子さんも似たようなものだと思うけど」

 返事をした後に不満そうに呟く光。確かにみやこが口にした冗談も、どちらかと言えば駄目な部類の気はするが、光のは完全にアウトだと思う。
 冗談と言うのはその人の捉え方で感じる感覚が変わるが、みやこの場合は少なくとも本気でそう口にした様子は無かった。だが光の方は、明らかに感情任せに口走ったようだったのだ。
 偶然にも光が膝の上に居たため、その呟きが聞こえた俺は光を叱る。

「バカ、光のは明らかに敵意のある言い方だっただろ。光にとっては冗談でも、そんな風に口にしたら相手は本気に思うだろ?」

 俺の台詞を聞きながら頬を膨らませる光。幼い頃に両親に捨てられ、さらに他人との接し方を学ぶはずの期間でもある義務教育の期間を半分以上仕事で取られた光は、接する相手が極少数に限定されていた、ということもあるが、そのせいで同年代の友人達との接し方をちゃんと知らない。
 そのせいで、光は高校一年生ではあるが、どうしても年不相応な――言葉は悪いが、精神的に未発達な人のような状態なのだ。
 それゆえに、叱られた時も不貞腐れたりといった行動が多い。――現に今も不貞腐れており、頬を膨らませながら目を逸らしていた。

「・・・俺も言い過ぎた。もう怒ってないから」

 一切俺と目を合わせようとしなくなった光を見て、溜息と共にそう口にする。
 こういう甘いところが光に悪影響をもたらしていることは理解しているのだが、こういう場面でどうしても強く出れない俺がいることもまた事実なのだ。・・・もしも今まではっきりと言っていればどうなっていたのだろうか。きっと、光がここに居るか居ないかの違いだけなんだろう。

「・・・2人とも、早く食べないと冷めるわよ」

 気まずい空気となっていた俺たちを変えるようにみやこがそう口にする。それにこれ幸いと乗っかった俺は、率先して夕食を口に運んでいく。それを見た光も、先ほどまでと同じように俺におねだりをしてきたのだった。



 夕食後、俺はみやこに呼ばれ彼女が寝泊まりしている部屋に呼ばれていた。元々物が少ない祖父の家だが、みやこが寝室としている部屋には着替えが入ってるらしき手提げ鞄と、外出用に使用している小さな鞄だけがあった。その荷物の量から見て、どうやらみやこは必要最低限の荷物しか持ってきていないようだった。・・・まあ、帰ろうと思えば数分で自宅に帰れるから故の荷物の少なさだとは思うが。

「あまりじろじろ見ないでよ。新君のおじいさんの家とはいっても、今この部屋は私が借り受けている状態なんだから」

 荷物の少なさに少しばかり驚いていた俺の方を見ながら釘を刺してくるみやこ。そんな彼女に対して俺は感想をそのまま口にする。

「・・・これじゃあ「女の子の部屋」っていうより「最低限の荷物を手提げ鞄と肩掛けの小さなバッグに詰めて旅館に来た旅行者の泊まる部屋」って感じだな」

 そう口にしてから「しまった」と思う。こんなにストレートに感想を口にしては、下手をすれば冷や汗どころでは済まない何かをされる可能性があったからだ。
 だが俺の感想を聞いたみやこの方は、俺の思っていた反応とは異なる反応を示していた。

「新君にも分かる?私、余計な荷物は持ち歩きたくないの。・・・でも、皆はそうじゃないじゃない?」

「え?ま、まあ、そうだな・・・?」

 思っていた反応と全く異なる反応を返されて思わず戸惑ってしまう。・・・普段のみやこなら「生きて明日の朝日を拝めると思うなよ?」ばりの無茶苦茶なことをしてくると思っていたんだが、どうやらみやこは見栄とかには一切関心が無い、実用性優先な人間らしい。――その割にはいつだったか2人で行ったショッピングモールで・・・いや、あれもほとんどが食材とか日用雑貨だったことを考えると、実用面を重視している性格なんだろう。

「でも、友達はいつもそういうところばかり気にしてくるから――」

 そのまま始まるみやこの愚痴。堰を切ったように溢れてくる彼女の愚痴を聞きながら、俺は適当に相槌を打っていく。
 そうしてそのまま、まるで濁流の如く流れてくる愚痴を聞き続けた後。

「――でね、その時言っちゃったの。「そんなのは私の勝手でしょう!」って。そしたらその子、涙目になりながら謝ってきたの。それからはお互いの主張を通せるいい友人になれたわ」

 どうやらそこで一区切り着いたらしく、大きく深呼吸するみやこ。それが終わるのを待ってから俺は口を開く。

「・・・とりあえず、なんで俺をわざわざ部屋に呼んだんだ?」

「最後の確認よ。・・・明後日、1月4日の午前中は絶対に家から出ない、っていう」

 わざわざそのために俺を部屋に呼んだのか。だとしたら用意周到というか、なんというか・・・。もはや執念すら感じる。

「・・・そのことについてなんだが、やっぱり理由は教えてくれないのか?」

 以前、明後日の1月4日に俺が死んでしまうと口にしたことについて、再度説明を求める。俺を不安にさせる要素はいくつかあったし、今も信じきれない部分がある。だからこそ今ここではっきりと理由を知りたかったのだが――

「ごめんなさい、それだけは言いたくない・・・いえ、言ってはいけない気がするの」

 それを聞いて、明後日起こる事はやはり現実なのだと確信する。だが「言ってはいけない気がする」というのはどういう事なのだろうか。俺が死ぬ未来をみやこが知っているのだとすれば、それを俺と事細かに共有した方が対策も立てやすいだろうに。・・・いや、口にすることで何か不都合が起こるのだろうか?
 小さな可能性は、別の大きな可能性――言わば分岐点に集約されるというし、もしかしたら「未来」という物は、それを知る人間が口にすることでより実現されやすくなってしまうのかもしれない。

「・・・分かった。でも、本当に午前中だけでいいのか?」

「?・・・ええ、きっと」

「そっか。じゃ、俺は部屋に戻るから」

 俺の言葉に首を傾げながら答えたみやこに対してそう口にすると、俺は立ち上がり寝室へと向かおうとする。

「ちょ、ちょっと待って!」

 そんな俺に慌てたように声をかけるみやこ。
 声をかけられた俺はどうしたのだろうと思いながら背後を振り返ると、まるで縋りつくような視線を向けてくるみやこの姿が目に映る。
 その姿に昔の光を重ねてしまったのだろうか、俺は静かにみやこのそばに膝を着くと声をかけた。

「あ、その・・・もっと話をしたいなと思ったの。ほら、さっきは私が一方的に愚痴っちゃったし、新君は光ちゃんのことは話してくれたけど、自分のことはあまり話してくれなかったじゃない?」

 おそらく本当は別の理由があったんだろう、俺に声をかけられたみやこは、取り繕うようにそう口にした。
 きっと、このまま聞けば俺を呼び止めた理由を話してくれるかもしれないが、なんとなくそれは悪い気がしたので、俺はみやこの口にした提案に乗る。・・・実際、俺はあまり自分のことを話していない気がする。趣味なんかは話した記憶があるが、こっちの友達や向こうの友達、それから学校での事や家族の事なんかは話していないに等しかった。

「そうだな、それじゃあ――」

 そのままお互いの事を話し、気づけば俺は、みやこの話を聞いている間に寝落ちしたのだった。
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