My Diary

ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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1月2日・前編

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 俺が無意識の内にみやこに告白まがいな発言をした翌日。
 ぼんやりとした意識の中、誰かに呼ばれている気がしてうっすらと目を開けると、俺の顔を覗き込むようにしてみやこの顔があった。

あらた君、もう9時前よ?」

「・・・何!?」

 寝起きの脳でみやこの口にした言葉を理解しようと何度も反芻し、慌てて飛び起きた俺は、見事にみやこのおでこへとこんにちはする。

「いった!急に起き上がるとか馬鹿なんじゃないの!?」

「わ、悪い・・・ていうか、なんでそっちこそ俺の顔を覗き込んでたんだよ?」

 おでこを抑えながら俺に悪態を吐くみやこ。そんな彼女に対し、俺は思ったことを口にするが――

「何度読んでも起きないから実力行使しようとしただけよ」

 みやこにそう口にされ冷や汗をかく。あと一歩遅かったら一体何をされていたんだ、俺は・・・?
 そうして早朝から冷や汗をかくこととなった俺は、ひかりを起こすと居間へ向かったのだった。



 朝食後、慌てて林太りんたに連絡を取った俺は、光と共に麓へ続く坂道を歩いていた。少しばかり薄暗い空は、昨日の予報通り今にも雪が降りそうな感じにも見える。
 とうに太陽は昇っているのだが、空にかかる雲のせいで地面に降り注ぐ日差しは無く、結構寒かった。

「ちょっと寒いな」

「だね」

 2人で手を繋ぎながら歩く。はたから見ればカップルに見える光景だが、本人たちにその気はない。・・・幼馴染で年頃の男女だからといって、常に何かある訳でもないということだ。
 そうしてしばらく。麓のバス停に到着した俺たちは、ここであった昔話をしながら林太が来るのを待つ。

「そういえば、中学生くらいの時にここで光がこけたんだよな」

 俺が口にしていたのは、俺がまだ中学二年生の夏頃の話だ。
 あの頃、バランス感覚を鍛えられる2輪式のローラーボードが流行っていたのだが、その時祖父の家に来ていた光は、纏まって取れた約2週間の休みを全てそれにつぎ込んでいた。
 だが元から運動神経が壊滅的な光は結局乗りこなすことは叶わず、駄々をこねながら休みを終えた、という話だ。

「ぶー、そんな話は思いださなくていいよ。そう言うお兄ちゃんも全然乗れてなかったじゃん」

 俺の台詞に対して反論するように光がそう口にする。確かに俺も、初めはこけまくっていたが1週間ほどで普通に乗れるようになった。ただし光はというと、先ほども言った通り乗れることはなかった。

「俺は一応乗れるようになったから。でも光は結局、お盆休み全部使っても乗れてなかっただろ」

「う、それは・・・。あ、あと1日あれば乗れたもん!」

 俺にそう指摘され、視線を泳がせながら苦し紛れの言葉を口にする光。

「そうかもな、あと1日あればよかったな」

 むうっと頬を膨らませる光に対して俺は笑いながらそう口にする。すると、俺の視界に林太の姿が映った。

「お、林太だ。・・・ほら、光。そんなとこで突っ立てないで早く行くぞ」

 光に声をかけ、すぐに林太の元へ向かう俺。そんな俺の後ろを、空気の抜けた風船のように頬をしぼませた光がついてきたのだった。



 林太と共に金宮かなみや家へと向かった俺と光は、林太とかいの両親に新年の挨拶をしていた。

「「あけましておめでとうございます、おじさん、おばさん」」

 2人同時に新年の挨拶をする。

「あけましておめでとう、新君、光ちゃん。これ、少ないけどお年玉ね」

 そう言いながらおばさんがお年玉の入ったポチ袋を俺たちの前に差し出す。

「いや、悪いですから」

 だが俺は、差し出されたお年玉を受け取ることなく辞退する。なぜなら、高校二年生になって未だにお年玉を貰うというのは、個人的に気が引けるからだ。――ちなみに俺は祖父からもお年玉は貰っていない。おそらく埼玉に帰れば両親が3千円くらいは用意しているのだろうが、俺としては断るつもりだ。・・・え?幸子さん達からのお年玉?あれはお年玉と言うより脅し玉というやつだろう。・・・実際脅されたし。

「そう言われても・・・。いいから受け取って?」

 受け取りを拒否した俺に対して困った表情を浮かべるおばさん。その隣に座るおじさんも、同様に困った表情を浮かべていた。なお光の方は全く気にせず受け取っていた。
 だが俺は受け取るつもりはない。だが、結局毎年受け取っているというのも事実であった。なので、今年こそはその通例を壊すべく意地でも受け取らないつもりでいたのだが――

「新君、あなたが受け取ってくれないと林太たちに罵られるの」

 おばさんのその一言で、俺は結局お年玉を受け取ることになる。実は以前、俺がお年玉を受け取らなかった年におばさんが林太と海に罵られた年があった。そのことをおじさんの口から聞いてしまった俺は、どんなに断ろうとしてもおばさんの一言で受け取るを得ない状況となっていたのだ。――ある意味脅しともとれるが、俺に利はあっても害はない。そのことから今まで黙認していたが、冷静に考えたら相当まずい状況だと思う。
 慣れとは怖いものだな、と思いながらおばさんからお年玉を受け取ると、廊下で待機していた林太達が急に顔を出す。

「新、光。スマファミやろうぜ」

 その後、背後で見守るような視線を送ってきた林太の両親を背に和室へ移動した俺たちは、和室に置かれているテレビに繋がれたゲーム機で遊び始めたのだった。



「っし、俺の勝ちー!」

 林太の家にお邪魔してから約1時間。俺、林太、海、光の4人で遊んでいた俺たちは、何度目か分からないリザルト画面を目にしていた。
 4人でのバトルロワイヤル形式で行う試合を制した俺は、握りこぶしを作りながら勝利を味わっていた。

「だー、あと少しだったのに!」

 最後に俺と一騎打ちをした林太が悔しそうな声をあげる。そんな林太に対して勝ち誇った視線を向けると「次は負けないからなー!」と口にする林太。
 そんな俺たちを見ながら、光が羨ましそうな声を上げる。

「いいなぁ、ひかりも勝ちたい!」

「光さんが勝つのは天地がひっくり返ってもないと思いますよ」

「海君、ひどい!」

 海の言葉にショックを受ける光。だが海の言う通り、光が勝つにはそれこそ外的要因でもなければ不可能だろう。本人は無自覚なのだろうが、毎回勢いのまま突っ込んでくる光は良い的だろう。おまけに自滅率も5割近いとなれば・・・ここからは言わないでおこう。

「むー、次は絶対に勝つもん」

 そう口にしながら画面へと向き直る光。それに対して俺は、林太と海に視線を向ける。

「よーし、もう一回やるぞ。今度は勝つ」

「俺もちょっと本気でやりますよ」

 俺の視線を見てから、光と同じように画面へと向き直る2人。

「返り討ちにしてやる」

 そして俺も画面へ向き直ると、次の対戦を始めたのだった。



 それからさらに1時間後。あれからずっとスマファミをやり続けた俺たちは、林太の家で昼食をご馳走になった後、昨日幸子ゆきこさんと約束した食堂にやって来ていた。
 現在13時半。幸子さんのバイトが終わる時間まで残り30分というタイミングで食堂に顔を出す俺たち。

「いらっしゃいませー・・・あ、あらちん~」

 扉の開く音と共に、幸子さんの声が店内に響く。とほぼ同時に、いつもの気の抜けた話し方になる幸子さん。まだ仕事中にも関わらず知人が来たからってそれはどうなんだろうか・・・?
 だが店内にはお客と言うお客はほとんどおらず、いるのも地元の大人たち数人だけだった。――言い方を変えれば、店内には顔見知りしかいない為、周囲に気を配る必要が無いのだ。なぜなら今いるお客は、全員食べ終われば勝手に勘定を置いて退店する人達ばかりだからだ。・・・食い逃げ?地元民で成り立っている場所でそんなことをしたら即村八分だ。おじさんが出禁にしなくとも、周りの人達がそういう空気を作るだろう。

「こんにちは、幸子さん。一応、まだ仕事中なんですし、きちっとしてた方が・・・」

「店長、あらちん来たので上がりまーす」

 俺が注意しようとすると、幸子さんがおじさんに向かってそう声をかける。どうやら、暇すぎて早上がりしていいと言われていたようだ。

「おう、お疲れー・・・って、ええ!?」

 ・・・そんなことは無かった。
 幸子さんの台詞に驚いた声を上げたおじさんは、手にしたフライパンを火にかけたままで硬直すると、何度も瞬きしていた。

「ゆ、幸子君!?そういうことは早く言ってくれないか?」

 しばらく硬直していたおじさんが、驚いた表情のままそう口にする。

「そうですよ、幸子さん。急にそんなこと言われてもおじさんも驚きますって」

 おじさんに続いて、諫めるように幸子さんを諭す。その俺の言葉に対して幸子さんは少し不満そうな表情をすると、渋々仕事に戻ろうとする。すると、その直後におじさんが理解不能な発言を口にした。

「デートに行くんなら早めに言ってくれ」

「・・・おじさん?」

 いきなり耳に入った台詞に、俺の脳内の思考が完全に停止する。――デート?誰と誰が?
 それを聞いた光が、思考が停止した俺の代わりに口を開く。その瞬間、嫌な予感を感じる俺。そして残念ながらその勘は当たってしまったようで――

「おじさん、ひかりもいるんだよ!2人でデートなんて絶対にさせないもん!」

 光が怒り心頭といった様子でおじさんに食ってかかる。

「おや、2人同時にデートかい?やるな、新君」

 そんな光に対し、もはや年の功にも思える発言で躱すおじさん。ていうか、光はこういう時には黙っていてほしい。余計話がややこしくなる。
 そしておじさんに食ってかかった光はというと。

「お兄ちゃんとデート・・・えへへ」

 締まりのない顔でにやけていた。・・・いや待て。自分でデートという言葉を口走っておきながら他人にそう言われてなぜそうなる?ていうか、ここに来るまでもデートと変わらなかっただろうに。
 そして、そんな光を見ながら幸子さんの方も上機嫌そうな表情を浮かべていた。この人の場合はデートとかではなく、光が嬉しそうにしているからだと思いたい。そうじゃないと俺の胃がいくつあっても足りなくなりそうだから。

「あらちん、3人でデートだね~」

 ・・・だれか、代わりの胃か胃腸薬をください。
 幸子さんの言葉に、胃に穴が開きそうな感覚を覚える。すると、顔色も悪くなっていたらしく、幸子さんが心配そうに声をかけてくる。

「あらちん?なんだか顔色悪いよ~?早く買い物終わらせて帰ろっか~」

「何?そういうことなら、幸子君は早く上がって行ってきなさい」

 幸子さんの台詞を聞いてそう口にするおじさん。それを聞いた幸子さんは、俺たちを座敷に案内すると、店の裏手へ消えていく。

「新君、生きて会おう」

 幸子さんが裏手へ消えると同時に、おじさんが敬礼しながら俺の方を見てくる。そして、そんなおじさんに乗っかるように大人たちも俺に敬礼をしてくる。皆笑いそうな表情なところをみると、悪ふざけでやっているようだ。
 そんな大人たちに対して、頭を抱えながら口を開く。

「おじさん、不吉な発言はやめてくださいよ・・・。あと、それやめてください」

 なんなんだ、おじさん達のこれから死にゆく人間に当てるような言動は・・・縁起でもないから本当にやめて欲しい。
 からかう大人たちに嘆息していると、光が不意に声をかけてくる。

「お兄ちゃん、本当に顔色良くないよ?幸子姉ゆきこねえに話してお家に帰る?」

「いや、大丈夫だよ。ちょっとおじさん達の言動が、な」

 にやにやしながらこちらを見ている大人たちを半眼で睨む。すると全員がわざとらしく視線を逸らしたかと思うと、おじさんと話し始めた。

(若い学生の恋模様を見てて楽しんだろうけどさ・・・)

 そんな大人たちの行動を見ながら、内心で嘆息する。きっとおじさん達くらいになると、俺たちみたいな青春っぽい恋愛は出来ないんだろう。それを思うと同情するし、少しはからかうことぐらいは大目に見れる。だが、見世物にされるとなれば、それは違うと思うんだがな・・・

「あらちん、お待たせ~。ってあれ?怖い顔でどうしたの~?」

 そうこうしていると、俺たちの前に姿を現した幸子さんが俺の様子を見て尋ねてくる。

「いや、あんな大人にはなりたくないって思っただけです」

 俺の発言に首を傾げる幸子さん。だが俺の視線の先にいる大人たちを見て、なるほどといった風に口を開く。

「そうだね~。お昼から飲んでる大人にはなりたくないよね~」

「え、飲んでたんですか?」

 幸子さんの発言に驚いた俺は思わず声を上げる。それと同時に、わずかにびくり、と体を震わせる大人たち。たしかに、飲んでいたのならあの言動もなんとなく理解できる。――理解したくはないが。ていうか、こんな昼間っから飲まないでくれ。

「店長は素面だけどね~」

「まあ、そうでしょうね。飲みながら仕事って相当やばい奴ですよ」

 幸子さんが口にした台詞に対して、そう答える。ていうか、おじさん飲んでもいないのにあんなことを・・・?昔っからからかい癖がある人だなとは思っていたが、どうやらまだまだ知らない・・・いや、知らなくてもよさそうな一面があるらしい。

「実は店長、からかいすぎて昔の奥さんに逃げられたんだよ~。ですよね、店長~」

 ・・・衝撃のカミングアウト。奥さんに逃げられるほどって、一体何があったんだ?それから、流れるように秘密をばらさないであげて欲しい。しかも反応に非常に困る秘密を・・・

「・・・おじさん、少しは自重したらどうですか?」

 幸子さんに秘密をばらされたおじさんは、大人たちにからかわれ始める。その光景を見て慰めるべきか迷った俺は、結局そう口にすることにしたのだった。
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