My Diary

ぬこぬこ麻呂ロン@劉竜

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12月29日・後編

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 ショッピングモールの敷地内のバス停からバスに揺られること30分。ぼうっと窓から見える景色を眺めていると、不意にみやこが俺に声をかけてきた。

「そういえば、あらた君ってなんの本を買ったの?ずいぶんはやく会計済ませてたけど」

 どうやらみやこは俺が買った本について気になっていたらしく、俺の手にする本の入った袋を見ながら尋ねてくる。

「・・・恥ずかしいからあんまり言いたくないんだが」

「いいから、お願い。ね?」

 俺は遠まわしに断るが、それでもみやこは気になるのか再度お願いしてくる。・・・正直、本当に恥ずかしいからあんまり言いたくないんだがな。
 だが、今周囲から向けられている視線の方が辛いのもまた事実か。はたから見れば今の俺たちは同棲中のカップルだしな。

「・・・分かったよ。でも1冊だけな」

 そう口にした俺は、適当に一番上にあった本を取り出す。

「・・・「転生したら賢者に!?~気づいたらチートで国を作ってました!~」?転生?賢者?チート?国なんて気づいたらで作れないわよ?」

 いろいろな疑問と共に、的確なツッコミがみやこの口から出てくる。確かに「気づいたら」で国なんて作られてたら堪らないだろうな。
 だがその反応から、彼女はこういった作品に関する知識はほぼ無いようだったので簡単に説明してやる。

「へえ、最近の学生の間ではこういうのも流行ってるのね」

「ああ。中にはインターネット上で公開されてて本になった奴とかもある。中にはアニメになったりな」

「・・・噓でしょ?」

 俺の説明に驚いた表情を浮かべるみやこ。今時ここまで知らないというのも珍しいが、案外知らないだけで普通に周りにいるのかもしれないな。

「マジだ。まあ、基本的に深夜帯での放送だから、偶然見るか調べないと見ることは少ないとは思うけどな」

「深夜・・・そんな時間は無縁ね。私の場合は朝早いし」

 まあ、普通は朝起きて深夜帯は寝ているのが普通だろう。
 それこそ、何かしらの要因があって昼夜逆転でもしない限り「深夜は昼」とは言わないだろう。――俺たちみたいな学生は特にそうだろうな。まあ、埼玉の友人たちは皆1時とか2時まで起きているらしいが。
 ちなみに、俺は夜更かししても1時までには寝ている人間だ。

「俺もだな。・・・けど今は録画という手もある。最近のテレビとかなら標準でついている物も多いし、テレビにその機能が無くてもレコーダーとかで録画する方法もあるしな」

「・・・さすがに詳しいわね。実はアニメ好きなの?」

「いや。漫画とかの方が好きだな。アニメは見てると目がチカチカしてくるんだ。1話分どころか10分でもそうなるからほとんど見ないな」

 おそらく体質的な問題なのだろうが、そのせいもあって、普段から娯楽と言えばこういった漫画や小説か友人と外で遊ぶことが中心だ。勿論アニメが厳しいのでゲームなんぞ滅多にやらない。

「そうなのね。・・・で、その本の内容ってどんなのなの?」

「ああ、簡単に言うと――」

 そう前置きし、俺は本の内容を簡単に説明していく。なお、俺がみやこに話した内容は次の通りだった。
 主人公は偶然異世界の召喚に巻き込まれた高校生で、おまけで異世界へ召喚されただけの少年。
 ただ、なぜか召喚対象の少年の友人が貰うはずだった能力をすべて貰っており、その力を使って自力で異世界を生きていく。
 ある時、とある悪徳高官を成敗したことによりなぜか国を持つことになった少年は気づけば彼が悪徳高官の手から救った人々に支持され一国一城の主となっていた、という話だ。
 中々に無茶のある内容だが、コメディ感が強く、爽快感のあるシーンが多い。それゆえに中毒性があるのかそこそこ人気がある作品だ。

「へ、へえ・・・。他には何があるの?」

 だがどうやらみやこへの受けはよくなかったらしく、困ったような声を上げた。・・・みやこには悪いが、この作品はかなり人を選ぶからな。・・・それゆえになぜ出版されてるのか若干不思議な気もするのだが。

「次はこれだな」

 続いて俺の手に握られたのは「元ホームセンターの店員が異世界に行きホームセンターを開く話」というタイトルの漫画だった。
 それを見たみやこは――

「新君らしいのが来たわね。ていうか、最近はこんなのもあるの?」

 貶すような、褒めるような微妙な視線を送ってきた。
 そんなみやこの視線には目もくれず、俺は早速内容を話し始める。
 ちなみに内容は、事故によって亡くなった主人公は転生して別世界に生まれ変わる。そしてそこで前世の知識を活かしてホームセンターを開きのんびりと過ごすという話だ。
 ちなみに原作はネット小説。偶然初期の頃に見かけた俺はそれ以来虜になっている。短編タイプの作品なので読み返したいときに読みやすいのも好きなところだ。

「なんだか面白そうね。・・・ただ、新君のいう「文房具を取りそろえる」ところのシーンはいまいち分からないわ」

 俺がおすすめのシーンを話すと、みやこは何とも言えない表情になりそう口にする。まあ、金太郎にすら共感されていないんだ、みやこが共感できるとは1ミリも思ってない。なんたって地味オブ地味なシーンだからな。

「大丈夫だ。俺も共感できる奴がいるとは思ってない。ただ、傷口を抉らなければそれでいいさ」

 やせ我慢のようにそう口にしたが、なんだか、言ってて悲しくなってきた。

「で、次は何?」

「・・・なんか興味津々だな」

 今にも飛び掛かってきそうなみやこを見て思わず苦笑する。しかし、みやこって意外と本好きなんだな。

「最初のはいまいち分からなかったけど、今のは面白そうだったもの」

 俺は少しばかり興奮してほんのり赤くなっている彼女の顔を見て、思わずドキッとしてしまう。おもわず目を逸らしてしまった俺は、手元をまさぐり次の本を手に取った。

「じ、じゃあ帰ったらURL教えてやるよ。・・・で、次は・・・」

 そうして俺が手に取った本。それを見た俺は、みやこに確認をとる。

「・・・なんか、いろいろ期待してそうなとこ悪いんだが・・・」

「なに?見せられないようなものなの?」

 俺の言葉に、先ほどまでの興奮した様子から一気に急降下していく彼女の視線。断じてそういう系の物ではないのだが、これは人によっては怒りそうな内容だからな・・・。

「いや、そういう訳じゃないんだが。・・・絶対に文句言うなよ?」

 念のため俺は予めみやこに釘を刺し、手にした本を取り出す。

「「乙な三国志!」?・・・新君、三国志に興味あるの?」

 本のタイトルを見たみやこが意外そうな視線を向けてくる。だが俺は、残念ながら三国志には興味ないんだ。

「いや全然」

「なんで買ったのよ・・・?」

 俺の言葉におそらく誰もが思うであろうことを口にするみやこ。もし俺が同じ立場なら全く同じことを言っただろう。

「あー、うん。そうだよな。内容もコメディだしな」

「コメディで三国志・・・?いまいち意味が分からないわね」

 そう口にするみやこへ簡単に説明する。

「ぎし・・・時代から考えて魏志倭人伝、よね。それとどう繋がるのかしら?」

「ああ、俺たちが一般的に「三国志」って言うのは、三国志の時代の話をのちの人間が物語として書いた二次創作みたいなものらしい。ちゃんとした歴史書じゃなくって、大衆娯楽向けの」

 俺の説明を聞いたみやこが、そこまでの情報を元に彼女なりの結論を導く。

「つまり、魏志って言うのがちゃんとした歴史で、私たちのいう三国志って言うのは物語なのね?」

「まあ、大まかな理解はそれで間違ってないと思う」

 もっと細かくいけばいろいろとあるのだが、俺もそこまで詳しくないからよく分からん。・・・そういえば埼玉の友人に三国志に詳しい奴がいたな。あの時この本を薦めてくれたのはあいつだったか。そういえば、三国志のコメディ系は見る人を選ぶとも言っていたな。事実あいつはこういった本格的に書いてありながらお笑いを入れ込んでいるものは大嫌いだったな。

「でも、お笑い感覚で歴史を学べるっていうのはいいわね。ちなみに新君が好きなシーンって?」

 確かにみやこの言う通り、俺はこれで三国志を学んでいる最中だな。楽しみながら勉強できる。これってやっぱり一番いいんだな。

「好きなシーンか。赤壁大戦で敵のスパイである龐統って人物がいるんだけど、その人が曹操に対して「お前の目は節穴かーっ!」って言うシーンかな」

 赤壁大戦。赤壁の戦いとも呼ばれたりもするが、たしか曹操軍対劉備・孫権連合軍の戦いだったか。船酔いする兵士が多いことに頭を抱えてた曹操の元に訪れた龐統が「船を繋いでしまえばいい」って言われてそうした結果、火攻めにされて返り討ちに遭うんだったな。
 今思えば、天候の変化を読んでいた連合軍の軍師による罠だったんだよな。

「ふ、節穴・・・?どうしてそういう状況になったの?」

 普通なら打ち首になっていそうな言葉だが、この作品の場合は魏志による話をなぞりながら、エンターテインメント感覚でボケを突っ込んでいる。そのためか、結構過激な物言いが多いんだよな。

「ああ、曹操の軍は船酔いしてる人が多くてな。その対策を龐統って人に尋ねたんだ」

「ああ、それで・・・。結構詳しいじゃない、新君」

 感心するみやこは俺に意外そうな視線を向けられる。

「そうでもない。全部友達からの受け売りだよ」

「でも、人に話すのにはそれなりに知識がないと無理よ?聞きかじっただけなら今みたいな説明は出ないでしょ?」

 確かに、言われてみればそうかもしれない。何かを説明するにしてもある程度の知識がないといざ尋ねられた時に答えることは出来ないしな。

「そうかもな。・・・で、ここまでずっと俺だけ話してたけど、みやこは何買ったんだ?」

「え、私!?」

 ここで話を振られるとは思っていなかったのか、みやこが驚いた声を上げる。と、丁度その時。俺たちが降りるバス停のアナウンスが入ったのだった。



 無事何事もなくバスを降りた俺たちは、早速家に向かって歩き始める。
 今朝よりは幾分か縮まった互いの距離は、みやこが大量購入したものが無ければそれこそカップルのように真横を歩いていたことだろう。
 互いに無言で冬空の下を歩く。
 太陽はとうに暮れ、空に瞬く星々とわずかな街灯だけが俺たちの進む道を照らしていた。

「で、さっきの続きなんだけど」

「え、あ。なんの本を買ったか、よね?」

 急に声を出した俺に驚いたのだろう、みやこが肩をびくりと震わせながら俺の顔を見る。

「ああ。・・・まさか、俺にだけ散々話させて自分は言わない、とかはないだろ?」

「う、ま、まあ・・・」

 しどろもどろになりながら口ごもるみやこ。そのまま少し歩くと、彼女の口が開いた。

「・・・Cat Warキャットウォー。外国人の作家さんの作品なんだけど――」

 そのあと彼女が口にしたのは、まず飼い猫だったラスティーという猫が野良猫と出会い、外の世界に憧れること。
 次にラスティーは飼い猫をやめ、自らの意思で野良猫たちが共に生きる一族・部族と呼ばれる集団に入り、成長していくこと。
 そしてラスティーが入った部族のほかに4つの部族があり、それらは互いに助け合い、時に敵対しながら暮らしていくこと。
 最後に、みやこの一番好きなシーンを口にした。ある理由から子を捨てることとなってしまった猫が別の部族に住む子供達と死の寸前に和解。涙を誘うシーンの後、天へ旅立っていったというものだった。

「なによ、滑稽でしょ?」

 そう口にするみやこに対し、俺はその内容に感動ししばらく口が開いたままとなっていた。――それほどまでに彼女の話した作品は、文学として素晴らしかったのだ。・・・俺の話した内容が、正直言って恥ずかしいくらいだった。

「いや。思わず感動した。なんか、俺が馬鹿に思えてきた。そのくらいだ」

 俺は感情とは裏腹に淡々とそう口にしてしまう。――いや、むしろ感情を乗せることすらみやこの話した作品に対する冒涜に思えていた。

「そう?その割にはなんだか感情が籠っていないけど?」

「いや、なんか、さ。下手なことを言うと、みやこの買った本に対する侮辱になりそうで」

 俺は正直に口にする。対するみやこは、そんな俺を意外に思ったのか目を丸くしていた。そして、彼女はフォローするように口を開く。

「新君のも面白そうだったわよ?それに、感動したうえで素直な感想を口にするのは侮辱ではないわ。むしろ応援よ」

「・・・そうだな」

 俺は静かに頷くと、みやこと共に真っ直ぐ家へと帰っていった。



「「ただいまー」」

 それからしばらく。無事家まで帰り着いた俺たちを待っていたのは、頬をぱんぱんに膨らませたひかりと、いつものようにしている祖父の姿だった。

「あーっ!やっと帰ってきたー!」

 居間へと姿を現した俺たちを見るや否や、光が弾かれた様に立ち上がり、相変わらず頬を膨らませたまま俺たちを睨みつける。

「お帰り、2人とも。・・・やけに大荷物じゃのう?」

 服に本。それから食品や雑貨などが雑多に入った袋を持つ俺たちを見て祖父が呟く。すると祖父は、食品たちが入った袋だけを引き取ると、そのまま台所へと向かっていった。
 そうして居間に残される3人。これから起こることは簡単に想像できた。

「なんで2人だけで行ったの?」

 ご立腹な光が俺たちを見て尋ねてくる。

「いや、声をかけたし揺すったりもしたけど、起きなかったのは光だろ?」

「お兄ちゃんは黙ってて!」

 なぜか光に叱られる俺。・・・一体何をしたというんだ?別に何もしてない・・・というか、今回は光の自業自得だろう。
 そしてそのまま、光はみやこにも同じ質問をする。

「光ちゃん、起きないんだもの。揺すっても逆さづりにしても」

「え、逆さづりにされたの・・・?」

 なぜかそのキーワードに反応する光。なお、そんなことはもちろんやっていない。声をかけて揺すっただけだ。まあ、今回は光の寝起きの悪さが災いしたと考えよう。

「ええ、新君に」

「はあ!?」

 俺がそんなことを考えていると、突然みやこから理解不能な爆弾発言が投下された。それを聞いた光は――

「お兄ちゃんに・・・?もうお嫁にもらうしか・・・!」

 なぜか興奮気味だった。・・・幼馴染だが、事務所に所属するようになってから光のテンションが時折分からなくなる。
 おそらく、何か悪影響を受けているんだろうな・・・。

「ていうか、そんなに遊びに行きたいんなら明日連れてってやるよ」

「本当!?じゃあ2人きりで、あんなことやこんなこと・・・」

 妹よ。お兄ちゃんは何を言ってるのか理解できないぞ。

「ちょっと、駄目に決まってるでしょ!?2人きりなんて・・・」

「なんでー?平子ひらこさんはお兄ちゃんと一緒に2人で出かけたじゃん!」

 みやこがそう口にしたが、光からの反撃によって口をつぐんでしまう。
 次第にエスカレートしていきそうな気がしたので、そこで俺が妥協案を提示する。

「じゃあ、明日呼べるだけ友達を呼んで遊ぶか?といっても、幸子ゆきこさんのバイト先で話すだけだけど」

 俺の妥協案に対し、光とみやこが少し考えたのちに頷く。

「ま、まあ、それなら」

「えー・・・。でも、お兄ちゃんと遊べるなら我慢する」

「なら決まりだな。じゃ、後で連絡取っとくよ」

 その後昨日と変わらない夕食を過ごした俺は、すぐに携帯で連絡を取った。
 その結果、参加できたのは林太りんたかい恭介兄きょうすけにい幸子さんの4人だった。
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